記憶喪失でも大丈夫ですか、勇者さま!?
ツバキと自由の翼
―――追放された。
どうして、追放されたのだろう?
魔族は虐げられる存在ではあるが、だからといって、追放なんてするだろうか?
結局、答えも出ず、記憶も戻らないまま、僕は翌日を迎えた。
「ちょっといいか?」
ツバキと一緒に朝食を食べていたら、ジンケさんがやってきた。
わざわざこんなところに来るなんて、珍しい。
それに、ツバキとの顔合わせも終わっていたはずと思っていたら。
「確認させてほしい、君はあの、ツバキ殿か?」
………はい?
「そうだとしたら、あなたは私を町から追い出すのか? 言われなくとも私は……」
「いや、違うんだ。ちょっと待ってくれ」
不機嫌なツバキにジンケさんは慌てふためく。
「俺は……いや、私は、あなたに我が軍の象徴となって欲しい」
「象徴、だと?」
ツバキの前にどっかと座り、ジンケは続ける。
「今では何とかまとめあがった自由の翼だが、これからの戦いに向けて、もっと多くの人員を迎え入れる予定だ。そのためには、目標っていうか、纏まるための分かりやすい印みたいなもんが必要なんだよ」
「……それが、ツバキですか?」
僕の声にジンケさんは驚いた表情で。
「なんだよ、ラナン。怖い顔して」
「ツバキから聞きました。昔、ツバキをこの町から追放したそうですね。なのに今更、町の為に象徴になって欲しいなんて、都合よすぎるんじゃないですか? なら、追放したことを取り消してください。僕がいない間、この町に入るにもとても苦労したはずです」
僕の言葉にジンケさんは苦笑を浮かべた。
「ああ、そうだな。その時はこんな風に誰かをまとめる力もなくて、上に言われっぱなしのタダの平民だったんだ。前領主……ツバキ殿の父君にあられるハルシェン様は、素晴らしい方だった。けれど、我々はわからなかったんだ。いや、知らなかったんだよ。……今の領主、ドルヴァスになるまでは」
ジンケさんは、頭を下げた。人の多い、この食堂で。それが意味することは……。
「……それほどまでに、この町は……大変なことになっているのか?」
困ったように憂いを帯びた瞳で、ツバキが尋ねる。
「ああ、税が上がったり、女子供を奪われたり、あいつのやりたい放題だ。俺達も流石にもう従えない。今じゃあ、ドルヴァス派以外は全て、俺の軍の関係者だ」
そういって、もう一度、ジンケさんは頭を下げた。
「都合のいい話だって、わかってる。でも……それでも俺達は、あなたの力が欲しい。この町を以前の街に戻したいんだ」
「そうではないだろう?」
ツバキはジンケさんの肩に手をやり、微笑んだ。
「以前よりももっと良くしてくれ。私が力を貸すのだからそれくらいしてくれないと困る」
「ツバキ……」
思わず呟く僕の前で、ツバキは笑みを浮かべた。
「初めてなんだ。私を……必要とされることが。それに、私もこの町を何とかしてあげたい。追放されたとはいえ、ここは私の故郷なのだから」
嬉しそうに笑みを零すツバキに、僕は何も言えなくなってしまった。
どうして、追放されたのだろう?
魔族は虐げられる存在ではあるが、だからといって、追放なんてするだろうか?
結局、答えも出ず、記憶も戻らないまま、僕は翌日を迎えた。
「ちょっといいか?」
ツバキと一緒に朝食を食べていたら、ジンケさんがやってきた。
わざわざこんなところに来るなんて、珍しい。
それに、ツバキとの顔合わせも終わっていたはずと思っていたら。
「確認させてほしい、君はあの、ツバキ殿か?」
………はい?
「そうだとしたら、あなたは私を町から追い出すのか? 言われなくとも私は……」
「いや、違うんだ。ちょっと待ってくれ」
不機嫌なツバキにジンケさんは慌てふためく。
「俺は……いや、私は、あなたに我が軍の象徴となって欲しい」
「象徴、だと?」
ツバキの前にどっかと座り、ジンケは続ける。
「今では何とかまとめあがった自由の翼だが、これからの戦いに向けて、もっと多くの人員を迎え入れる予定だ。そのためには、目標っていうか、纏まるための分かりやすい印みたいなもんが必要なんだよ」
「……それが、ツバキですか?」
僕の声にジンケさんは驚いた表情で。
「なんだよ、ラナン。怖い顔して」
「ツバキから聞きました。昔、ツバキをこの町から追放したそうですね。なのに今更、町の為に象徴になって欲しいなんて、都合よすぎるんじゃないですか? なら、追放したことを取り消してください。僕がいない間、この町に入るにもとても苦労したはずです」
僕の言葉にジンケさんは苦笑を浮かべた。
「ああ、そうだな。その時はこんな風に誰かをまとめる力もなくて、上に言われっぱなしのタダの平民だったんだ。前領主……ツバキ殿の父君にあられるハルシェン様は、素晴らしい方だった。けれど、我々はわからなかったんだ。いや、知らなかったんだよ。……今の領主、ドルヴァスになるまでは」
ジンケさんは、頭を下げた。人の多い、この食堂で。それが意味することは……。
「……それほどまでに、この町は……大変なことになっているのか?」
困ったように憂いを帯びた瞳で、ツバキが尋ねる。
「ああ、税が上がったり、女子供を奪われたり、あいつのやりたい放題だ。俺達も流石にもう従えない。今じゃあ、ドルヴァス派以外は全て、俺の軍の関係者だ」
そういって、もう一度、ジンケさんは頭を下げた。
「都合のいい話だって、わかってる。でも……それでも俺達は、あなたの力が欲しい。この町を以前の街に戻したいんだ」
「そうではないだろう?」
ツバキはジンケさんの肩に手をやり、微笑んだ。
「以前よりももっと良くしてくれ。私が力を貸すのだからそれくらいしてくれないと困る」
「ツバキ……」
思わず呟く僕の前で、ツバキは笑みを浮かべた。
「初めてなんだ。私を……必要とされることが。それに、私もこの町を何とかしてあげたい。追放されたとはいえ、ここは私の故郷なのだから」
嬉しそうに笑みを零すツバキに、僕は何も言えなくなってしまった。
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