引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

42話 有人がリヒトになるまで

「この世界に来て目覚めた時、僕には剣聖ザディウスの魂が取り憑いていた。……元の世界で何の取り柄もなかった僕は、ザディウスの誘いにあっさり乗ってしまった。それが間違いの始まりだったんだ──」


決勝でのことについて、そもそもの始まりから順を追ってリヒトが話し出す。

店から連れ出された時に、多分この話だろうと思っていたが……やはりと言ったところ。
俺もザディウスの件については詳しく聞きたかったので、ちょうどいい。


「僕は、元の世界じゃほんとにどうしようもない人間だったんだ。運動も勉強も何も出来ない、人と上手くも喋れない。そんな自分の未熟さを他人や社会のせいにして……ろくなもんじゃなかった。」


「そりゃまた意外だな……今のリヒトからはそんな印象、全く受けないぜ。実際、今もこうして俺とちゃんと話せてるしな。」


リヒトがこっちの世界に来たのは、確か1年ほど前だと言ってたはず。

そんな短い期間で今のようなしっかりした印象の人間に変わるというのは、普通出来ないことだろう。
人はなかなか簡単には変われないというのは、俺が一番よく知っている。


「それは、ある意味ではザディウスのお陰と言えるかも知れない。ザディウスが、そんなどうしようもない自分に、変わるきっかけを与えてくれたのは確かだからね。」


「きっかけというのは……やはり剣術の能力を目覚めさせられたとか、そういうことなのか?」


前にリヒトと初めて宿で顔合わせをした時、ルナに対してそういう話をしていたはず。

あの時はルナが、起きてもおしっこしたかっただけだとか言い出して、いつものやつが始まって完全に話流れちまったけどな。


「近いけど少し違う。こないだは少しはぐらかしてしまったけど……本当のことを話すよ。ザディウスは、僕に半分乗り移るような形で剣術を教えてくれたんだ。ザディウスが僕の体を動かし、それを僕が文字通り体で覚える。上達はとても早かった。」


「僕はもっと早く強くなりたい一心で、より積極的にザディウスに体を明け渡すようになった。ザディウスの本当の目的も知らずに……あの時は、とにかく僕は昔の自分を捨てたかった。ただ強くなりさえすれば、変われるって思ってたんだ。まあ実際はもちろん、そんなこと全然なかったんだけどね。」


何となく話が見えてきたな。
しかしこうなると、ますますザディウスが悪霊の類に思えて仕方がない。


「なるほどな。決勝でザディウスはリヒトのことを器だとか言ってたが……つまりザディウスは剣術って餌をちらつかせて、リヒトの体を奪いたかったってことなのか?」


「そう、どうやらそれがザディウスの真の狙いだったようなんだ。……ただ、それを許してしまったのは僕自身の心の弱さのせいでもある。」


「心の弱さゆえ、ザディウスに付け入る隙を与えちまったってことか?」


「そういうことだね。……昔の僕は自分で自分を嫌って、否定してた。そしてその結果、ザディウスに大きく体の主導権を奪われることになった。でも──」

リヒトは真っ直ぐ前を見つめ、大きく息を吸ってから改めて話し出す。


「──悪いのは自分が人より劣ってることそれ自体じゃなくて、そんな自分を自分で否定する行為の方だって気付いたんだ。今劣っていることは変えられない事実だとしても、その劣った自分を受け入れるか拒絶するかは、他ならぬ自分自身に選択権があるわけだからね。……そしてそこから、ザディウスから体の主導権を奪い返すための戦いが始まったんだ。」

「引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • さんじゅーすい

    まあ例によって別に深刻な話にはならないんですけどね笑

    1
  • さんじゅーすい

    よく考えたら異世界来る前と大してキャラ変わってないルナより、
    リヒトの方がちゃんと異世界デビューしてますね笑

    1
  • 美浜

    リヒトがいっぱい喋ってる。

    1年前は喋れなかった人がこんなに喋ってるなんて······
    私も見習いたい。

    2
コメントを書く