神が宿る世界で

斑鳩

第2話 能力者育成機関

4月1日


能力者育成機関その名の通りで能力者を育成する機関である。

東京都の中心に聳そびえ立つその機関に窓は無い(玄関のみガラスを使用している)外装は黒色一色で強度は日本一でここ数年間敵の侵入を完全に阻止している。

侵入と言っても強度が弱い正面玄関のガラスを突き破る正面突破をするしか無く、それを理解している機関はマニュアル通りの行動をするだけで侵入者を無力化出来る。

囮として階級の低い順に正面玄関に近い設計になっている。

東京都支部の玄関を開けるとそこには幾つもの建物がある。

建物の中に幾つもの建物がある事になる。

この機関は日本軍の直轄ちょっかつの機関である。


「すみません、木山廉です」


廉は受付にそう告げる。


「木山様ですね」

「はい」


受付の女性は廉に再確認をして目の前にあるパソコンを操作を始める。

パソコンに何かを入力している、直ぐに終わり椅子から立ち上がる。

入力の時間から廉の名前を打ち込んだと思われる受付の女性は後ろをロッカーをゴソゴソと何かを探している様だ。

受付の女性はロッカーの中から鍵と小さい四角形型の物を取り出しロッカーの上に置くとロッカーの鍵を閉め、鍵と四角形型の物を持って廉の所まで戻る。


「木山様これをどうぞ!」


受付の女性は受付のテーブルに鍵と四角形型の物を置く。

廉はテーブルに置かれた物を取る。

鍵の先にはナンバープレートが取り付けられている。廉のナンバープレートには504と書かれている。この番号はここの機関の部屋の番号である。

もう一つは四角形型の物を見つめる。

鉄のプレートに木山廉と日本軍二等兵と書かれていた。


「木山様そのプレートは見える様に毎日取り付けてください。」

「はい、分かりました。」


廉は受付の女性に言われた通りにワイシャツの胸ポケットに留め具を挟む。


「それでは木山様時間まで部屋でお待ち下さい。」

「分かりました。」

「時間は部屋のスピーカーでお伝え致します。」

「分かりました。」


廉は受付の手続きを終わらせると受付を後にする

廉は部屋を探すため周りを見渡す。

受付を再び見ると受付終了と書かれた札が置かれていた。

受付の時間まで後10分あるがそれを締め切ると言うことはもう今日来る人間は手続きを終えた事が分かる。


『俺が最後だったか……』


廉はそう思いながら自身の部屋探しを始める。

廉は玄関の入り口の隣に設置されていたこの施設の案内板を確認する。


「成る程な……」


廉は思わず声を出していた。

廉の部屋のナンバーは504で所属は二等兵で階級は一番下だ。

部屋はこの施設は玄関の近くだ。

詰まりこの施設の構造上侵入者は正面玄関から来るため狙われるのは二等兵の部屋だ。

正面玄関を進むと直ぐに二等兵の部屋が有る。

二等兵の部屋の先に行く場合は鉄の扉を開けるしか無い。

開ける方法はこの施設の鉄で出来たプレートを認証システムにかざすしか無い。

ちなみに今日は解放されている。

部屋の前に到着した廉は鍵を開ける。


「ふぅ……」


部屋に着いた廉はため息をつく。

廉はワイシャツの胸ポケットに付けたプレートを見る。

自身の名前と自身の階級を再確認する。

鉄の扉を開ける為にはこのプレートを必要とするのに対してこの部屋は鍵を必要とする。

この部屋にもプレートによる開け閉めも出来るはずだが


『詰まりはこの部屋……嫌二等兵達は侵入者の足止めと時間稼ぎの為のものか……』


二等兵の部屋が壊される度、セキュリティが高い認証システムを付けるには高額な値段がかかる。

事実、階級が軍曹以上の場合はプレートによるオートロック式である。

これだけでこの機関は実力がものを言う弱肉強食の場所と言うことが分かる。


『階級をいち早く上げないとなぁ……』


廉が無言のままリュックの中身を取り出す。


「木山廉、木山廉、至急体育館に移動せよ」


スピーカーから指示が言い渡される。

随分と原始的だなと思いながら行動する。

これも階級が低いからかと思ったが気にしない事にした。

廉はリュックから取り出していたスマホと財布をズボンのポケットに入れて部屋を出る。

その後、部屋に鍵を閉める。

廉は正面玄関の隣に設置されている案内板を確認する為階段を降りる。


「君も見に来たの?」


廉は案内板に居る男に気がつく。

男も廉に気付いたのか声をかけてきた。

その男の顔を見て少し驚く。

幼い、童顔、と言うよりも女みたいに可愛い。

しかし、体つきを見るとたくましい。

ウィッグを付け筋肉質を上手く隠せれば女と勘違いするレベルだ


「あぁ今日来たばかりで道も分からないからな。」

「僕も今日来たんだ!」


廉はそう告げる男の胸元のプレートを確認する。

プレートには佐倉紫音さくらしおんと書かれた名前と二等兵と階級が書かれていた。

廉がプレートを確認していると紫音も廉のプレート確認していた。


「一応、自己紹介しようか?」


突然の紫音の提案に驚くも断る理由が無いため廉は自己紹介をする


「えっと、俺は木山廉宜しくな」

「僕は佐倉紫音宜しく」


お互いにプレートを確認している為知っている情報を口にしている。

これだけではと思った紫音は追加で情報も加える。


「僕は氷神ひょうじんの神能力者だ、君は?」

「……」

「不味い事、聞いたかな?」

「嫌、全然俺も神能力者だ炎神えんじんだ。」


廉は言葉を濁らせるが素直に答える。


「木山、炎神……ってまさか?」


紫音がこの二つの単語を声に出す。

廉は目を閉じて、しばらくして目を開ける。

何処か覚悟を決めた様にも見える。


「あぁ……多分合っているよ」

「そっか」


そう廉は覚悟を決めていた。

それは廉の家が理由だ。


「……それだけか?」


廉は驚きの声を溢す。

紫音は不思議そうな顔を浮かべる。


「それだけって?」

「嫌、殆どの奴はそれを聞いたら……」


廉は今まで事を振り返り言葉を濁らせる。


「そう言う事か、君の親が日本軍の五人しか居ない大将だからね」


紫音が言った事実に固まる廉。

紫音が知っているって事は殆どの人間がその事実を理解している事を廉は悟った。

これから廉も見る目は大将を息子として見られるだろう。

廉も覚悟をしていなかった訳では無いが、改めて父親の偉大さを実感する。


「……廉、体育館に行こっか」

「あぁ……」


廉の浮かない表情を見て、紫音は集合場所の体育館を移動を提案する。

二人は外に出て体育館を目指す途中の道でも会話を続けていた。


「僕は気にしないよ。」

「……」


廉はそれを簡単には信用する事は出来なかった。

子供の頃から親の名が付きまとう。

子供の時、年の近い子供達と遊んでいた時の事だ。

近くに居た親達によって廉と遊んでいた子供達を連れ帰る事が当たり前、大人達に暴行を受けた事もある。

暴行を加えた者に対して父親のゲンマは自ら赴き相手の全身の炎に包んだ。

そんな事を続けていたゲンマは勿論息子を思っての行動だったが、息子の廉にとっては恐怖の対象で刃向かう事の出来ない人物で父親だが廉は父親と思った事は無い。

いつも家に居て廉の相手をするのは稽古の時だけで優しくされた事は無い。


「信用出来ないって顔だね」

「……そう見えるか?」


紫音は笑顔で廉に話しかける。


「うん、その上不機嫌そうだ」

「それでお前はどうなんだ?」

「どうって?」

「俺の父親は大将だ……コネでも求めるか?」

「う~ん、それは美味しい話だけど僕は良いかなぁ」


廉は素直に驚く。

今までの人間と明らかに違う態度だ。

廉は戸惑いながらを紫音との話を続ける。


「何で?」

「そうだな必要が無いからね」

「必要が無い?」

「うん、僕の近くにも大将が居るからね。」

「……えっ?」


廉は驚きの余り思わず声を出す。

日本軍の大将は五人しか居ない。

偶然案内板で出会った紫音が大将の一人と知り合い出来すぎている。


(……聞いて見るか)


考えても仕方ない、廉は思いきって聞いてみる。


「それで誰なんだ?」

「気になるの?」

「勿体つけるな」


明らかに不機嫌になる廉を見て素直に答える。


「川上玲奈かわかみれなさんだ。」

「川上?」


川上玲奈、日本軍の大将の一人で唯一の女

剣神しんけんの神能力者で彼女が剣を握り、剣を振るえば、敵無しと言われ最強の女剣士。

色々な伝説はあるが一太刀で大地を天を海を切り裂いたと言う伝説が有名な剣士。


「……本当かよ?」

「うん、本当だよ、どうしたの?」

「嫌……何処で出会うだよ」

「道場だよ」


『道場?』廉の頭に予想もして無かったフレーズが飛び込む。

日本軍の大将が道場って怪しい……

嫌、廉の父親を地元の山梨県から離れたく無いと言う理由で家にずっと居る緊急時の時だけ家を空ける為否定も出来ない。


「道場って何処にあるんだ?」


廉は道場の事をそれほど知らない。

廉の居た山梨県では道場が無いため他の県にも無いものと思っていた。

紫音は笑顔で答える。


「東京都にあるよ、能力者育成機関の近くにあるよ」

「そんな近くに?」

「うん、一応僕も門下生の一人だよ」

「ふ~ん、じゃあ多くの門下生が居るんだろうな」


日本軍の大将の一人に教えて貰える機会なんて滅多に無いだろう

しかし、その道場に行けば誰でも手解きや武術が教えて貰える。

しかも川上玲奈は剣士全ての憧れの的、日本全国から剣士が集まるだろう。

凄いなと素直に思える。

廉は自身の父親と比べていた。

廉の父親は家にずっと居て近所の子供が訪ねてくるが、全て追い返している。

紫音は一瞬言葉を濁らせるが何事を無かった様に答える。


「門下生は……そんなに居ないよ」

「……居ない?」


紫音から予想もしていなかった言葉が返ってくる。

川上玲奈程有名な人に教えて貰える所何て日本中探してもそうそう無いだろう。

考えられるのは道場に居る門下生の柄が悪い位しか廉には思いつかない。

しかし、廉の隣に居る紫音は見た感じ好青年と言う印象しか無い


「玲奈さんは稽古になると人が変わるから」

「……成る程」


少し分かる気がする。

廉自身も父親との稽古の厳しさを知っているため十分理解できる

廉も逃げられるなら逃げている。

それは誰よりも理解できる。


「ここだね、体育館」


紫音は見えてきた体育館を指で差し廉に伝える。


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