いろはな物語

秋原かざや

「へ」塀の裏で

 はあ……。
  ちょっと憂鬱になっちゃう。
  なんでこうなっちゃうかな?
  よかれと買ってきたお風呂用スポンジ。それは、旦那の愛用しているものと全然違うらしい。
  それで、私と旦那は大ゲンカしちゃって。


  こうして、私は塀の裏で体育座りして、ため息零してます。ううう。
 「どうして、これにはへちまが入ってないのよ」
  普通のスポンジさまに、そう言っても何も返さない。
  へえーなんて、言ってくれたら、少しは笑えたかもしれない。


 「はあ……」
  まだ私は塀の裏にいる。
  そういえば、暗いことを良いことに紛れこんだ、この塀の裏。
  どこの家だろ?
  まあ、どうでもいいけど。


 「やっと見つけた」
 「へっ!?」
  思わず変な声があがる。
  なんとそこには、懐中電灯を片手にやってきた旦那さまの姿が!!
 「へじゃないよ。こっちは心配したんだからね? もう夜中だし、思い当たるところも探して見つからなくて。警察だけでなく、兵士のみんなも駆り出さなきゃいけないかと思ったんだからね?」
 「……ご、ごめんなさい」
  素直に謝る声が出た。
  きっと、ここが寂しいからだ。誰かがへえって言ったような気がするけど。
 「じゃあ、さっさとこっちにおいで」
  そうだ、こんな寂しい所からさっさとおさらばだ!
  私はスポンジではなく、へちまブラシを買うと決めて。
  すぐさま飛び込んだ。
  両手を広げる、愛する旦那の元へ。 

コメント

コメントを書く

「その他」の人気作品

書籍化作品