アール・ブレイド ~ソルビアンカの秘宝~

秋原かざや

第1話 倉庫と呼ばれた場所で

 そこは薄暗い道だった。
 舗装されてはいないが、踏み固められたような道が続く。
 その道を照らすのは、宙に浮かぶ二つのひし形のクリスタルだ。
 この道を進む、『彼』が用意したもので、彼の少し前方を照らしていた。
 ミラーシェードを付け、長い銀髪を一つにまとめている。
 着ているジャケット、パンツ、ブーツは全て黒づくめの服装。
 そして、彼の腰には2本のショートソード、太ももには少しサイズが大きめの銃が取り付けられていた。
「確かここって、倉庫だって聞いたんだけど!」
 やや苛立った声で彼は叫ぶ。
 その足取りは早い。むしろ、その道を駆け抜けている。
 なぜなら。


 ヒュンヒュンヒュン!!


 彼の後ろを狙うかのように、次々と矢が放たれているのだ。
 その矢を彼は走りながら、避けまくっている。
「絶対、倉庫じゃないよね、コレ!!」
 そう言った矢先、がちりと何かを踏んだ。
「マジ!?」
 嫌な予感を感じる。
 矢がなくなったとたんに現れたのは。
 彼がゆっくりと振り向き、見たものは。


 岩。巨大な丸い岩が、こちらに。


「転がってくるってか!?」
 走って走って、逃げまくる。
「小麦粉の袋を二つ、取りに行くだけだって聞いてたのにっ!!」
 ふと、前方、左前に抜け道を見つけた。
「ここは、本当に倉庫なのかよー!!」
 すかさず、その横道に飛び込んで、気づいた。
「じ、地面が、ない!?」
 いや、正確には違う。
「地底湖!?」
 見事に彼は、その地底湖に勢いよく落ちた。
 ちなみに岩はどこかへ行ってしまったようだが。




 ひたひたと、水が滴る音が響く。
 あの倉庫……いや、罠だらけの洞窟から、彼が戻ってきた。
 着ていた服はずぶ濡れ。
「持ってきましたよ。言われた通り、小麦粉の袋を二つ」
 彼はそのまま、どさっと、依頼主の前にそれを置いた。
「ほう、アールさんや。あの中に入ったのかい?」
「ええ、驚きましたよ。今の時代、あんなのがいるなんてね。ああ、言われた通り、相手には何もしていませんよ。少々、寝てもらいましたが」
 くすりと、アールは笑みを浮かべる。少々、腹黒い笑みだったが。
「袋も濡れていないようだね」
「ええ、そういう依頼・・でしたから」
 アールに声をかけた依頼主……いや、フードを目深に被った老婆にそう告げた。
 傍にいた子供達がくすくすと笑い声を漏らしている。
「ほら、お前達。客人を風呂に案内しておあげ。いい湯にしてあげるのを忘れるんじゃないよ」
「はーい」
 笑っていた子供達がすくっと立って、アールを見つめた。
「凄いね、お兄ちゃん」
「途中でギブアップするかと思ったのに」
 そういう子供達にアールは、ふうっとため息を漏らすと。
「ただの倉庫だと言われてましたからね。それに」
 アールもくすりと悪戯な笑みを浮かべた。
「たまには、ああいうのを潜り抜けるのも悪くはない」
 それを聞いた子供達がきゃっきゃと声を弾ませる。
「こっちだよお兄ちゃん」
「気持ちいいお湯にしてあげるね」
 子供達に両手を引っ張られて、アールはやっと、息をつくのであった。

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