公爵令嬢の復讐劇

中島鏡花

逃避行の始まり

屋敷からあまり遠くないようで、でも、近いと言う事も出来ない中途半端な距離の森の奥に古くて、少し強い風が吹けば崩れてしまいそうな小屋であった。
デリックは私を馬から下ろすと無言で馬を小屋の中に連れて入り、馬は置いて出て来た。
私は俯く。
デリックに顔を見られたくないのだ。
きっと目は真っ赤で腫れているだろう。
彼は私の手を取り、小屋の後ろに回るとそこには人が3人くらいしか入れなさそうな小さな個室があった。
彼は個室の扉を開ける。

「入って。」

私は言われた通りに入る。
中は薄暗く何も見えない。
デリックは自分も入り、扉を閉めた。

「ここは何処?」

私は知らない所に連れて来らて、少し焦っていた。

「少し待っていて。」

彼はそう言うと、しゃがみこんて何かを探し始めた。

「見つけた。」

デリックは何かを手に取り、それを私に渡す。

「少しの間それを持っていて。」

私はそれを受け取る。
触感からして古い本だという事が分かった。
ガタンという音がデリックの居る方から聞こえた。

「大丈夫、デリック。」

「大丈夫。それよりもっとこっちに来て。」

私は言われた通りデリックに近寄る。
すると突然デリックに抱きかかえられて、落ちる時のような感覚がした。

「え?」

「驚いた?」

二人は地下室にいたのだ。
上を見ると二人が落ちただろう穴が見える。
地下室と言っても屋敷の地下室とは違い、洞窟と言った方が良いのかもしれない。
高さは2メートル程で、二人が横になったら足場がなくなる程狭い、それに地面や天井も石板ではなく、木板だ。
部屋の隅には袋と2本の直剣、1つの弓と何十本もの矢が置いてあった。

「ああ、これは、今まで貯めたお金と薬草と怪我を負った時の為の布だ。
そして、これは旦那様と奥様に貰った直剣と弓だ。
矢は自分で作った。」

彼は私の視線に気付いたのか、説明をする。
彼は何かを思い出したようにポケットから金色に輝くロケットを取り出す。

「それは...」

それはお母様のロケットだ。
いつも大事そうに身につけている。

「失礼な事は承知で取って来た。
奥様は大事そうに握っていらっしゃいました。
受け取るか受け取らないかはソフィア次第だけど、きっと奥様もソフィアに持っててもらいたいと思う。」

ロケットにはうっすら血の跡が残っていた。
きっとデリックが血を取ろうと拭いてくれたのだろう。

「ありがとう。」

私は震える手で受け取る。
先程までずっと泣いていた為もう涙が枯れたと思っていたのに、また大粒の涙が溢れ出した。

「大丈夫。」

彼は私を優しく抱きしめて、唱えるようにずっと大丈夫と言ってくれた。

疲れた為か、それとももう夜が深い為か、それとも両方か、私の瞼は重くなっていき、いつの間にか眠りに落ちた。

「絶対にソフィアを守ってみせる!」

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