学生 トヨシマ・アザミの日常

ノベルバユーザー220935

1-7

 コンコン、とハッチをノックする音が聞こえた。
 アザミがコックピットハッチを開けると、ハルザが顔を覗かせてきた。


「少し、良いか?」
「大丈夫だよ。 立ってるのもなんだし、シートに座りなよ」


 アザミはシートから立ち、ハルザに示した。
 ハルザは「そうする」と答えていたが、その表情はどこか暗い。


「実機が来たから、こうしてハルザと一緒に居ることもできなくなるね」


 アザミはいつも通りハルザの膝の上に座り、ハッチを閉める。
 ハルザの様子がいつもと違うせいで、妙なプレッシャーを感じていた。


「ああ」


 ハルザは淡々と答える。


「どうしたの?」


 アザミが聞いても、ハルザは答えない。


「答えないなら、答えないでいいよ。 わたしはマルレのデータでも見てるから」


 マルレのモニターに触れ、データを呼び出しながらアザミは言う。


「アザミ」


 アザミを呼ぶ声と共に、ファスナーを下ろす音が聞こえた。
 アザミ自身は、その音に気づいていない。


「ん?」
「こっちに向いてくれ。 体ごと」
「別にいいけど?」


 ハルザとシミュレーターをしていた時と同じように、アザミは向かい合うようにして座り直した。


 そして気付いた。


 ハルザは、なぜかスーツのファスナーを下ろしていた。
 はだけた部分からは、ハルザの逞しいボディが覗いている。


「なんでインナー着てないんだよ」
「なんだか暑くてな」


 ハルザは笑いながら、アザミの右腕をさり気なく掴んだ。
 少し強い力で、簡単にはほどけないように。


「ハル……ザ?」


 アザミを見つめるハルザの目は、その表情は、獲物を捕まえて悦ぶ……あるいは、獲物にかぶりつく寸前の猛獣のようだった。


「怖がらなくていい」


 アザミの心臓が激しく鼓動する。


 そして視線を下に移動させて確信した。


 ハルザはファスナーを最後まで下ろし、張りつめた自身を引き出している。
 いつか見た時より遥かに立派になったそれは、先からどろりとした透明な蜜を溢れさせていた。


 そしてアザミは察する。


 そうか……ハルザはボクに欲情しているんだ。


 

 ――


 ハルザの右手が、アザミのスーツのファスナーを下ろす。


 だが、アザミは抵抗しなかった。
 心の中にいるもう1人の自分、すなわち本能が、これから何が起こるのかを知りたがっている。


「ねえ、まだお昼だし、授業中だよ?」


 声を震わせながら、アザミは言った。


「マルレはオレのIDでロックした。 外部からの命令も受け付けないよ。 通信はできるがな」


 通信しようとすれば邪魔するんでしょ。
 アザミは心の中で言った。


「なぁ、アザミ。 オレ、お前のことが……」


 ハルザが言い終わる前に、アザミはハルザの口を左手で塞いでから、親指を口内に突っ込んだ。


 その言葉は、順番も無視して、最初から行為に及ぼうとしている人が言っていい言葉じゃない。


「わかった。 言わないよ」


 アザミが考えていたことを察したのか、ハルザは笑った。


 そして、青白い舌がアザミの親指をねぶる。
 親指が感じ取ったぬめりと微熱に驚き、アザミの手がぴくりと反応した。


「でもさ、おかしくない? 順序ってものがあるでしょうが」
「普通ならそうなんだろうが……お前に触れたいという欲求に負けた」


 ハルザは話しながらアザミのシャツをまくり、尖った自分の爪で傷付けないように優しく、丁寧に、素肌に触れる。
 アザミは慣れない感触に怯え、声を必死に押し殺した。


「アザミ」


 ハルザはアザミを呼び、アザミが答える前に彼を引き寄せ、唇を奪った。
 観覧車の時のキスとは違う、ゆっくりとしたキスの中で、アザミはハルザの唇の感触を、熱を、自分の唇で覚えていく。


「どうする? 続けるか?」


 一旦キスをやめたハルザが、含みのある笑みを浮かべた。
 アザミはハルザの上に座り直し、パイロットスーツの上だけを脱ぐ。


「続けて……みたい」


 アザミが答えた直後、ハルザは再び荒々しいキスをした。


 ハルザは手のひらでアザミの顎を包み、舌で口内をかき回し、初めての感覚にアザミは震える。


 そして、アザミの手は自然とハルザの体を撫でていて、ハルザは優しくアザミの手を握り、誘導する。
 そして、勃ち上がった自身に触れさせた。


「強く握るなよ」


 ハルザは、にやにやと笑いながら、アザミの首筋にキスをする。


「うるさい」


 アザミは顔を赤くしながら、ハルザの自身を優しく握った。
 少し手を動かすと、指に先走りが絡みつき、ハルザは荒々しく息を吐き出した。


「アザミは……ダメか?」
「え、いや……あの……」


 ハルザは、アザミのショートパンツに触れ、なにかに気づいた。


「お前。 やっぱり男だったのか」
「……うん」






 アザミは、幼い頃から同性に対してのみ好意を抱いていた。
 だが、LGBTを嫌う集団が、自宅近所の公園で毎日ヘイトスピーチを行っていたのだ。
 ヘイトスピーチを行う彼らを恐れたアザミは、次第に他人との接触を避けるようになる。


 だが、デザイナーズベイビーとして作られた影響から、アザミは男女どちらにも見える容姿に成長してしまった。


 何もかもが歪な自分が嫌いで、他人に歪さを指摘されるのが怖くて、小学校と中学校はずっと保健室登校。


 士官学校に転校する際は、性別を非公開とし、制服もジェンダーレスタイプのものを着用した。
 そして、友とは一定の距離を置き、察したエリサ達もアザミを気遣い、深く関わることはなかった。






「この音……」


 互いの服を脱がせ合おうとしていた直後、けたたましいサイレンが聞こえてきた。


 演習や30年前の映像で聞き慣れたサイレン。
 だが、現実では絶対に聞きたくないものだった。


「ズーシャルの出現を知らせる警報だと!?」


 ハルザはパイロットスーツを着なおし、シートから立ち上がってアザミを座らせた。


「30年ぶりだね。 なんで今更出てきたんだろ」


 アザミはパイロットスーツのファスナーを上げ、着心地を確認する。
 そして、網膜投影用デバイスを兼ねるヘッドセットを着け、マルレを起動させた。


 マルハに搭乗したハルザも、同じように機体を起動させている。


「アイツらの考えてることなんざ、誰も理解できねぇよ」
「言えてる」


 マルレもマルハも、全ての武器が実戦用の装備になっていて、燃料も満タン。
 永久機関『ザーフォウ』の出力も安定していた。


「ズーシャルの位置は?」
「ここから近い海岸だ。 種類は不明だが、進路予測だと第1演習場に向かってるらしい」


 第1演習場にはエリサたちが居る。


 実機訓練用のズムウォルトは、運用には問題無いものの、品質検査に落ちたパーツで組み上げられた機体だ。
 訓練用の機体のため、出力はオリジナルから30%も抑えられ、固定装備であるコンバットナイフも外されている。
 パイロットも訓練生。
 実戦には耐えられないだろう。


「アザミ、基本を忘れるなよ。 オレたちはズーシャルを足止めするだけだ。 倒すのが目的じゃないからな」
「わかってる。 連絡はアイツらのところへ向かいながらするよ」


 アザミは少しだけ怒っていた。
 ズーシャルが、あの化物共が、2人だけの時間を邪魔したからだ。


「怒ってるのか?」
「怒る? 誰が? 別にハルザとの時間を邪魔されたからって、ヤツらを叩き潰そうとかそんなこと、考えるわけないでしょ」


 アザミの言葉に、ハルザは肩をすくめた。


「……怒ってるんだな。 オレにはわかるぞ」
「おお、こわいこわい。 でも無茶はしないからさ、怒るのは許して」

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