マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

五十一話 現場急行

 ジョナサンと槙原の2人が乗った特殊部隊用のジープは、警視庁の地下入り口を出て、荒れ狂う攻撃型アンドロイド達が押し寄せている商業ビルへと向かっている。
 あの慎重さと丁寧な運転テクニックを持つ槙原でも今回の運転は荒かった。
 ジョナサンは後部座席で、狙撃用ライフルの組み立てに取り掛かっている。


「準備できそうか! ジョナサン」


 槙原はそうルームミラーに写っているジョナサンに尋ねた。それに対して彼は荒い運転で軽い乗り物酔いになりそうにながら返す。


「それが怪我人に言う事か! 最高だ!」


 ライフルの組み立てが終わり、それを持って、車の天井窓を開け上半身と共にライフルを、外へと出した。
 ライフルが落ちない様に機関銃用の支えに、装着し、スコープで前方に写るアンドロイドを捉える。


「いたぞ! 距離600m! 近づけるか!」


「勿論だ!」


 槙原はアクセルを踏み、スピードを上げていく。
 ジョナサンはジープが通りやすくできる様に、周りの攻撃型アンドロイドを蹴散らしていく。右人差し指が引き金を引いていく勢いよく銃口から弾丸が放たれ、奴の堅い金属装甲に火花を生じ、爆破を引き起こした。生じた爆発の火炎と白煙が通り過ぎていくジープを包もうとする。
 ライフルから一旦、離れて煙を払い、再びスコープに目を通す。
 2人を乗せたジープはアンドロイド横切り、がら空きと化した道路を重いタイヤとアスファルトが織りなす走行音を響かせていく。
 弾丸を積めた弾倉は、引き金を引くごとに軽くなっていく。ジョナサンは、心の中で弾丸を放った回数をカウントし、弾切れになった事を瞬時で判断。
 新たな弾倉を装填し始める。
 彼はその作業をしながら槙原に訊く。


「おい、新垣の坊主から連絡は?」


「くそっ! まだだ!」


 槙原の冷静な口調と相対して動作は慌てている。 車内で響く音声案内が無情に響いていた。
 彼の言葉を聞いたと同時に装填を完了させて、ジョナサンは言葉を返した。


「何ぃ!? 何やってるんだ。あの坊主っ!!」


 再び彼は、ジープに向かって近づいてくる、アンドロイドを彼と槙原の技術で切り抜き、戦場と化しているであろう商業ビルへと近づいていく。
 しかし、難題はここからだった。
 ジョナサンは一旦、引き金を押し続けている左人差し指を停めて、スコープで奥の空を確認する。


「おい、槙原、あれ、見えるか……?」


「何を? あれは……」


 彼らのまっすぐと見つめる奥の空にその姿はあった。ヘリコプターとは違う全くの別物。
 ジョナサンは、スコープで正体を確認した。


「無人戦闘機かっ!」


 フロントガラスから見えた無人戦闘機の姿に呆気に取られていた。


「でかすぎる……」


 大きな無人戦闘機。それは戦闘機のおよそ2倍の大きさはある。両ウィングの先端には、大きなカメラが赤いレーザー線を発していた。右翼のレーザーが彼らの乗るジープに向けて照らす。
 レーザーから、標的の位置と現在地から標的の距離を選定。先頭に備えられた映像用カメラの青いレンズが光り、ジープに熱い視線を当てていく。
 カメラのレンズ、そしてレーザー線から分析していくものをデータ化し、戦闘機の中に備わった自立AIに経由。そのAIが送られたデータを基にジョナサンと槙原の場所を観測し行動を判断する。




『標的 距離:700m 攻撃可能範囲内』


 AIの判断はすさまじい速さで判断し、行動に移った。


『攻撃開始』




「これはっ……」




 戦闘機のウィングに備わったミサイルが、装填を開始した。AIの判断は瞬時に行われるそれは人間の決断よりも早い。


『スコーピオンミサイル装填。発射準備完了』


 ジョナサンは、止めていた人差し指を再び引き金にセット。そのまま彼は槙原に告げる。


「ありゃ、どう見ても俺たちの味方ではないようだぜ」


『スコーピオン発射』


 無人戦闘機の両翼が光る。光る先から空を引き裂くような爆音とロケット噴射によってできる特殊な飛行機雲がジョナサンらの元へと、駆け巡ってきているのが2人には理解できた。


「小型ミサイルっ!」


 槙原はハンドルを思い切り、力を入れて強く握りしめる。


「ジョナサン。Uターンするぞ!!」


「なっ!?」


 彼は、ブレーキを力強く踏んでスピードを下げながら、ハンドルを左に曲げて、車体をまっすぐから75度へとずらしていき、最終的には、完全な横の状態で停め、すぐさま同じ方向へとハンドルを切り始めていく。
 車の体勢が変わったおかげで、ミサイルは何とか2人の乗るジープの真上を通過しそのまま付近のアスファルトに着弾。大きな火炎が、近くのコンクリートと数台の車を飲み込んでいく。
 強い揺れがジョナサンを襲うが、それをゆっくりと体験できる場合ではなく、彼がハンドルを切ったと同時に、前方から後ろへと体とセットしていたライフルを戦闘機に向けた。


「くそっ! こんなひどい運転は久しぶりだ」


「じゃあ、あんたが運転するかい!?」


「お断りだっ!!」


 2人が小言の争いをしている間に、無人戦闘機は、再び小型ミサイルを装填しはじめ、先頭の大きなカメラが標的を補足しようとしていた。青いカメラレンズが光っている。


『ミサイル装填完了……標的:距離:500m 攻撃可能範囲内』




「それより、奴のミサイルが来るぞ。なんとかして避けろ」


「つかまってろよ」


 槙原が踏むアクセルによってスピードは大きく上がり始めていく。ジープが出す悲鳴は槙原の脳裏にはない。
 道端に落ちている瓦礫を踏み飛ばし、ジープは進んでいく。
 ジョナサンは一瞬、体勢を崩しかける。


「くそっ!」


 額から垂れる1滴の汗を拭い、後ろから追いかけてくる奴に対して、彼はライフルの位置を戦闘機のいる方向に変えて、そのスコープの焦点を合わせた。
 弾数はまだ5発。


「当たってくれ……」


 相手に不足はない。
 一発の弾丸を冷静に、タイミングの合うポイントで、放つ。銃口から再び赤い閃光と小さな火花。そして硝煙の香りがジョナサンの周りを立ち込めていく。
 弾丸は綺麗な一直線を描きながら戦闘機の左翼に着弾。着弾した瞬間、大きな爆発が発生した。火炎を纏いながら左翼は崩れ落ち傾き始めているのが、スコープから見て取れた。


『左翼破損』


「やったか!?」


 槙原は一度アクセルを止めてブレーキを踏み、ジープを停めて確認する。


『軌道修正不可、胴体着陸準備開始』


 無人戦闘機は、右翼でゆっくりと旋回し、ジープの方向に近づきながら、傾きながらの胴体着陸の準備を始めた。
 ジョナサンは再び、弾丸を装填し、飛行体に向けて銃を構える。


「おい、発進させろ! こっちに向かってくる!」


 槙原は、再びアクセルを踏み始め、ジープを発進させる。戦闘機は大きな機動音を上げながら、近づいてくるのが理解できた。
 ジョナサンは、続いて右翼に向けて引き金を引き、弾丸を放つ。
 弾丸は右翼のジェットエンジンに着弾し、大きな火炎が発生し、右翼はもはや機能が停止飛行体としての存在を失っていた。胴体がゆっくりとアスファルトに着き、胴体をコーティングしている鋼鉄がアスファルト剥がし始めた。


『右翼破損。軌道修正不可能。浮上不可能』


 砂煙と戦闘機の翼が覆っている火炎がジープに向けて近づいてくる。


「くそっ! まずいぞっ」
「もう一発いかが!?」


 ジョナサンは弾丸を青いカメラレンズに向けて発射。弾丸は唸りを上げて、青いカメラレンズの真ん中を貫いていき、途中で止まる事無く自立AIの基盤となる内臓サーバーに命中し、弾丸はそこで速度を失い停止した。


 彼は小さく呟く。


「……ブラスト……」


 速度を失った弾丸から、赤い閃光を発し、火炎がサーバーを覆い始めた。それとともにサーバーから電流が流れ、焦げ付きが始まる。
 AIはそれを防ぐことができない。ただ無情に、自分が停止するのを判断し、行動を止めることしかできなかった。


『サーバー破損 停止』


 AIの判断は不可能となり、分析と判断と共に行動が停止した。しかし、速度を保った戦闘機は止まることができない。
 ジョナサンは急いで弾切れになったライフルをリロードし始めた。ジープと燃え盛る無人戦闘機の先頭との距離まで20メートル。
 槙原は力強く、アクセルを踏み飛行体と距離を離そうと奮闘していくが、飛行体は、勢いよく、その大きな巨体もあって、スピードはジープよりも早い。
 ジープと接触するまで、時間はなかった。
 槙原はガタガタとなってるアスファルトをうまくハンドル操作しながら、ジープを走行させていくが、躓きは突然やってくる。
 ジープのタイヤがアスファルトの破片に躓き、片方のタイヤが捕まりながら、車体が左から宙に浮いた。


「ああっ!? まずいっ!!」
「なにぃ!?」


 ジョナサンは体を車内に引っ込めて、シートに捕まる。
 宙に浮いた瞬間、槙原の体はシートとシートベルトに体を固定されている為に、ハンドルを握りながらのジェットコースター感覚に襲われた。
 ジープの車体は、左の車体からそのまま右の車体も180度回転しながら宙を描いてアスファルトを引きずり始める。
 飛行隊はアスファルトをある程度引きずった後で停止し、それと同時にジープも引きずった後で停止した。


「うっ……」


 ジョナサンは目を閉じた。




「げっほっ……」
 ジョナサンの咳払いがジープの中で静かに響く。
 ジープの引きずりにより、アスファルトから発生した砂煙が彼を起こした。ジョナサンは自分の状況を確認した後で、槙原の安否を確認する。


「槙原?」


 槙原の体は、シートとシートベルトの固定により逆さに浮いている。


「うーん」


 ジョナサンは、助手席をゆっくりと匍匐で歩き、彼の肩を叩く。


「おい、起きろ」


「……あ、ああ……」


 槙原は目をつぶったまま、うなずく。彼の額の左が衝撃でぶつけたせいか赤く腫れていた。
 ジョナサンは、彼を固定しているシートベルトを彼の体を支えながら外し、ゆっくりと車内から外へと体を出していく。
 ゆっくりと窓ガラスが完全に割れた車のドアから体を出して完全に外へと出た時、周りの景色が見えた。




「やれやれ、こりゃ後始末が大変だろうな」


 ジョナサンはそう呟きながら、シガーケースから一本、煙草を取り出し、口に軽く加えた後でライターを煙草の先に当てた。
 槙原もゆっくりとジープから出て、腫れた額を押さえながら、立ち上がった。


「くそっ」


 額を押さえながらため息をついている槙原にジョナサンは訊く。


「で、結局、新垣から連絡は……」


 それについての彼の返答は、すぐだった。


「ない」




 ジョナサンは、車内に落ちているライフルと予備の弾倉を取り出し、槙原に告げる。


「現場まで、30メートルもない。急ごう」


「……ああ」


 まだ痛みが引いていないのか、槙原は少し遅れてから彼にいった。
 ジョナサンと槙原は現場へと向かう。





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