引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

18話 マーヤの稽古と世界最強の混浴

ルナは資格試験、俺は剣術大会、あの日から俺たちの挑戦の日々が始まった。
道は違えど、共に何かを目指して努力する者がいるというのは心強い。


そんなわけで、俺はマーヤに稽古をつけてもらいにこの裏山へ来ている。
マーヤの稽古はしばらくぶりだが、相変わらずのバケモノっぷりだ──


両手剣を持った俺と素手のマーヤ。リーチの差は、戦闘において大きなアドバンテージを生むというのが一般的なセオリーだが、そんな常識はマーヤの前では全く通用しない。

体格差もまた然り。大柄な俺と子供そのものなマーヤとでは、本来勝負にならないほどの質量、つまりパワーの差があるはずなのだ。
そう、あくまで一般的には。


「久しぶりにガイストとお稽古できて、マーヤはとっても楽しいのよ。」

「へへ、……そりゃどうも!」

楽しそうに笑うマーヤに、俺は剣を振り下ろして答える。
それを最低限の動きで、マーヤは紙一重で回避する。

まあ仮に脳天に直撃しても、なんかすごい防御魔法がかかってるマーヤはかすり傷1つ負わないんだがな。この剣何キロあると思ってんだ?世界最強は伊達じゃない、とんでもねー幼女だよほんとに。


ともかくそんなわけで、俺は実戦と変わらない好条件で幼い頃から戦闘訓練を受け続けることができた。
守る力を得るため、俺をここまで強くしてくれたマーヤにもまた、俺は感謝の気持ちしかない。


「ガイスト、また原則を忘れてるのよ。当たらないと思って振っちゃダメ。当たる光景を強く、とっても強くイメージしてそれを剣に込めて振るのよ。剣は小手先じゃなくって心で当てるものなのよ。」

マーヤは本来的には魔法使いだから、こういった教え方になるようだ。
剣術とかそういう技術的な話は一切教わったことはないし、きっとマーヤも知らない。

でも小難しいことが嫌いな俺には、この根性とか精神論じみた教え方がとても合っているように思う。
やることはたった1つ。とてもシンプルで腕に馴染む。


「へへ、いけねぇなつい忘れちまう。……なら、こいつはどうだ!」

心に当たるという強いイメージを形成し、剣を自分の体の一部のように感じ、イメージを剣に強く込め、一気に振り下ろす。
マーヤを越え、遙か地平の彼方まで巨大なイメージの刃を飛ばすように。
この広大な世界すらも、真っ二つに切り裂くように。


剣が空を切る音が、振り下ろした時の手応えが、それまでとは全くの別物に変わる。
このイメージの刃が決まった時の音は、とても耳に心地よい。


「……っ!」


避けきれずにマーヤが左腕で俺の剣をガードする。
そこを起点に衝撃波が広がり、地面から砂埃を巻き上げ、林の木々を揺らし、ざわめかせる。

驚いた鳥たちが一斉に飛び立っていく。


しばらく間を置いたあと、マーヤがうれしそうに話し出す。

「今の一撃、忘れちゃだめなの。心のとっても深い部分から世界の端っこまで届くほどの一撃だったの。戦闘中の全ての攻撃で今の一撃を繰り出せることを目標にするのよ。」

「難しいな……でもやってみせる。」

「ガイストなら必ずできるの。マーヤが保証するのよ。……じゃあ次は防御と回避の訓練なの。」

俺たちの稽古は、夕刻日が沈み始める頃まで続いた。


「いい汗かいたぜ。マーヤ、今日も本当にありがとうな。」

「ううん、マーヤこそありがとうなの。ガイストは教え甲斐があって、お稽古とっても楽しいのよ。……それじゃあガイスト、2人で汗を流しに行くのよ。」

「一緒に風呂か?そりゃだめだな。」

「えー、何でなの?ついこないだまで一緒に入ってたのよ。」

日付感覚が年相応なのか、寝てばっかだからついこないだって扱いになるのか知らんが、そりゃそうとう大昔の話だぞ。


「マーヤの言うこないだって何年前だよ……とにかくダメだ。マーヤは一応成人女性だろ?それに何より今の俺とじゃ、マーヤの家の風呂は狭すぎる。」

「わかったのよ……ガイストのけちー。」


マーヤが後がいいと言うので、先に風呂に入らせてもらう俺。

「あぁー、生き返るなー……。」

風呂に浸かりながらくつろぐ俺だったが、残念ながらその静寂は長くは続かなかった。


ガラッという音とともに入口の戸が開かれ、人差し指を立て、したり顔のマーヤが謎の持論を展開する。

「ガイストこれはね、男女の混浴ではなくて師弟の美しい交流の一環と考えるべき事案だとマーヤは思うのよ。考え方1つ変えるだけで、人は性別すら超越できる生き物なのよ。なにより古来より裸の付き合いというのは──」

ピシャッっと戸を閉める俺。

「いいからパンツぐらい履いとけ。風邪ひくぞ。」

戸の向こうでマーヤがまたも「けちー。」と言ってるようだが、気にしない。
今日は泊まりの予定だし、頭でもなでながら一緒に寝てあげればすぐ機嫌は直すだろ。


幼い頃と言えば……。
マーヤも幼なじみって扱いになるのか、俺にはよくわからない。

当時はマーヤの方が年上みたいな関係だったが、今じゃ俺の方が大分年上みたいになってる。
でも、今も昔も変わることなく、マーヤは俺の師匠だ。

マーヤとの関係は、複雑で一言じゃとても説明できない。
でも、1つ間違いないのは、リーシェと並んで、マーヤもまた、もしもいてくれなければ今の俺はいなかったって言える存在だってことだ。

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