マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

二十六話 襲撃と見つけたゲンエイ

 ジョナサンの訓練が終了する頃。
 警視庁では、ある事件が起きていた。
「なんだよ、アレ」
 思わず新垣が声を漏らす。
「襲撃されたと言われていただろう」
 A-Sが落ち着いた口調でそう告げる。
 二人はそれぞれバイクに乗り、警視庁へと向かっていた。ヘルメットに取り付けられている通信機によって、二人は会話をしていた。
「いや、そうなんだが……ありゃないだろ?」
 煙が立ち上る先、警視庁にたどり着いた二人が見たのは。


 爆破された搬入口。
 そこから潜入しただろう、大小さまざまなロボットが入り込んでいる。
 警視庁の職員が対応に当たっているが、どうやらロボットの方が能力は上のようだ。
 内部に入れさせないようにするので精一杯な様子。
「先に行く。こぼれた奴は頼む」
「おい、一人で行くつもりかって、ああっ!!」
 国崎といい、A-Sといい、こう勝手に飛び出す者が多いのやら。
 思わず心の中で盛大なため息を零した後。
「ったく、仕方ないか」
 新垣もまた覚悟を決めた。


 A-Sは、そのままバイクでマシンの1台をぶっ飛ばしつつ、飛び降りた。
 それと同時に井伊から渡されたパスを見せる。
「関係者だ。こっちは僕が抑える。向こうを頼む!」
 職員にそう告げると、A-Sはバイクで半壊しているマシンを完全に沈黙化する。
「あー俺もそうですからー!!」
 遠くで新垣もついでにと主張。二人でつぎつぎと入り口にいるマシンを壊していく。
「いったい、誰が……」
 数体目のマシンを倒しているときだった。A-Sの目に何かの影を捉えた。
「もしかして、あいつがっ!?」
「ちょ、まだマシンが残ってっ! おいっ!!」
 周りには職員もいるので、力を絞りながら、戦っているというのに。
 A-Sを見送りながらも、新垣は目の前のマシンの殲滅を優先するのだった。


「待てっ!!」
 身体強化フィジカルブーストで飛び上がり、人影の前に立ちはだかる。
「っ!? フィグ……ネリア、だとっ……」
 A-Sの前にいたのは、メイド姿のアンドロイド。
『失礼、急いでいますので』
「行かせはしない!」
 剣を1本引き抜き、メイドにぶつける……が避けられてしまった。
『国崎様がお待ちしていますので、この辺で』
「だから、待てってっ!!」
 ぼんっという音と共に、あたり一面が煙に包まれる。
 どうやら、メイドは煙幕を張ったようだ。
「ちっ……逃げられたか。だが……」
 A-Sは顔を歪める。
「フィグネリア……あれは本当にフィグネリア、なのか……?」


 一方、新垣の所でも。
「こいつで、終わりだっ!!」
 面倒な戦いに開放されて、新垣は思わず顔を緩めた。
「皆さんもお疲れっしたー!」
 労いの言葉も忘れない。お陰でハイタッチするほどの絆を深められたようだ。
 ぱしっという良い音が響く中。
「んっ!?」
 新垣の目にも何かを捉えた。
「まさか、お前っ!!」
 深い挨拶もそこそこに新垣も駆け出す。人影だ。
 それも、見知った影。
「待て、国崎っ!!」
 声をかけるも、影はなおも走り去っていく。新垣はそれを追いかけていくのに精一杯だ。
 もうすぐ、国崎の影に手が届くというその瞬間。
 上空から何かが落ちてくる気配に気づき、新垣はすぐさま飛び退く。
「ま、まだ居たのかよ……」
 目の前には、新たなマシンが1体、立ちはだかったのだ。
 新垣は手のグローブを直すと、敵を睨みつける。
 マシンの奥に居る国崎が振り返り、そして、僅かに微笑んだように見えた。
「こら! すぐ倒すから、お前、待てっ!!」
 そんな新垣の言葉をよそに、国崎はそのまま走り去っていった。
 まるで、マシンがさも味方かのように。
「ああもう、どうして俺の周りはこんなやつばっかりなんだ、よっ!!」
 マシンの振り回すアームを避けて、頭部に手を当てる新垣。
「邪魔だ、退けっ!!」
 一気にマシンを蒸発させた。
 湯気が立ち上る中、新垣は国崎の後を追ったが、すでにその姿はなく。
 仕方なく、警視庁へと帰還したのだった。


「なんだと? 国崎とフィグネリアがいた、だと?」
 ここは魔導課のオフィス。
 そこでA-Sと新垣は井伊達に報告を行っていた。
 先ほどの襲撃では、怪我人が数名出たが、それ以上の被害はなかった。
 それもA-Sと新垣がマシン相手に戦闘したお陰であった。
「違う、メイドアンドロイドだ」
 井伊の言葉に、A-Sが即座に修正する。
「けど、そのアンドロイドが国崎様って言ったんでしょ?」
「それに、新垣さんが国崎さんを見たって……」
 能見と槙原が声を出す。
「国崎の方はわからないが、あれは……フィグネリアに似せた何かだ。声も似ていたが、フィグネリアが国崎様なんていうはずがない」
「だから、それは何で……」
 A-Sは面倒くさそうに答える。
「フィグネリアは国崎のことを亮平様という」
 その言葉に、ああと手を打つのは、槙原。
「けど、それだけでフィグネリアじゃないって保障はありません」
「フィグネリアだという確証もない」
 能見とA-Sの間に発せられる見えない電撃を、槙原と新垣は確かに感じたような気がした。
「二人ともその辺にしておけ。とにかく、引き続き、国崎とコンタクトを取るようにしよう。そして、本人らから話を聞こう。まずはそこからだ」
 この話はこれで終わりと言わんばかりに、井伊が続ける。
「それと、もう一つ朗報だ。今回の襲撃で、襲撃に使われたマシンがとある工場から来たことが判明した」
「工場? 何処なんですか?」
 能見の言葉に、井伊は静かに頷く。
「ここだ。今は廃棄された工場だな。ついでにいうと」
 井伊は地図を広げ、印のついた場所を指し示した。
「我々がこれから調査、襲撃する場所の予定でもあった」
「どういうことです?」
 槙原の言葉に井伊は口を開く。
「ハウリング・フェンリル」
 そう告げて、井伊は後ろの窓から外を眺める。
「それが我々の最初の作戦名だ。その作戦開始前に襲撃され、明確に指し示されるのも癪だが、この機を逃すわけにはいかない」
 その場に居た者達の顔を見回し、井伊は確かめるように告げた。
「やってくれるな、魔導課の諸君」
 井伊のその言葉に、皆、真剣な表情を浮かべたのだった。





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