マシン・ブレイカー ―Crusaders of Chaos―

秋原かざや

十七話 作戦:時間稼ぎ

 モールが地中を猛スピードで三人のもとに近づいている事を大きな地響きと地面の揺れでジョナサンは感づいていた。
「何をボケーっとしてんだ!? 俺が時間を稼ぐ! 早く行け!」と新垣と能見に叫んだ。
「頼んだぞ!」と新垣は伝え、能見と共に廃墟へと入って行った。
 ジョナサンは、新垣達が廃墟に向かっていったのを確認した後で、車のトランクから、3丁の銃を取り出した。ライフルを背中で背負い、拳銃をホルスターにしまう。
 左耳に遠隔カメラ付き通信用のトランスフォンをつける。
「さてと、お手並みを拝見させてもらおうか。ニホン産!」
 すると先制攻撃は、相手からだった。地響きと共に、激しい振動を起こし、大地に地割れを起こす。
「この揺れは!? まずい!?」
 ジョナサンは、走って、車から離れていった。
 車はモールが起こした地割れによって、大きな音を立てて右車体から地下に転落していく。
「クソ! 足がなくなりやがった」
 ジョナサンは左右のホルスターから改造されたソーコムを取り出して、地中めがけて弾丸を発射させる。
 赤い弾丸は地中へと着弾した。
「出てこい。クソモグラ!」と言って地中で赤い弾丸が爆発するのを確認した。それと同時に爆破した地中の近くから、大きな音を立てて、外に物体が数体、飛び出してくる。
「ありゃ、一体? おい!! 槙原! 聞こえているか?」
『ああ、聞こえているよ。にしてはデカイ花火だな』
「そんなことを言っている場合じゃない! 何だ? 俺の国の奴よりでかいな!」
 槙原はジョナサンの遠隔カメラから送られてきた。モールの画像を下に解析をすすめる。
『コイツは地底攻撃用モグラロボットの《モーフィアスモール》だ。ほとんど頑丈な設計してあるぞ。大丈夫か!?』
「ちょっと待っとけ。粉々にしてくるから」
 ジョナサンは、モーフィアスモールの出現位置を確認して、動き回りながら一体ずつ攻撃していく。
 まず、左に2体。
 ジョナサンは、襲いかかってくるモールに近づきながらソーコムの引き金を引き、弾丸を一発一発ずつ的確に当てていく。
 左の2体に続いて、右から一体のモールが飛びかかってきたが、ジョナサンは後ろに身を引いて回避し、瞬間的にモールの片脚をつかんで宙に投げ飛ばして、弾丸を放った。
 宙に浮いたモールは赤い弾丸をくらい、回路がショートし、電気を放ちながら地面に叩きつけられる。
「このクソモール、何体いるんだ!?」
 次に背後に2体。ジョナサンは気配を感じながら、モールの姿を見ずに、拳銃を背後に向けて撃ち込んで沈める。
 続いて前から飛びかかってきたモールをしゃがみこんで回避し、下からモールに撃ち込んでいく。
 それぞれの赤い弾丸はモールの胴体を貫き、小さな爆破を起こさせた。
 撃ち損ねたモールが背後から襲いかかってくるが、回し蹴りでモールを蹴り飛ばし、止めの一発をぶつけた。
「これで終わりか……」
 そう思っていたのもつかの間、親玉と思われるモール2体が地中から出てくる。モールはそれまでのモールより何倍の大きさだった。
 相手の距離まで200m。ゆっくりと近づいて攻撃をしようとうかがっているのが分かった。
 ジョナサンはソーコムをホルスターに戻し、背中に背負ったライフルを構える。
「槙原。ここの風速は?」
 槙原はパソコンのキーボードを打ちながら、風速情報をジョナサンに伝えた。
『左に8mだ』
「了解」
 ジョナサンは槙原から伝えられた風速情報をもとにライフルの標準を合わせる。
 モールが標準にあった瞬間、ジョナサンは引き金を引いた。
 ライフルから大きな狙撃音を立てながら、モールに向けて弾丸が放たれる。
 弾丸は一体のモールの体を大きく貫き、大きな火炎の球体を作り上げた。
 残り一体。先ほど貫いたモールと同じ大きさのモールをスコープ越しで探すが、見えない。
「どこに消えた!?」
 その瞬間だった。ジョナサンは下から吹き飛ばされ体が空中に浮かんだ。
「クソ! 真下だったか!」
 モールがジョナサンの真下から現れ、モールがジョナサンの体を引き裂こうと構えている。
「よし! 歯を食いしばれぇぇぇぇ!」
 空中でライフルを構え、真上からモールの脳天めがけて弾丸を乱射する。
 モールは赤い弾丸によって頭部から胴体にかけて貫いていった。
 モールは大きな爆発を発し、周りを大きな爆風が覆う。
 ジョナサンの体は、爆風によって吹き飛ばされ、柔らかい砂の地面に、倒れた。
 柔らかい砂がクッションとなり、ジョナサンの体を守った。
「助かった……」
 左耳から槙原の声が聞こえていた。
『ジョナサン! ジョナサン! 大丈夫か?』
 ジョナサンは立ち上がり、近くに落ちていた自身のライフルを背中にかけた。
 戦闘スーツのズボンポケットから煙草を一本取り出し、煙を蒸す。
「ふう~。カリカリにしてやったよ」
 槙原は安堵し、ため息をついた。
『やれやれ、なんとかなったな。それより、何で二人を先に行かせたんだ?』
 ジョナサンは、槙原の質問に少し黙ったが、すぐに答えを見つけ槙原に言った。
「国崎の事は、俺にはよく分からない。勿論、どうしてやることもできない。だが、新垣達を援護する事はできる。そうだろ……だから国崎の事はあいつらに任せて、俺はその援護に回る。そのほうが良いと判断したんだ」
『なるほど。だから時間稼ぎに回ったわけか』
 槙原は納得し頷いてジョナサンの答えを聞いていた。
「あいつらなら何とかするさ。それより、マップを転送してくれ。新垣達の援護をする」
『わかった。ちょっと待ってくれ』
 槙原は新垣と能見の現在地の座標をジョナサンの腕時計に転送した。
 ジョナサンは腕時計のボタンを押し、転送された座標を示す。
「何だ。結構、進んでいるじゃないか。槙原、この二人を援護できるポイントはないか?」
『ああ、ちょっと待て。絶景のスポットを用意するから』
 槙原はパソコンから廃墟の地図と新垣達の現在地、ジョナサンの現在地を照らし合わせ援護できるポイントを分析する。
『この先に使われていない電波塔が北東300mにある。そこならその廃墟を見わたすことができるだろう?』
「了解! そこで新垣達の援護をする」
『気をつけろよ』
「忠告どうも」
 ジョナサンは槙原との会話を終了し、今度は新垣に連絡を取る。
「新垣。俺だ」
『レインさん!?』
「ジョナサンで構わない。モールは全部、潰した。今からポイントを移して、お前達の援護にまわる。くれぐれも死ぬなよ」
『……ぷっ、ぷっ、ぷはははははは』
『ちょっとうるさい! 新垣!』
 ジョナサンの左耳から能見の怒鳴り声が聞こえた。
『す、すいません! でもおかしくって……』
 新垣はジョナサンの妙な心配に笑っていた。
 ジョナサンは新垣に呆れながら訊いた。
「何だよ!? 俺が心配してやっているのに、笑うことはないだろ!」
『いや、すいません。心配してくれていた事が意外だったもので……でも、安心してください。俺を誰だと思っているんです?  ジョ、ナ、サン?』
 新垣の変わりぶりに少し苛立ちを感じながらもジョナサンは軽く笑い、二人に告げた。
「ははっ、君達を心配したのが、馬鹿だったよ。……幸運を……」
 通信を切り、深く息をして、ジョナサンは電波塔に向けて走って行った。



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