マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

二十七話 突入前夜

「能見さーん」
 帰路につく能見がかけられた声に振り向くとそこには見覚えのある大型バイクに跨った新垣の姿があった。
「新垣……。どうしたの? このまま総監達と食事に行くのかと思ってたけど」
「いや、俺も酒の席になりそうなんで断っちゃいました。唯一の足を職場に置きっ放しにするわけには行きませんから」
 そう言って新垣はメーターの真ん中にあるボタンを押した。するとバイクのボディの右半分が飛び出し、変形し、サイドカーになった。
「能見さんの家、この先のマンションですよね? どうせ帰り道の途中なんで、送って行きますよ」
 どこから取り出したのか、いつの間にか新垣は自分のかぶっている物とは別のヘルメットを右手でくるくると回していた。
 サイドカーに自分の荷物を投げ入れた能見は、新垣から受け取ったヘルメットをかぶりながら唐突に話しかけた。
「ねぇ、新垣。あなたはどう思う」
「何のことですか?」
「国崎の話よ。本当に彼が警視庁を襲ったのか」
「俺はどっちもありえると思います」
 能見がシートベルトを締めたのを確認して、新垣は再びアクセルをかけた。
「国崎は例のメールの件でまだ警視庁のことを疑っている可能性があるし、別件で上のバカ共が何かを国崎にやらかした可能性もありますしね」
 一応知り合いである魔導課おれたちが現れた瞬間に撤退した理由もそれなら納得できますし、と言いながら新垣は一時停止しながら道路を右折した。対向車がいるはずがない現状でも交通ルールを守るのは、癖からか警官がすぐそばにいるからか。
「あとは、第三者からの依頼とか」
「第三者……警視庁に反感を持っている相手か。でも、私達を敵に回す可能性のある依頼に手を出す必要性があるかしら」
「ありますよ、あいつには。フィグネリアを盾にとられれば、どんな依頼でもやる。それが国崎亮平です」
「……そんなに国崎はフィグネリアのことを大事に思っているの?」
「ええ。あれはあいつの姉貴の形見みたいな物ですから」
「……とんでもないシスコンね、国崎は」
 能見が呆れたようにボンネットに肘をつく。新垣はそんな能見を一瞬見てからゆっくりと速度を落とし始めた。
「シスコン、ですか。俺は実際の所別の理由があると思ってますけど」
「え?」
「……例えば、フィグネリアの中にとんでもないデータが隠されているとか。この世界の仕組みが根本からひっくり返るような」
 新垣の予想を聞いた、能見はヘルメットの奥で目を大きく見開いて固まった。
 そんな能見を気にすること無く、ひしゃげて活動を停止したまま放置された信号の手前で停止した新垣はハンドルから手を離し、軽く体を伸ばした。
「そこのマンションですよね? 能見さん家」
「あ……ええ」
 能見が慌てたようにヘルメットを脱ぎ始める。どうやら話に夢中になってしまい、自分の家に着いたことに気づいてなかったようだ。
「じゃ、また明日。例の作戦、成功させましょうね」
「了解です」
 そう言って軽く敬礼した後、サイドカーを収納した新垣はアクセルを吹かせて能見の前から去った。




 それから数分後。
 新垣は仮の住まいであるアパートの駐車場にたどり着いていた。アパートと言いつつも、壁も赤くペンキで塗られた金属製の階段もガタガタになっている廃墟のような建物で、住んでいるのも新垣ただ1人だけだが。
 バイクから下りた新垣は、ジャケットの右ポケットから携帯電話を取り出すとすぐに耳にあてて喋り始めた。
「あい、もしもし。今日はお疲れ様」
「んー? どうせ今日のは廃品処理みたいな物だったんだろ? いつもより動きが鈍かった……って、そうだ。お前偽フィグネリアの設定トチってたぞ」
「何が……って、呼びかけだよ、呼びかけ。フィグネリアは国崎のこと『亮平様』って呼んでるんだよ。おかげでA-Sが疑問抱いちまってる」
「すいませんじゃないよ。……まぁ、A-Sも確信を持ててるわけじゃないからどうにかなるだろう。あと国崎は電撃使いじゃなくて磁気使いだ、今度は気をつけろ」
「で、明日俺達が向かう予定の施設なんだけど旧新木場の……え、先週出払った⁉」
「でもそれっぽく見せるためにバケモノみたいな機械兵を設置した、って最悪だな……。でも暗号状にした極秘情報はこっそり残しといた? 本当か、サンキューな。で、どこから漏れた俺達の動きは?」
「……警察内部からのタレコミか。まだ内通者がいるのか……。名前は? 分からない? 了解。じゃあこっちで勝手に調べとく」
「国崎への対応? ……まだ検討中な感じだな。多分器物損壊の容疑で逮捕状が出ると思う。うん、うまく地下に逃がしてやってくれ。出来れば情報付きでな。俺も師匠の方には連絡しといたから」
「そうそう久我原さんのこと。明日にでも国崎達と接触してくれると思うけど」
「ん、分かった。じゃあそっちも引き続き頑張ってくれ、赤羽」
 バイクに寄りかかったり磨いたりしながら話していた新垣はそう言い残して通話を切った。
 そうして入口に入ってすぐの、「101号室」とかろうじて読める、マジックで書かれた表札のはめられたドアを開けた。中は外のボロボロの見た目とは正反対の、新築かと見間違うほどのキレイな部屋が広がっていた。実はこのアパート、外見はボロアパートだが中身は最新鋭の設備の入った建物である。新垣の使った以外の扉や階段はカモフラージュでしかない。
「雇うとはいえ、ボロアパート風のデザイナーズを1個丸々貸し与えるっていうのは……大物なのかバカなのか、判断しずらいな」
 そう苦笑しながら新垣は後ろ手で扉を閉めた。 





「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く