引きこもり14歳女子の異世界デビュー ─変わり者いじめられっ子の人リスタート─

さんじゅーすい

5話 変わり者ルナさん(14)の優雅な目覚め

「てゆーかここどこ?……ってなんか人いるし!?」

周りをきょろきょろと見回しながら、驚いた様子で喋る女の子。
逆の立場になって考えてみれば、起きたら急に見覚えのない部屋に居て、知らない人間3人に取り囲まれているわけだから、こうなるのもまた当然だ。

とにかく状況を説明してあげないといけない。
荒唐無稽な話で、信じてもらえるかはわからないが……。

「あー、何から話したものか迷うんだが……まず自己紹介からだ。俺はガイスト。この村の剣士で魔物討伐をしている。こっちのリーシェがこの宿屋の娘で、こっちのマーヤがあんたを魔法で治療してくれたんだ。」

「リーシェだよー、よろしくね。」

「マーヤなの。とっても元気そうでよかったの。」

笑顔で女の子に挨拶するリーシェとマーヤ。そういうのが苦手な俺だけだと、もしかしたら女の子に警戒心を与えてしまったかも知れない。

「え?あ、えっと……わたしはルナって言います。14歳の中学生です。」

「(……魔物、剣士、魔法、もしかしてこれって……。あれかも?まさかのあれかも?来ちゃった?ひょっとしてわたし来ちゃったの?)」

やや上の空な感じに自己紹介を返したルナだったが、その後何かぶつぶつと言ってるようだった。

まず俺としては、ルナの言う中学生がなんのことかよく分からなかったが、それは一旦置いといて、異世界へ来てしまった事について伝えておかないといけないだろう。

「それで、説明が難しいんだが。ルナ、あんたはどうやら異世k──」

「異世界転生!!転移だっけ!?ですよね!?そうなんですね!!?」

ぶつぶつ言ってたルナが突如顔を上げ、両手で俺の両肩を掴んだかと思えばこれでもかってぐらい顔を近づけて、やたらキラキラした目で俺が言おうとしたことを大声で言ってきた。
ルナは盛大に唾を飛ばし、当然それは真正面にある俺の顔に余すことなくかかってしまう。最悪である。

「わー、ルナちゃん大胆なの……。」

「ちょ……ちょっと、ルナちゃん!?近いってば、離れて離れて!」

驚いたリーシェが俺とルナの間に入って、必死に引き剥がそうとする。
ルナに悪気がないのは見れば分かるが、このまま喋り続けられてよだれまみれにされてはたまったものではない。やたら人懐っこい犬じゃあるまいし。
ナイスだ、リーシェ。

「ご、ごめんなさいわたしったらつい……。あーでもほんとやばいこれ、マジであるんだこういうの。すげー。」

「あ、わたしですね、ちょうどこういう異世界行けたらなーって思ってて。なんかそれで本当に来ちゃったからうれしくてうれしくてもう。」

「いやほら、わたし昔っからこういうファンタジーの世界観大好きだったじゃないですか。……って知ってるわけないか。昔から大好きだったんですよほんと。いやマジで。」

「剣と魔法とか、それで魔物と戦うとか、ほんっとロマンですよねぇ。何て言うの?ほらあれ、……あれ?何だっけ何言おうとしてたんだっけ?やばいなんか今日のわたし、物忘れ激しすぎ。」

「てか昨日お風呂入っててほんとよかったー。べったべたの髪で異世界デビューとかマジありえないし。しかも神がかったタイミングで偶然制服着てるし。昨日のわたしめっちゃキテるわ。今宝くじ買ったら1,000円ぐらい当たる気がするわこれ。ってあれ?なんか意外と額しょぼくない?」

「あ、そうそう、これ中学校の制服なんですよ。結構イケてないですか?今の2年生はリボンが赤なんですよ、ほらこれこれ。それでそれで、スカートは校則で膝丈って決まってて、でも全然守らない子もいるんですけど、わたしはそれなりには守っちゃう派だなぁ。校則!お前のことは命に代えても俺が守る!みたいな?みたいな?」

「そうそう、それでですねわたし昨日──」

「あー待った待った。盛大に話がとっちらかって来てるが、ともかくルナは異世界に来たってことは理解してるってことでいいんだな?」

延々と話し続けるルナを遮って、とりあえず俺は重要なことだけ確認する。
ルナは少々、いやかなりの変わり者に見えるが、まあ悪い人でないことだけは間違いなさそうだ。

「はい!それはちゃんとわかってます!……う゛っ……。」

突然うめき声を上げて股間を両手で押さえるルナ。
そういえばすっかり忘れていたが、まさか──

「やばいオシッコ出そう……すぐそこまで来てるこれ。トイレどこー……?」

「あっ……!ごめんなさい、すっかり忘れてた!こっちよルナちゃん、すぐそこだから頑張って!何とか持ちこたえて!」

「決壊したら異世界デビュー失敗しちゃう……初日に大量お漏らしはどう考えてもやばいマジで……。耐えてくれ、わたしの尿道、否、膀胱か……。」

リーシェが、真っ青な顔でぶつぶつ言うルナの手を引いて、バタバタと部屋から出て行った。
残された俺とマーヤは、唖然とした表情でお互いの顔を見合わせた。

これが、俺たちと異世界の少女ルナとの、情緒もへったくれもない出会いの記録である。
つまり、異世界少女なんて耳障りの良い言葉に幻想ファンタジーなんて抱いちゃいけないってことだ。現実なんてのは大体こんなもんだ。

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