アール・ブレイド ~ソルビアンカの秘宝~

秋原かざや

第2話 荷物の行き先は

 アリサは迷路のように入り組んだ街を、縫うように進んでいく。
 混み合っている道に入り込んでも、ローラーブレードは壁を道にして進めるため、順調に目的地への距離を縮めていく。
 アリサの頭の中には、この町の地図がはっきりと浮かんでいる。
 どこをどう進めば、抜け道になるのか。
 どう進めば、効率的に荷物を運ぶことができるのか。
 幼い頃からこの町に住む者が、一番に会得するのは、迷子にならないよう道を覚えることである。ただ、もともと、この町は外敵から守るために作られた、迷宮要塞であった。その名残が、この町の城壁であり、迷路のように入り組んだ道。
 もっとも、空から飛んでいけば、迷子からいくらか脱却できるのだが……。
空飛ぶ車エアカーなんて、高価なものを私にくれるわけないよねー」
 なので、重力制御機構のついた、特別チューン仕様のローラーブレードがアリサの大事な仕事道具になっていた。
「それにしても、この住所、かなり遠いわね」
 思わず、手に持った荷物のラベルを確認する。
 店と対角線上にある正反対の場所に、それは位置していた。
 と、そのときだった。
「おーい、アリサじゃないか?」
「あ、ロット先輩!」
 そこに通りかかったのは、宙に浮かぶトラックを運転する、アリサの年上の同僚ロット。
 色黒の肌に短い金髪、碧眼。これだけ聞けば、素敵なイケメンを想像するだろうが、残念ながら彼はスポーツマンであり、ムッキムキの筋肉を持った三白眼の男性。
 笑みを浮かべても、逆に怖がられる方が多かったりする強面だった。
 それでも、根は優しい性分なのだが。
「アリサは、トランタ地区に行くのか?」
 アリサの向かう方向を見ながら、ロットは尋ねる。
「もしかして、先輩もトランタ?」
「ああ、ラストの荷物がトランタなんだ。なんなら、途中まで乗せてってやろうか?」
 イイ顔でロットは、親指を助手席に指し示す。
「乗るっ!! ありがとうございます、ロット先輩!!」
「じゃあ、仕事が終わったら、ミラクルパフェな」
「うっ……また、アレ食べるんですか?」
 ちなみに、ロットが言うミラクルパフェというのは、値段の割には巨大で甘くてくどいパフェだ。ロットはそれが好きで、よく食べに行く。
「まあ、あれなら安いですし、いいですよ」
「お、じゃあ、早く乗ってくれ」
 アリサはそのまま、すとんと乗り込み、勢いよくドアを閉める。
「じゃあ、さっさと行くぜ。ちゃんとシートベルトしてくれよ」
「はーい」
 ばちっとベルトを付けたのを確認して、ロットはトラックを空へと浮き上がらせた。




 数十分後。アリサ達は目的地周辺へと無事に到着した。
「先輩、助かっちゃいました。ありがとうございます!」
「そりゃ良かった。俺もさっさと済ませたら会社に戻るよ。後でな」
 頭を下げながら先輩を見送った後、アリサもさっそく、仕事に取り掛かる。
 とはいっても、後は目的地へと荷物を届けるだけなのだが。
「住所はここなんだけど……ここに人、いるの?」
 廃屋のようなボロアパートに、アリサはゆっくりと足を踏み入れた。
「こんにちはー、荷物届けにきましたー」
 そう言って、該当の部屋のドアを叩こうとして、アリサはその手を止めた。
「ふえ、開いてる?」
 そう、開いているのだ、数センチほど。
 アリサは数秒迷ったが、決断した。このドアを開けることに。
「あのー、荷物を届けにきまし……た……?」
 アリサの足が思わず止まる。
 そこには、数多くのチューブに繋がれた人型ロボットがいた。
 胸があるので、恐らく女性。
 ただ、足の部分が大量のコードで埋もれていて、よくわからない。
 と、アリサの声に反応して、そのロボットの瞳が開いた。
『ようこそ、資格を持ちし方よ』
「へ? いやいや、私はただ、この荷物を届けに来たんです!!」
 だからサインをと、アリサのペンを差し出す手が、動くロボットの腕に止められた。
 腕、いや、その手が指し示すのは、アリサの持つ荷物。
『それはあなたのものです。どうぞ、開けてごらんなさい』
「私のものって、だって、これは……あ、あれ!?」
 当初書かれていた人物の名前が、知らぬ間にアリサの名前に書き換わっていた。
 アリサが確認した時は、確かコルト・バウアという名前が書いてあったはず。
「い、いつの間に?」
『開けられないのなら、開けましょうか?』
「い、いえ、私もカッター持ってますから遠慮します」
 何かを感じたアリサは、自身のポーチからカッターを取り出し、包みの中を開けた。


「……って、これって……なに?」
 中に入っていたのは、不思議な色合いの石がはめ込まれた首飾りと。
「銀色の……筒? って、重っ!!」
 メタリックな、銀色の筒というか、運動会などで使うバトンのようなものが入っていた。
「カレイドスコープってわけじゃないみたいだし……これ何ですか?」
『資格を持ちし方よ。この場所に行きなさい。そして、大いなる遺産を受け取るのです』
 ロボットの手から、一枚のカードが飛び出した。アリサは受け取り、カードを見る。そこには、数字が並んでいた。アルファベットに二ケタの数字が4つ。


【DK42 66 92 35】


「だから、これって、何?」
『あなたが大いなる遺産を受け継ぐことを、祈っています』
「その、遺産っていうのは……」
 もう一度、ロボットに問いただそうとしたときだった。


 爆発音。
 何かが激しく爆発した音が、アリサの耳に飛び込んできた。
 近くではないが、そう遠くはない距離のようにも思える。
「な、何!?」
 急いで首飾りを自分の首にかけ、服の下に入れる。筒とカードは、自分のポーチに入れた。
 部屋を飛び出し、アリサが見たその先にあったもの。
「あ、あのトラック……ロット先輩っ!?」
 アリサはすぐさま、白煙をあげるトラックの方へと駆け出した。
 ロボットはそんなアリサの姿を見送ると、役目を終えたと言わんばかりに、瞳を閉じ、その機体を停止させたのだった。

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