アール・ブレイド ~ソルビアンカの秘宝~

秋原かざや

エピローグ アリサの手記

 ねえ、アールさん。
 あなたと会って、あんな冒険ができたことは、とても幸運だったと今ではそう感じています。
 そうでなければ、あの遺産も手にすることはできなかったでしょう。
 そう、あの時のことは、つい昨日のことのように思い出します。


「ねえ! あの岩って何っ!?」
 無事、入り口を見つけて(あの不思議な筒はパズルのような鍵でした)その内部に入ったら。
「ダンジョンにつきものの、トラップってやつですよ」
 後ろにでっかい岩が迫っているっていうのに、アールはとても落ち着き払っていた。
「そんなことはわかってるって! この前は弓矢が出てきたし、底なしのクレパスみたいなところもあったし、ここで本当にあってるわけ!?」
 と、アリサは叫びながら突き進んでいると、目の前に新たな横道があるのを見つけた。
「ここに飛び込むっ!!」
「ダメです、アリサ!!」
 あとちょっとのところで、アールの制止する声が間に合わなかった。
 しかたなく、アールもその後を追って。
「きゃあああああああーーーー!!」
「やっぱり、地底湖につながっていましたか……」
 デジャヴを感じながら、アールは出てきた入口へ、何かを放った。
 キュルルルルという音ともに、アリサとアールは間一髪、湖に落ちることはなかった。アールの放ったもの、それはワイヤーだった。
「……助かったわ」
「どういたしまして。でも、私の忠告も聞いてほしいですね」
「……了解」


 その後、いろいろありながらも、なんとか遺産があると思われる入り口にたどり着いた。
「さあ……その首飾りを渡しなさい」
 そこに待ち受けていたのは、蝶の仮面をつけた、あの男。
「ちょっと、蝶仮面オカマ、放しなさいよっ!!」
「うるさいわ! それに人のことをそんな風に言わないで頂戴! あなた、人質の自覚はあって?」
 そのやり取りに思わず、アールは笑みを零しながら。
「ほら、あげますよ。その代わり、アリサを返してください」
 首飾りを放り投げ、男はそれを受け取った。
「ちょっと、これだけじゃ、この扉、開かないじゃない!! 仕方ないわね。ほら、ちょっと腕、貸しなさい」
「痛っ!!」
 アリサの血を首飾りにつけて、扉のくぼみに入れる。
 すると扉が轟音を上げて、開いた。


「なんて、素晴らしいの……っ!!」
 黄金都と言っても間違いないだろう。所狭しと、黄金に染まった品物が置かれているのだから。
「もう、あんた達には用はないわ。さっさとどっかにいきなさい! ほら、あんた達も転送装置を早く設置して!! ここにある金銀財宝、全て持っていくわよ!!」
 仮面の軍団が変な装置を設置している間に、アリサは部屋の奥にみすぼらしい錆びた剣を発見した。
「ねえ、アール。あの人が言っていた遺産って、これだと思うの」
「奇遇ですね。私もそう思っていたところですよ」
 二人は顔を見合わせ、にっと微笑むと。
「んぐぐぐっ……」
 アールも試しに動かそうとしたが、動かせず。アリサにしか動かせない剣は、アリサの努力と根性で何とか、そこから引き抜くことができた。


「う、え………」
 とたんに流れ込んでくるのは、大小様々な過去の記憶。
 親から子、子から孫へと受け継がれる大切な知識と記憶がアリサの中に流れ込んでいく。あふれる涙を止めることはできずに。
「アリサ?」
「ううん、大丈夫。ちょっと重いけど、これ、持っていかなきゃ」
「了解、ここから出ましょう」
 そう二人が出ようとしたところに、転送装置から、いくつものモーターギアと呼ばれる巨大なロボットが転送されてきた。
「あら、あなたたち。何を持ってるのかしら? それも頂ける?」
 ゆっくりと迫ってくるモーターギア達にアリサは思わず息をのんだ。
「残念ながら、これは渡しませんし、私達も死ぬつもりもありません」
「ちょ、ちょっと、どうするの!? 相手はえっと、モーターなんとかってやつを出してきてるのよっ!?」
 剣を抱えながら、アリサがそう告げると。
「じゃあ、こちらもモーターギアを『召喚』しましょう。彼らがそうしたように、ね……」
「えっ!? でもそれって、装置がないと……」
 アリサの声は、アールの声にかき消された。
「我が声に応え、今、汝を召喚する! 出でよ、『カリス』!!」
「えええ!? カリスちゃんでも無理でしょ、この状況っ!?」
 アールの声に呼応するかのように、彼の足もとに不思議な魔方陣が展開される。
そして、現れたのは……。
「なにあの、ずんぐりむっくりした……ダルマのようなモーターギアはっ!!」
「これでも高性能なギアなんですよ。ほら、行きますよ」
「ふえええ!!」
 剣を抱えたアリサをさっと抱っこすると、そのままぴょんぴょんと飛び上がり、ハッチの中へと入っていく。
「こ、これって……」
 アリサは不思議な空間に声を失った。
 恐らくここにあるだろうコクピットは……思ったよりも広い空間で、操縦桿らしきものはなく、あるのは、先ほどあらわれた魔方陣と同じものが展開されており、そのうえ。
「ま、魔導書?」
「まあ、そんなものですよ。面倒なのでさっさと展開して行きますか」
「さっさと展開って……」
「あれが真の姿だと誰が言いました?」
「ふええええ!?」
 とたんに、ダルマのようなギアが変形して……騎士のような美しいギアに変化したのだ。その背には複数枚の光の翼と、巨大な銃、そして、ギアを守るかのように漂う光のビット。
「プログラム・ワイバーン、展開!」
 光のビットが無数のレーザーを放つと、それを掻い潜るように『カリス』は天井へと向かい。
「天井を開けます、いいですね?」
「いいわよっ!!」
 こうして、二人は無傷で生還したのだった。




 そう、あれから本当に何年の月日がたったのでしょう。
 私も年を老いました。
 だから、あなたにもう一度、お願いしたいのです。
 修理屋でもある、あなたに……。




「驚きましたよ、あなたにこのロボットの修理を頼まれるなんて」
 慣れた手つきで壊れたロボットを修理していく。
 ばちばちと小さな稲妻が走る。
「この子に新たな役目をあげたいと思って」
「また託すのですか?」
 そう尋ねるアールにアリサは。
「いいえ、それは他の者に頼みました。だから本当に別の役割をあげるのですよ。そのためにあなたを呼んだのですから」
 その応えにアールは笑みを浮かべた。
「大したことはできませんが、これで動きますよ。後は一日一回、充電器で充電すれば、永久に動きます」
 立ち上がり、アールはスイッチを入れた。
『資格を持ちし方よ。あなたがここにいるということは、無事、遺産を受け取られたのですね』
「ええ」
 動き出したロボットにアリサは微笑んで頷いた。
『では、また私は……』
「あなたは、私と共にいて欲しいのです。あまり無理の利かない体になってしまったから」
 アリサは車いすに座っていた。
 固くなった背を縮こませ、皺の深まった顔を晒しながら。
『ですが、私は……』
「マスターの命令に従った方がいいですよ。そうでないと、今度はあなたが壊れてしまう」
 アールがそう助言を与える。
「大丈夫です、あなたは何でもできますよ。彼女の求めるままに」
 アリサは手を差し伸べ、もう一度微笑んだ。
「私の手助けをしてくれないかしら? 一人じゃ寂しいのよ。『ロゼッタ』」
 その手を取り、ロボット、いやロゼッタと呼ばれた女性型アンドロイドは微笑んだ。
「イエス、マイロード」

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