いろはな物語

秋原かざや

「い」井戸と私といいこと

 井戸を眺めていた。
  否。
  胃がむかむかするので、偶然みかけた、井戸に顔を突っ込んでいる。
  マジ、気持ち悪い。
  井戸の中も、暗くて気持ち悪い。


  いいこと、なかったなぁ。
  思わず思う。
  まあ、うち、農民だし。
  たぶん、昨日食べたまんじゅうが悪かったんだと思う。
  武家の家の娘とかだったら、こんな風に思うことも、なかったんだろうな。
  そう思う。
  なんだか、悲しくなってきた。


 「どうかしたんですか?」
  へ?
  尋ねられて、振り返る。
  そこには、格好いい、武士様がいた。
  たぶん、18歳くらいのいい男だ。
 「あ、その……胃の調子がよくなくて」
 「それはいけない。丁度、腹に良い薬を持っております。私の家も近くにありますから、そちらにどうぞ」
 「え、でも……」
 「さあ、あなたのような美しい方が苦しんでいる姿は、見たくないのです」
  言われるままに大きなお屋敷の中へ。


  もしかしたら、私、ついてる?
  きっとそうだ。
  きっとこれから私は。


  いいことが起きるのだろう。きっと。

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