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星戦の乙女

秋原かざや

星詠みの儀と星祭り

 煌びやかなステージの上で、5、6人の少女達が楽しそうに踊っている。
 足首をきゅっと占めて、ふんわりとした絹のズボン、肩口が見えるちょっぴり大胆なチュニック。
 手や首、髪だけでなく、足首にもたくさんの装飾品がつけられ、踊るたびに、シャンシャンと、
小気味良い音を響かせている。
 ―――ああ、これが、星祭りなんだ……。
 おっと、今、私の口、開いてたかな? いけないいけない。
 それにしても、皆の踊り、とっても上手だねぇ。
 私も体が丈夫だったら、皆のように踊っていたのかな?
 ふと、そんなことが頭を過ぎる。


 今は『星詠みの儀』というのが行われているの。
 星詠みの儀は、年に一度の王国のお祭り『星祭り』の始まりを告げる、いわば開会式みたいなもの。


 ……踊りが終わったら、ちょっと緊張してきたかも。
 星詠みの儀に熱を出さずに参加できたのは、実はこれが初めてだったりする。
 次は、王族が今年の抱負とかを言うんだけど……。
 どうしよう。私、こんな超絶大勢の前で、演説するなんてこと、初めてなんだからね?
 カンペもないし、こんなのお父様とお兄様、それに年下の弟もこなしていたって言われたら、もう後には引けないというか、なんというか。
 し、しかもっ!!
 私ってば、ずっとこの時期、熱出したりとかして、顔を見せることはなかった。
 ということは……私の顔を一目見てみたいって人が数多くいるわけで。


 ……とんでもない数に、なってるんじゃなかろうか。
 帰っていいですか?
 傍にいた幼馴染の護衛騎士に視線を向けるも、微笑まれるだけで、全く役に立たない。
 これはもう、腹を括るしかないか。
「気合だ気合だ気合だ……」
 うんっと、おまじないを唱えて、何とか緊張をほぐした……つもり。
「サティナ・ルル・リーデイル殿下~」
 名前を呼ばれる。
 震える手足を押し込めるかのように、私はなるべく優雅に立ち上がった。




 私はサティナ・ルル・リーデイル。
 リデイル王国の第一王女で、この王国の戦いを支える『神の巫女』って呼ばれてるの。
 私がいないと、皆が戦えなくなってしまうんだって。
 なんで、神様に選ばれたのか、どうして、戦いを支える神の巫女なんて、呼ばれているのか、いまいちまだわからないんだよね。
 体にぴったりとした専用のスーツに着替えると、不思議な液体が入っているポッドに身を沈める。
 この液体に入ると、ちょっとぴりっとするから、あまり好きではない。
 でも、私が入らないと、国を守るために戦う大型の人型兵器『キルシュバーン』は動かない。
「巫女、接続完了。キルシュシステム始動、バトルフィールド展開します」
 近くにいたオペレータの声が、遠くで響く。
「では、行ってまいります」
 あ、セイン兄様だ。セインレート・ロム・リーデイル、この国の第一王子で、一番の強さを誇る騎士でもある。私と同じ金髪はストレートで、翡翠のような瞳をきりりと細めている。
「お気をつけて、殿下」
 近くのコクピットポッドに乗り込むと、外ではセイン兄様の繰る碧のキルシュバーンが飛び出していった。劣勢だった戦況が、セイン兄様が入る事で一気に逆転!
 あっという間に帝国軍を全て撃退してしまった。
「やっぱり、セイン兄様強いな……」
 私はぼんやりとポッドの中で、セイン兄様が操作するキルシュバーンを見つめていた。




 そんな戦いも、あっという間に過ぎて。
 私は波打つような長い金髪を一つにまとめて、鏡でチェック。
 動きやすいように、半袖のチュニックに、ズボンとブーツを履く。
「うん、これでバッチリ!」
 支度が終わったその時、私の部屋の窓から、コツコツと何かを叩く合図が聞こえた。
 あっと、いけない!
 今日は弟のディルトラーン・ヒム・リーデイル、私はデイルって呼んでいるんだけど。
 その弟のデイルと一緒に、城下町の星祭りにこっそり潜入するつもりなの。
 だって、こんなに調子がいいのは初めてなんだもの。
 こっそり出かけても良いよね!
「ごめんねデイル、待たせちゃった?」
 窓を開けて、大きな木の枝に跨るデイルに声をかけた。
 ちょっと跳ねた赤い髪を揺らしながら、デイルはにっと笑みを浮かべる。
「ううん、そんなに待ってないよ。でももう1回叩いても気づかなかったら、大声出さなきゃいけないかと思った」
 くりくりのやや大きめな栗色の瞳を輝かせながら、デイルはさっと手を差し伸べてきた。
 いつもはぱりっとした騎士の服を着てるんだけど、今日は町に行くから、ラフな服にしてるみたい。
 それでも腰の剣は忘れずにつけてるみたいだね。
「さあ、サナ姉! こっち来て!」
「了解、ちゃんと受け止めてね!」
 よっとベランダから勢いづけて、デイルの胸に飛び込んだ。
「わわわっ! サナ姉、勢いつけ過ぎ! もう少しで落っこちそうになったよ」
「ごめんごめん。えっと、ここから飛び降りるんだっけ?」
「飛び降りたら怪我するよ。ゆっくり木を伝って降りて」
「はーい」
 デイルに手を貸してもらいながら、私はゆっくりと木から降りることに成功した。
 後はこのまま、町へ向かうだけだ。
「どこに行かれるんですか? 姫様」  
 そこにはちょっと怒り顔の幼馴染が立っていた。いつも私を陰から守ってくれる守護騎士、それが、アスト・グレインヒルだ。
 茶色い髪を揺らしながら、優しい青色の瞳を細めている。
 お兄様には及ばないけど、デイルとなら、良い所まで戦えるくらい、強いの! たぶん、私の国で5本の指に入るくらい強いんじゃないかな? 虐められたら、すぐに駆けつけてくれるし、私が困っているとすぐに飛んできてくれる、優しい彼だ。
 今、そんな彼に遭遇して、かなり困っていたりする。
「え、あーその、ちょっとそこまで……」
「はあ、お忍びで前夜祭見物ですか?」
「あはははは」
 アストに笑ってごまかしても……ダメ、かな?
 お父様イチコロの上目づかいをしてみるものの……。
「そんな顔しても誤魔化しても無駄ですよ。それにお二人だけで行くには危険な場所だってあるんです。それをお忘れなきよう」
「うううう、だってだって、今日を逃したら、行ける日なんてないと思うの! ねえ、ちょっとだけだから……本当にちょっと屋台で何か買って食べたら、すぐ帰るから、お願い!」
「誰がダメだと言いましたか?」
 アストがそんなことを言い出した。
「えっ? えっと……あれ? アストは止めに来たんじゃないの?」
「危険なところに行くのでしたら、私もお連れ下さい。それとも私を置いていくつもりですか、姫様?」
 デイルと顔を見合わせ、そして、ぱっと笑顔になる。
「皆で行きましょう!」
 二人の手を握って、私は祭りの広場へと駆け出して行った。


 屋台で買ったアツアツのソーセージを、ぱくんとかぶりつく。
「はふはふっ!!」
「ひ……いえ、サナ様、口から零れていますよ」
「はふ、ありがほ、アスト」
 ちょっと熱いけど、外で食べるソーセージはなんて美味しいんだろう?
 さっき食べたアップルパイも甘くて美味しかったし……あ、あのアクセサリー可愛いっ!!
「ちょ、サナ姉! せめて食べ終わってからにして! 品物が汚れちゃうよ」
「ふわ、ごめんっ! はふはふ」
 デイルに怒られちゃった。
 本当、お祭りって楽しいね! 前夜祭だから、そんなに人通りは少ない方だと言われてたけど、私からしてみたら、これでも結構、人が多いよ! 気を付けないと人にぶつかっちゃう!
 て、わわわわわっ!!
「きゃんっ!」
 気にしたとたんにぶつかるなんて、最低だー。
「大丈夫? 怪我してない?」
 手を差し伸べてくれるのは……たぶん、この町の人だ。
 ふんわりとした淡い緑色の髪で、元気そうな黒い瞳をしている。
 動きやすそうな格好をして……あれ、何か荷物を持ってる?
「うん、俺、配達しにこの町に来ているんだ。怪我してないようで、よかったよ。じゃあ、俺、急ぐから! またね、可愛いお嬢さん!!」
 私の落とした荷物を拾って、緑色の髪の彼は、あっという間にどこかへ去って行ってしまった。
「サナ様、歩くときは気を付けてくださいね?」
「はーい、アスト」
 そういって、次の店に入ろうとした時だった。
 ぐらりと体がふらついて。
「え、ええ?」
 意識が遠退いた。


「全く、二人もいながら、巫女の体調管理もできないのですか?」
 眼鏡を付けた白衣の先生。それが、私の担当医であり、国の開発担当でもあるエルハイト・シュレイン先生だ。
 私はエルハイト先生って呼んでるの。
「ごめんなさい……私が無理言ってお願いしたから……」
「反省しているのなら、いいですよ。とにかく、今日の薬を飲んで、ゆっくり休んでください。明日は大事な星詠みの儀があるんですから」
 いつもよりもいくつか薬が増えてる……。
「具合が悪いんですから、薬も増えますよ」
「ううう、苦いの嫌い……」
 アストにお水をもらって、私はエルハイト先生からもらった薬を全部、飲み込んだのだった。




 金髪の少女が大勢の観衆の前で、立派に演説を行っている。
『私は、この国を戦で支える『神の巫女』です。ですが……できるのならば、手と手を取り合って、人と人が争うことのない平和な世界にしたいと思っています。争いは憎しみ、悲しみしか生み出しません。早くこの戦いが終わることを、私は『神の巫女』として願います』
 その映像を見つめているのは、右目を眼帯で覆った男。
「ほう、良いことを言うじゃないか。だが、行動が伴わなければ、その願いも潰える、か……」
 リデイル王国の敵、ルードルク帝国皇帝だ。と、そこへもう一人の青年が入ってきた。
 銀髪を揺らし、オッドアイの瞳を冷やかに細める。
「父上、いえ、カイル陛下。お呼びですか?」
「シード、神の巫女をどう思う?」
 静かにカイル皇帝が尋ねると。
「敵国の姫です。我々が倒すべき国の姫。姫だからと言って、逃すつもりはありません」
「相変わらず手厳しいな、お前は。もう少し柔軟な考えを持ってほしいんだがな」
 カイル皇帝はそういって、席を立つ。
「さて……そろそろこちらも本腰入れていくとしよう。覚悟はいいな、シード」
「御意」
 即座に発せられた言葉に、カイル皇帝は満足げな笑みを浮かべた。

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