マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

二十三話 太陽の片鱗

「しつれいしまーす」
「んー」
 総監室からのんびりとした感じの返事が聞こえると、新垣はドアノブをひねって中へと入っていった。
「どうした、新垣?」
「高月警視正の家で見つかったデータがひとまずまとまったので。報告書です」
 報告書には連絡履歴や高月の家から見つかった白骨遺体の身元も書かれていた。
「……高月のDNAと一致したか。しかも死後一年か……」
「あの事件があった時とほぼ一致してますから、殺してすぐに入れ替わったと見た方が妥当かと。なんで、魔導課の機密情報の大半が黒島側に流れていた可能性があります。高月警視正は魔導課容認派でしたから」
 井伊は自分の側近にはあまり隠し事をしていなかった。そのことを考えると自分達が秘密だと考えていることはほとんど相手にバレてる方が良い。
 新垣は黒島の名前がずらずらと書かれている連絡履歴を見ながらつぶやいた。
「で、気になる名前が見つかったんですね」
 そう言って新垣は赤ペンでしるしをつけた自分用の書類を見せた。
「豊田 雅史……?」
「調べたところ、吉岡の所の技術班に所属している男だとわかりました。ちなみに生前の高月との関わりは今のところ見つかってません」
 井伊は怖い顔でその名前を見つめてから、思い出したように言った。
「……そういえば、次の相手は君だったな」
 すると新垣は口元に笑みを浮かべた。
「わかってますよ。多分今回も訓練用という名の実戦機体相手でしょうね」
「……黒島と繋がってる可能性が高い者相手に、信じるのは無駄、というわけか……」
「そういうことですよ。……例の抗議も適当にあしらわれたそうですし?」
「……地獄耳だな、お前は」
 井伊が呆れたようにつぶやくと、新垣は軽く息を吐いて言った。
「外にそういう話が大好きな友人がいるんで」


---


 そんなやり取りから3日後。
 例の屋外場にて新垣はプラズマの前で軽くストレッチをしていた。
「では、そろそろ大丈夫ですか?」
 吉岡が井伊に確認をとる。新垣が右腕を上げたのを見て井伊は頷いた。
「それじゃあ、お願いします」
 吉岡が言った瞬間に横にいた技術スタッフがパソコンでプラズマの起動システムを入力した。
 プラズマの、人間で言うところの目の部分に光が宿る。そして背負っていたライフルを構えた。しかし新垣はのんびりと、全く緊張感がない様子で言った。
「そっちが先攻で良いですよー」
「……舐めてくれてますね。太陽だかなんだか知りませんが……」
 プラズマのライフル銃が電気弾……ではない物を発射した。新垣は2、3歩横に動いてそれを避けた。弾はそのまま床にめり込んだ。
 それの正体を自らの能力をA-Sはしっかりと見届けていた。
「……ゴムじゃない、実弾だ」
「ま、まさか、あいつらまた人為ミスを装って……!」
 能見が吉岡達の方を睨みつける。しかし吉岡達は平然と座って眼下の闘いを見ていた。
「……あいつら、一回シメてやるか」
「やめてください能見さん! ここで問題を起こしたら訓練どころの騒ぎじゃなくなります! それこそ上層部の思うツボです!」
 立ち上がろうとした能見の体を必死に槙原が押さえつける。
 そんなことが行われている間に、プラズマはライフルを捨て、左腕に内蔵されたマシンガンを取り出していた。
「では、こちらも攻撃させていただきますか?」
 そう言って新垣が指を鳴らす。するとプラズマの周りの空気が急に歪み始めた。
 しかしプラズマの見た目に変化は無く、すぐさまマシンガンを撃ち始めた。
「パルスとプラズマは機械の暴走した時に発する高温状態でも活動できるように、装甲にはアンタレス材を使用しています。1万度の熱に耐えられる機械に、熱使いは通用しませんよ」
 吉岡がしたり顔で説明する横で、A-Sは真顔で言った。
「……たぶん、銃弾もアンタレス材で作ってるね。あの熱の中で撃たれてるのに全く形状が変わってない」
「……そんな銃弾が開発されたなんて聞いたことがなかったな。銃弾だけは導入した方がいいんじゃないか、アキヒト?」
「それだけは検討するよ」
「何をおっしゃっているのですか? 銃弾もただのゴム製ですよ……人為ミスが起きてなければ」
『あのー』
 井伊の耳についていたヘッドホンから新垣の声が聞こえ始めた。
「どうした? 足がつったとか何か問題が起きたか?」
『いや、もうそろそろいい加減ぶっ壊していいですか? プラズマの実力とか、ジョナサンさんや能見さんに充分見せられたかなと思って』
 マシンガンの猛攻撃から逃げ回っている男から放たれている言葉とは思えない言葉に吉岡の顔がみるみる赤くなる。それを無視して井伊はジョナサンと能見に声をかけた。
「どうだ? もう充分か?」
「とりあえず、大丈夫だ」
「私は、もうこれを見ること自体不愉快なのでさっさと壊してもらいたいです」
「だそうだ。さっさと本気出せ」
『りょーかい』
 それと同じタイミングでプラズマがマシンガン攻撃をやめて、右腕のランチャーを構える。すると新垣の顔が曇った。……別の意味で。
『あー、まだこれがあったか。見ます?』
「構わん。さっさとやれ」
「……とことん舐めてますね。いいでしょう、最新の兵器の怖さを身をもって体感しなさい!」
 吉岡が大声をあげながら右手で新垣を指差す。その横で技術スタッフが猛スピードでキーボードを打ち始める。
 そして、技術スタッフがエンターキーを押すのと同じタイミングで新垣が右手で指を鳴らした。








「…………え?」
 吉岡が腑抜けたような声を出す。
 プラズマはランチャーを発射することなく、活動を停止させていた。
『一丁あがりです。たぶん工場に持っていかないと直りませんよー?』
「ぎ、技術班、行くぞ!」
 吉岡達が慌てて場内へと降りる階段がある方へと走る。新垣はジョナサンが下ろしたロープに掴まって魔導課の面々のいる席へと上がっていった。
「ナイスファイト」
「どうも」
 井伊と新垣が軽くハイタッチを交わす。そんな2人を残りの4人は複雑怪奇な目で見ていた。
「……新垣。君は何をしたんだ?」
 4人を代表してA-Sが口を開く。すると新垣は軽く両肩を回しながら答えた。
「中の電子基盤とか銅線を溶かしたんですよ。吉岡は装甲はアンタレス材製って言ってましたけど、中身までアンタレス材で作ってるとは言ってませんでしたし。俺の能力は物の内部だけに熱をかけることぐらいお茶の子さいさいですし?」
 場内から悲鳴があがる。その方向に視線を移すとヨシオカの技術スタッフが装甲の中を開けた瞬間に大量の湯気が出てきたのが分かった。
「アンタレス材を銅線みたいに自由自在に曲げられるように加工するとか、電子基盤に用いれるようになってたらこんな時代でもニュースになってなきゃおかしいですし? ま、そう考えたら簡単でしたよ」
 そう言って新垣は軽く笑った。




 魔導課2勝目。勝ち越しまであと、1勝。 





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