引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─
9話 コスプレじゃないよ
魔物討伐からの帰り道、俺は町へ寄って魔血晶の換金を行っていた。
「ご苦労様です。こちらが今回の報酬となります。……毎回すごい量の魔血晶をお持ちになりますね。流石は前大会優──」
「おっと、その話はまた今度な。今日はまた別に急ぎの用事があるんだ。ここではちょっとした魔法使い用の品も取りそろえていたはずだが、それを売ってもらえないだろうか?」
胸のでかい交換所のねーちゃんの話を遮り、俺はもう一つの要件を伝えた。
普段はそのまま村に帰るところ、今日に限りわざわざ町に寄って魔血晶を換金したのには訳がある。
「確かに取りそろえております。……なにぶんこちらは出張所となりますゆえ、都の品揃えには全く及びませんが……。」
「いや、それで十分だ。魔法の初心者用の杖はあるか?魔法学校に入学してすぐ支給されるようなやつだ。」
「……それでしたら……少々お待ちください……。」
ねーちゃんは奥へ行ってごそごそと品物を探し始めた。
ここはあくまで交換所であって、物品の販売はメインの業務ではないからこうやって多少時間がかかるのは仕方がない。
しかしこのねーちゃん、いつもやたら元気の無い喋りをする割には動作は意外にてきぱきしている。換金の計算や金の用意も異様に早いんだよな。
程なくして、手にいかにも普通といったデザインの杖を持ってカウンターに戻ってきた。
「……ありました。代金は──」
さすがに初心者用の量産品のため、大した金額ではなかった。これなら今日換金した内の、俺の小遣い分の中からでも余裕で買うことができる。
「……こちらは、ガイスト様ご本人がお使いですか?それとも贈り物でしょうか……?」
「ん?ああ、贈り物だよ。知人が魔法を覚えたいって言っててな。」
「……それでは包装の方をさせて頂きます。少々お待ちを……。」
急いでいるので断ろうかとも思ったが、そのまま渡すより包んでもらった方がルナが喜びそうだ。
まあ杖を買ったのは、ルナのためだけって訳でもなくて、結局今日俺は何も出来ずにリーシェにルナのこと押し付けて出てきてしまった詫びの意味もあるんだが。
リーシェはきっとリーシェに出来ることを一生懸命してくれてるだろうから、俺も俺に出来ることを何かしたくなったってわけだ。
恐ろしい速度で完璧な包装を終えたねーちゃんから杖を受け取ると、俺は礼を言って交換所を後にした。
村に着いて宿に帰った俺は、女将さんに2人がルナの部屋にいることを聞き、急いで来てみたのだが──
乙女の秘密の特訓中☆ 開放厳禁!
と、リーシェの字ででかでかと書いた貼り紙がしてあった。
この星マークは何だ?随分と楽しそうなんだが。あと乙女の文字にわざわざピンク色を使う細かいこだわりは一体。
まあ開放厳禁と書いてある以上、勝手に入ったらリーシェに何をされるかわからない。
いやまずそれ以前に、俺の手に負えないからリーシェに任せたのに、そのリーシェの言うことに従わずに部屋に無断で入るのは極めて不義理だ。
大人しく待つことにした俺は部屋を後にしようと歩き始めたのだが、次の瞬間、ドアノブが開く音と共に2人の話し声が聞こえてきた。
「よくがんばったわね、ルナちゃん。とても、とても過酷な特訓だったけれど。でも、たった1日で魔法を習得しちゃうなんて……流石だわ。」
「うぅ、恥ずかしくて死んじゃいそうです……まだ体ヘンだし……。でも、これでわたしも念願の魔法使い……!キテる、キテるよわたし!」
「キテるの?さっきまではイ……むぐぐぐ!」
「リーシェちゃーん、ダメですよー。」
恥ずかしいって何だ?しかもなんかルナが、リーシェの口を手で塞いで思いっきりジト目で見てるぞ?……いやまあいい。深くは追求しないでおこう。
ルナが魔法を習得出来たのなら、それ以上めでたい話はないと言うもの。
やはりリーシェはこの件において、1番の適任者だったようだ。
「魔法、習得できたんだな。リーシェ、本当にありがとな。リーシェが居てくれて本当に助かった。それからルナ、魔法使いになれた記念にこいつを受け取ってくれ。魔法使いなら1本ぐらいは持ってなきゃだからな。」
「あらガイスト、帰ってたのね。おかえりなさい。私は大したことしてないわよ。ルナちゃんの才能が人並み外れてとんでもなかったのよ……ね?ルナちゃん!」
「リーシェちゃん、うれしいんだけど、でもなんか違う意味に聞こえるのはきっとわたしの気のせいですよね?……あ、ありがとうございます、ガイストさん!ここでもう開けちゃってもいいですか?」
「もちろんだ。」
包装を開けて、中身の杖を確認したルナの目は、みるみる内にキラキラと輝き始めた。
「わぁー……すごいこれ。やった、やったよわたし、もう完全に魔法使いだよこれ。コスプレじゃなくて本物だよ?マジすごくない?これ。……ありがとう、ガイストさん。ありがとう、リーシェちゃん。わたし、今本当にうれしいです!」
こうして、ここに新たな魔法使い、ルナが誕生した。
恥ずかしいとか何とか、途中何か不穏な話があった気がしなくもないが、今回はただ純粋にこの感動の物語を心からかみしめようじゃないか。
魔法とは無縁の世界から来た少女は、強い憧れを胸に懸命に努力し、たった1日で魔法を習得。少女は心から喜び、俺たちは心からそれを祝福する。
これだよこれ。こういうのを求めていたんだよ、俺は。
「ご苦労様です。こちらが今回の報酬となります。……毎回すごい量の魔血晶をお持ちになりますね。流石は前大会優──」
「おっと、その話はまた今度な。今日はまた別に急ぎの用事があるんだ。ここではちょっとした魔法使い用の品も取りそろえていたはずだが、それを売ってもらえないだろうか?」
胸のでかい交換所のねーちゃんの話を遮り、俺はもう一つの要件を伝えた。
普段はそのまま村に帰るところ、今日に限りわざわざ町に寄って魔血晶を換金したのには訳がある。
「確かに取りそろえております。……なにぶんこちらは出張所となりますゆえ、都の品揃えには全く及びませんが……。」
「いや、それで十分だ。魔法の初心者用の杖はあるか?魔法学校に入学してすぐ支給されるようなやつだ。」
「……それでしたら……少々お待ちください……。」
ねーちゃんは奥へ行ってごそごそと品物を探し始めた。
ここはあくまで交換所であって、物品の販売はメインの業務ではないからこうやって多少時間がかかるのは仕方がない。
しかしこのねーちゃん、いつもやたら元気の無い喋りをする割には動作は意外にてきぱきしている。換金の計算や金の用意も異様に早いんだよな。
程なくして、手にいかにも普通といったデザインの杖を持ってカウンターに戻ってきた。
「……ありました。代金は──」
さすがに初心者用の量産品のため、大した金額ではなかった。これなら今日換金した内の、俺の小遣い分の中からでも余裕で買うことができる。
「……こちらは、ガイスト様ご本人がお使いですか?それとも贈り物でしょうか……?」
「ん?ああ、贈り物だよ。知人が魔法を覚えたいって言っててな。」
「……それでは包装の方をさせて頂きます。少々お待ちを……。」
急いでいるので断ろうかとも思ったが、そのまま渡すより包んでもらった方がルナが喜びそうだ。
まあ杖を買ったのは、ルナのためだけって訳でもなくて、結局今日俺は何も出来ずにリーシェにルナのこと押し付けて出てきてしまった詫びの意味もあるんだが。
リーシェはきっとリーシェに出来ることを一生懸命してくれてるだろうから、俺も俺に出来ることを何かしたくなったってわけだ。
恐ろしい速度で完璧な包装を終えたねーちゃんから杖を受け取ると、俺は礼を言って交換所を後にした。
村に着いて宿に帰った俺は、女将さんに2人がルナの部屋にいることを聞き、急いで来てみたのだが──
乙女の秘密の特訓中☆ 開放厳禁!
と、リーシェの字ででかでかと書いた貼り紙がしてあった。
この星マークは何だ?随分と楽しそうなんだが。あと乙女の文字にわざわざピンク色を使う細かいこだわりは一体。
まあ開放厳禁と書いてある以上、勝手に入ったらリーシェに何をされるかわからない。
いやまずそれ以前に、俺の手に負えないからリーシェに任せたのに、そのリーシェの言うことに従わずに部屋に無断で入るのは極めて不義理だ。
大人しく待つことにした俺は部屋を後にしようと歩き始めたのだが、次の瞬間、ドアノブが開く音と共に2人の話し声が聞こえてきた。
「よくがんばったわね、ルナちゃん。とても、とても過酷な特訓だったけれど。でも、たった1日で魔法を習得しちゃうなんて……流石だわ。」
「うぅ、恥ずかしくて死んじゃいそうです……まだ体ヘンだし……。でも、これでわたしも念願の魔法使い……!キテる、キテるよわたし!」
「キテるの?さっきまではイ……むぐぐぐ!」
「リーシェちゃーん、ダメですよー。」
恥ずかしいって何だ?しかもなんかルナが、リーシェの口を手で塞いで思いっきりジト目で見てるぞ?……いやまあいい。深くは追求しないでおこう。
ルナが魔法を習得出来たのなら、それ以上めでたい話はないと言うもの。
やはりリーシェはこの件において、1番の適任者だったようだ。
「魔法、習得できたんだな。リーシェ、本当にありがとな。リーシェが居てくれて本当に助かった。それからルナ、魔法使いになれた記念にこいつを受け取ってくれ。魔法使いなら1本ぐらいは持ってなきゃだからな。」
「あらガイスト、帰ってたのね。おかえりなさい。私は大したことしてないわよ。ルナちゃんの才能が人並み外れてとんでもなかったのよ……ね?ルナちゃん!」
「リーシェちゃん、うれしいんだけど、でもなんか違う意味に聞こえるのはきっとわたしの気のせいですよね?……あ、ありがとうございます、ガイストさん!ここでもう開けちゃってもいいですか?」
「もちろんだ。」
包装を開けて、中身の杖を確認したルナの目は、みるみる内にキラキラと輝き始めた。
「わぁー……すごいこれ。やった、やったよわたし、もう完全に魔法使いだよこれ。コスプレじゃなくて本物だよ?マジすごくない?これ。……ありがとう、ガイストさん。ありがとう、リーシェちゃん。わたし、今本当にうれしいです!」
こうして、ここに新たな魔法使い、ルナが誕生した。
恥ずかしいとか何とか、途中何か不穏な話があった気がしなくもないが、今回はただ純粋にこの感動の物語を心からかみしめようじゃないか。
魔法とは無縁の世界から来た少女は、強い憧れを胸に懸命に努力し、たった1日で魔法を習得。少女は心から喜び、俺たちは心からそれを祝福する。
これだよこれ。こういうのを求めていたんだよ、俺は。
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