マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

二十五話 VS -バーサス- training

―― ギガロポリス東京 警視庁特別訓練施設 ――


  訓練戦 第3戦 


 吉岡と開発スタッフは新たなプラズマをトラックから降ろしていた。
 ジョナサンは戦闘用のスーツに着替え、拳銃の手入れをしている。
 槙原は手入れするジョナサンに軽く話しかける。
「どうだ? 調子は?」
「ああ、今日は運がいい。宝くじが当たってな、今日だけで10万稼いだ」
「そうか! そりゃ、よかったな~だが、相手は運じゃなくて、ロボットだ。気を緩めないようにな」
「わかってるさ」
 吉岡はジョナサンに近づき、一言告げた。
「さて始めましょうか。 ミスターレイン?」
「ああ」
 ジョナサンは立ち上がり、ライフルを背負う。
 吉岡はジョナサンに訓練の説明を始める。
「では、訓練戦の説明をしましょう。ルールは簡単この廃墟化した市街地でプラズマと戦ってもらう事、どっちが先に勝つかを決める」
「なるほどな。それで俺が勝ったらいいわけだ」
「ええ、勿論、でもって我々はあなたにハンデをあげましょう! スタートはあなたが先で5分、待ちましょう」
 ジョナサンは吉岡のハンデ発言が気に入らず、少しイラッとしながら皮肉で返す。
「ほほう! 言ってくれるね~でもいいのかい? 俺達は既に2勝している。これで俺達が勝ったら、あんたのそのロボットは一生、倉庫で暮らす事になるが……?」
「結果は結果です。これで負けたら潔く引きますよ」
 吉岡は腕時計を見て、開発スタッフに合図を送る。
「おっと、時間だ。では、最高のバトルにしましょう」と吉岡はジョナサンに握手を示すが、彼はいつもどおりに拒否する。
「すまないが、握手は嫌いでね」
 吉岡はジョナサンの一言に軽く笑い、自分の両手を合わせる。
 踵を返し開発スタッフの下に向かっていく。
「じゃあ、先に行ってるぞ! 社長さんよ」
「ええ、どうぞ! お先に……」
 ジョナサンは吉岡の言葉に甘えて、スタート地点である廃墟の入口を通り中に入っていった。
 能見はジョナサンにエールを放つ。
「気をつけて!」
「へーへーどうも」
 ジョナサンは後ろの魔導課に手を振って中に進んでいった。


―― 訓練施設 訓練スタートから10分経過 ―――


「ったく! 何なんだよ! あのロボット! 吉岡の野郎、改造しやがったな!」
 ジョナサンは、廃墟の町を走り回っている。背後からはプラズマが執拗に追いかけて来ている。
 魔導課のメンバー達はモニターでジョナサンとプラズマの戦いをリアルタイムで観戦している。
 ジョナサンは、ずっとプラズマに向けて弾丸を何発も放つが全くビクともしなかった。
 ジョナサンはプラズマに対する戦闘方法を変える事にし、走りながら、愛銃のソーコムに弾を込める。
「見てろよ……」
 ジョナサンはプラズマとの距離の差を広めるべく、後ろの地面に向けて数発、弾丸を撃ち込んだ。
 モニター越しで吉岡はジョナサンの行動を読もうとしている。
「何をする気だ……」
 するとプラズマが打ち込まれた弾丸の地面に差し掛かった途端、地面からものすごい煙がプラズマを襲う。
「何だ!?」
 開発スタッフはいきなりの煙に対応する。
「画面を切り替えます」
 プラズマに内蔵されたカメラは、煙だけしか映らない。
 ジョナサンは後ろが煙によって見えなくなっているのを確認した。
「へっへ~! 案外できるもんだな」
『今の煙、何をしたんだ?』と槙原がトランスフォン越しから訊いてきた。
「俺の能力ってやつかな。弾丸を地面に撃ちこんで、小さな爆発を起こす。すると爆発によって地面の砂が煙と化したわけだ……」
『頭いいんだな。お前……』
「人生経験だよ。それよりアイツを狙えるポイントはないか?」
『ちょっと、待ってろ。今、いいところ探してやる』
 槙原はパソコンでマップ情報を送信し、ジョナサンの腕時計にマップホログラムを表示させた。
『この先10mに6階建ての廃墟ビルがあるそこに絶好のポイントがあるぞ』
「了解」
 ジョナサンは走り、ビルに向かっていく。
 吉岡と開発スタッフはプラズマの操作に手間取っている。
「何をやっているんだ!」
「おかしい。さっきから制御ができないんです」
 キーボードで操作しているが依然としてプラズマは停止した状態になり、動いていなかった
 するとプラズマのモニター画面がいきなり、レッドスクリーンとなり、髑髏のマークが表示される。
「これは……」
 開発スタッフ達は、操作しているが、依然としてプラズマの制御がきかず、画面は髑髏マークが表示されている。
「くそっ! プラズマの制御ができません」
「一体どうなっているんだ!?」
 するとパソコンの画面からメッセージが表示されている。


《Fun game has just begun. (楽しいゲームは始まったばかりだ)》


「なんだ!? これは?」
 メッセージは続いて表示される。


《You do not enjoy it more? (もっと楽しんでみない?)》






 魔導課のメンバー達も吉岡達が焦っているのを見て、大変な事態に瀕しているのを気づいた。
「何か大変な事があったみたいですね……」
 吉岡は魔導課の方に近づいた。
「この訓練戦は中止だ」
 この一言を聞いた能見は吉岡を問い詰める。
「ちょっとどういうことよ!?」
「どうしたんです?」と井伊は吉岡に訊くが、吉岡は焦りながらも理由を述べなかった。
「いえ、ちょっとしたトラブルが起きましてね……このゲームはノーゲームに……」
「……ほう、そうなれば、あなたの会社の製品を今後導入するのは、危ないと判断しま……」
 井伊が発言している時に大きな爆発音が訓練施設をとどろかせた。
 大きな爆発音がなった方角には、警察庁や警視庁のある桜田門付近。
「何だ?」
 井伊の電話に連絡がかかっている。相手は警視庁の警備部からだった。
「失礼」
 井伊は電話に出る。
「私だ」
『井伊総監! 大変です。警察庁が襲撃されました!』
「何!? 警察庁が!?」
 魔道課のメンバーは井伊の言葉に、驚く。
 能見は急いで、警察庁の方に電子双眼鏡で確認するが、正確に判断できず、うっすらと警察庁の方から白煙がのぼっているのが分かる。
「大変!」
 井伊の頭には苛立ちが立ち込めている。
「襲撃か! クソ、我々が訓練している時に起きるとは。新垣、A―S、急いで君たちは警察庁に向かってくれ!」
「了解!」
 新垣とA―Sの二人は急いで、バイクに乗り込み警察庁へと向かって行く。
 槙原は、急いで、ジョナサンに連絡をするが、ジャミングが入り、連絡が取れない。
「くそ! なんで連絡が取れない!」
 井伊は吉岡に訊いた。
「吉岡君、訊かせてくれ。どういう事が起きているんだね?」
 吉岡は、魔導課のマップモニターに写るプラズマの画像を見て一言、呟いた。
「モード変更だ」
「えっ?」
「訓練モードから実戦モードに移行した。止めるには動力源を破壊するしかない……」
 魔導課及び吉岡達が混乱している中でジョナサンはライフルのスコープでプラズマの動向を捉える。
 プラズマは依然として動いていない。
「どうしたんだ? あのポンコツ。さっきから動いてないな……ん?」
 スコープ越しから、プラズマが再び動き出したのを確認した。
「動き出したか……」
 スコープから見てみるとプラズマは、辺りを見渡している。
 ジョナサンは、引き金に人差し指を当てようとした時、遠くから弾丸が放たれる轟音がジョナサンの耳に聞こえ、左から風を切る感覚をした。
 弾丸はプラズマのアンチマテリアルライフルからだった。
「マジかよ!?」
 ジョナサンも弾丸をプラズマに放つ。弾丸は、プラズマの肩に当たって爆発するが、びくともしていない。
「くっそ! アンタレス材が、厄介だな。どうやって破壊するかだな」
 プラズマはさっきの一発でジョナサンがどこにいるかを把握し、攻撃を行う。
「まずい!」
 ジョナサンは急いで自分のいるビルのフロアから脱出をはかる。
 プラズマはロケット弾を撃ち、ビルを破壊する。
 ジョナサンはフロアの廊下を走って勢いをつけて、隣のビルに飛び込んだ。
 爆発に巻き込まれずに済んだが、プラズマが近づいてくるのを地面の揺れ音で感じている。
音はどんどん近づいて、中へと入っていく。急いでジョナサンは走ってフロアの階段を駆け下りていくが、感動とは言えない再会が待っていた。
「嘘だろ」
 プラズマとの再会。プラズマはジョナサンの胸ぐらを掴み、力強く正面に向けて投げ飛ばした。
「うわっ!」
 ジョナサンの体は柱にぶつかり、静止した。
 ゆっくりとプラズマは、倒れているジョナサンに近づいていく。
「うう、う、く、くそ……」
 再びプラズマに拳銃の弾丸を何発も発射させるが、びくともしていない。
 ジョナサンは立ち上がり、後ろを確認しながらゆっくりと逃げる。
「別のポイントで攻撃を仕掛けるか。でもどうすれば……そういや、近くに使われていないスクラップ工場が……やべっ!」
 プラズマは、標的であるジョナサンに定めて両腕のマシンガンを乱射してくる、弾丸の雨が押し寄せる中、走りぬけ、工場へと向かう。
 ジョナサンは工場に入り、プラズマに対して何か使えないか物を探す。
「これは、もしかしたら使えるかも……」
 妨害にあいながらも槙原、能見、井伊の三名はジョナサンのモニターで観戦しているが、焦燥している。
「このままではジョナサンが負けてしまう……」
「なんとかできないの!?」
「今、やっている!」と吉岡は言うが、一向に元通りになることはならない。
 プラズマは依然として暴走している状態で、ジョナサンの熱を感知しながら、工場へと向かった。
 プラズマは工場に入り、ジョナサンの熱を感知し、ゆっくり進んで行く。
 プラズマが来たことを確認し、ジョナサンは挑発する。
「おい! 俺はここだ! 来いよ! ポンコツ!」
 ジョナサンはボイラー室へと向かい、プラズマが追いかけてくるのを待つ。
 プラズマ自身、何かに感づいたのか走ってくる事はなく、臨戦態勢の状態でマシンガンを何発も乱射しながら、ゆっくりとボイラー室へと向かう。
 ゆっくりとプラズマが来る間に、ジョナサンはボイラー室のパネルルームに隠れ、中の機械が使えるかを確認する。
 その中でも、目に入ったのが、使われていない蒸気コントロールシステム。
「コイツは使える……」
 ジョナサンは、システムを起動させて、蒸気を発動させる。そのまま蒸気の勢いを最高にさせていく。プラズマはゆっくりとボイラー室へと入り、辺りを見渡してジョナサンがいないか確認しながら歩いていく。
 ジョナサンは、蒸気の数値が上がっているを確認し、ライフルを構えた。
 標的のポイントは、蒸気のバルブ。プラズマがバルブ付近に近づくのを待ち、待機する。
「さぁ、もっと近づいてこい。ツラを拝ませろ」
 プラズマがバルブに近づいた瞬間、ジョナサンはライフルの引き金を引き、バルブを吹き飛ばす。
 吹き飛ばしたバルブの位置から蒸気が勢いよく出て、プラズマに当たる。
「やった」
 ジョナサンはプラズマの天井にを見て確認する。そこには火災対策用のスプリンクラーがあった。
「もしかしたら……」
 急いで、スプリンクラーの装置を作動させ、大量の水をプラズマに当てる。
 モニター越しで、槙原達は、ジョナサンの動きを見ている。
「何をする気だ?」
 ジョナサンは、再びライフルをプラズマに構え、スコープを見つめる。
 感度良好。人差し指を引き金に合わせた。
「不良品だったな。ポンコツ」
 引き金を引き、弾丸はプラズマにめがけて発射され、撃ち抜いた。
 プラズマの体の真ん中にはポッカリと穴があいている。
「もう一発」
 引き金を引き、今度はプラズマの頭に当たり、ライフルをしまった。
 とどめの一発!!
 ジョナサンは、指を鳴らすとプラズマの頭が大きな炸裂音を立てて、爆破する。
 訓練終了。
「これで顔を拝まなくてすむ」
 プラズマが爆発した後に、槙原の大声がジョナサンの耳を襲う。
『ジョナサン! 大丈夫か? ジョナサン!』
「うるさい! 聞こえるさ。吉岡に伝えてくれ。数十億の商品が塵になったって……」
 吉岡は少し安堵しながらも、頭を抱える結果を聞き、近くの椅子に座った。
『でも、よく倒せたな。どうやったんだ?』
 ジョナサンはタバコを取り出しながら答えた。
「ああ、簡単だ。理科か科学の授業で見なかったか? ほれ、金属疲労ってやつだったかな。高温の熱を金属に当てて、すぐに水を当てて、すぐに衝撃を当てるとその金属がもろくなって崩れるっていうの……」
『なるほどな」
 槙原は頷いて理解した。
「とにかく少し休憩をくれ。一服したい」と言ってジョナサンはライターの火をつけ、近くの壁にもたれかかる様に、座った。
「ラッキーストライク。今日はついてるな」
 煙をふかしながら、ジョナサンは軽く笑みをこぼしていた。



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