終末屍物語

マシュまろ

第5話「迷惑な救いの光」#1

・「ふぁ〜あ。ゾンビになっても睡魔にゃ敵わないな。」

 商業施設での戦闘から5時間後。春人は廃墟の自室のベットに寝転び、まどろんでいた。一般的なゾンビは不眠不休での活動が可能だが春人達は違う。疲れる時は疲れるし、眠くなる時は眠くなる。食事は取らなくても大丈夫だが、こればかりはどうしようもなかった。

「まぁ、寝るか。明日も早いし。」

 そう言って春人は睡魔に身を任せ、瞼を閉じた。

・  パパァン! ドンドン!

   うわあぁあぁぁあああぁ!

「何だ、何だ!?」

 春人は寝てしばらくしてから、外の銃声と叫び声で目が覚めた。

「これは…外からか!」

 そんなことを言いながら、春人はいつもの格好に着替えて部屋のドアを開けようとすると、その前に慌てた様子のヤクが入って来た。

「おい!今の音!」
「ああ、外からだろ!また侵入者か?」
「いや、違う。タウンの外だ!タウンの外で人間同士がドンパチやってるみたいなんだ!」
「はぁ!?また何で?」
「んなもん知るかよ!とりあえず、今、タウンのゲートでヤクザの兄貴達が待機している。早く行くぞ!」
「ああ!わかった!」

 ヤクと2人で部屋を出た春人はそのまま急いでヤクザや他のゾンビ達がいるタウンのゲートに急いだ。ゲートに着くと、ヤクザと武装した仲間のゾンビ達がゲートの付近で身を低くして外の様子をうかがっていた。そのうちの1人が走ってくる春人達を確認した。

「兄貴!春人達が来ました!」
「おお、来たか。遅かったじゃねえか。」
「すみません。今起きたばっかりで。それで今の外の様子は?」
「ああ…それがな、2分前から突然音が止んだんだ。」
「そうですか…でも、何でこんなドンパチが?それもこんな真夜中に。」
「ああ…それは多分な…オイ!アレをもって来てくれ!」

 ヤクザがそう言うと、仲間のうちの1人が緑色のランプが付いた長方形の黒いボックスをもって来た。

「これが3時間前に突然空から降ってきてな。」
「兄貴…何すかコレ?」

 ヤクは出てきたボックスをしげしげと見つめていたが、出てきたボックスを見た春人は驚きの色を隠しきれなかった。

「ヤクザさん…本当にコレが空から降って来たんですか?」
「ああ。お前なら何か知っているんじゃないかと思ってヤクに呼ばせたが、やっぱり何か知ってたか。」
「春人、お前これが何か知ってんのか?」
「うん。知ってるも何も最近もコレと同じ物を見たんだよ…」

 そう言って春人は、ボックスの蓋のロックを慣れた手付きで外した。カシューという音と共にロックの外れた蓋の隙間から冷たく白い冷気が抜けていった。そして春人が蓋を開けると、中には緑色の透き通った液体の入った細長いフラスコと注射器、更にその注射器の針がそれぞれ4つずつ入っていた。

「やっぱりか…」
「おい!春人はこれは一体何なんだ?」
「これはな…俺達にものすごく馴染み深い物だよ…」
「「???」」

 わけがわからないという顔をする2人に春人はボックスの中身の正体を告げた。

「これの名前は『Zキラーワクチン』。またの名を『ZBKーT02』…俺達があの人に投与してもらった対ゾンビウイルス用のワクチンだ。」

 春人が語ったボックスの中身の正体。それはこの廃墟に住んでいるゾンビ達が1度は必ず投与されている対ゾンビウイルス用のワクチンの名前だった。

・「おい、春人!お前マジで言ってんのか!?」
「マジもマジ。大マジさ。嘘はついていない。本当だ。俺はあの人にこれの作り方をあの人が生きていた頃に教えてもらっているからな。最近も少し作ったし。それにこのボックスはこのワクチンを保管して運ぶための冷蔵庫みたいなものだからな。一目見ただけでわかったよ。」
「そうだったのか…じゃあ、何でこのボックスが空から降ってきたんだ?」
「さあな。そこが問題だ。誰がこれを作って空に打ち上げたのか…それが疑問だな。」
「まぁそうだがまずは外の状況確認が先だ。」
「わかりました。じゃあまずは自分が行きます。他に誰かもう1人欲しいかな…」
「わかった。じゃあヤク。頼む。」
「了解だ兄貴。じゃあ行こうぜ。春人。」
「ああ、わかった。」

 誰がボックスを打ち上げたのか調べたかったが、身の安全を確かめる方がさきだと感じた春人はヤクを連れてタウンの外に踏み出した。

・「うわぁ…酷いな、これは。」

 タウンの外の光景を見た春人とヤクの感想はその一言だった。タウンの外は死体だらけだった。いたるところでさっきの戦闘で死んだらしい人間の死体で埋め尽くされていた。全身撃ち抜かれハチの巣にされた死体、頭を撃ち抜かれた死体、首を刃物で切られた死体など色々な死体がそこら辺に大量に転がっていた。そんな死体だらけの外を見ていた春人は、何か考えこんでいた。

「どうした?さっきのボックスについてまだ考えてんのか?」
「まぁ、それもあるんだがな。あの死体の格好に見覚えがあってな…」

 春人が指を差した先の死体の服装、それはついさっきまでこの辺りを歩いていたガスマスクの2人組と同じ格好だった。周りを見てみると同じ服装をした死体がいくつもある。

「何だこいつら?雨も降ってないのにカッパなんか着て。」
「まあ、そうなんだけどさ。俺さぁ…こいつらをあのパンデミックの日に見たことがあってな。」
「へぇ、そうなんだ。どこで見たんだ?」
「どこっていうか…こいつら俺の足を撃って、俺をゾンビから逃げられないようにした奴らなんだよな。多分。」
「マジか!」
「ああ。あの時も確かこんな黄色のレインコートを着て、ガスマスクを着けたこんな連中だったもん。」
「そうなのか。じゃあ、こいつらもそのお前の足を撃ったやつの仲間のかな?」
「そうだろな。格好も同じだし。」

 そんなことを話しながら歩いていると春人は奇妙な死体を2つ見つけた。

「なぁ、この死体の傷おかしくないか?」

 ひとつは腰から上が引き千切られたような跡を残して無くなっており、もうひとつの死体は背中に4本の爪痕がついた死体だった。

「そうか?町を歩いてたらたまに見そうな死体だけど?」
「いや、考えてみろよ。さっきまでここで人間がドンパチ騒ぎを起こしてたんだぜ?こんな殺し方普通の人間ができるか?無理だろ。」

 春人が奇妙に感じたことはまさにそれだった。春人達が『タイラント』と呼ぶような巨大なゾンビなら可能だろう。だが、そんなゾンビの死体はこの周辺にはなかった。更に見つけた死体はまだ新しく、死んでまだそんなに経っていなかった。

「言われてみればそうだな…。ん?なぁ春人、この死体首筋に穴が開いてないか?」
「え?あ、本当だな。変な傷の死体以外にはみんなついてるみたいだな。」

 ヤクに呼ばれて見てみると確かに首筋にゴルフボールくらいの大きさの穴が開いていた。そんな死体を眺めていると、後ろからヤクザ達が来ていた。

「すごい事になってるな。」
「はい。それになんか変な死体が…」
「あ、兄貴!この死体、ゾンビになってますぜ!」
「「はぁ!?」」

 春人が喋るよりも先にヤクザと一緒に来ていたゾンビが声をあげた。見るとさっきまで動かなかった死体がぎこちない動きで立ち上がっていた。

「うあぁぁ…」
「グルルル…」
「おい、おい、この死体、さっきまでピクリとも動かなかった死体だろ!?何で動いてんだ?」
「んなもん分かるか!とりあえず頭をつぶす…」
「いや、もう終わりましたよ。」
「「早!!!」」

 ヤクザが指示を出すよりも早くに、春人が動きだしたゾンビの頭を潰していた。

「ほっとくとどうなるかわからないからな…早いに越したことはない。」
「まあそうだが…慈悲ねぇな、オイ。」

 ゾンビの頭を潰し、それを見たヤクがゾッとしていると、

「ゴガァァァァァ!!!」

と遠くからものすごい雄叫びが響いた。

「タイラントか?」
「そうなんじゃないか?」

 周りがそんなことを話している中、春人は1人その雄叫びに嫌なものを感じていた。

「ヤクザさん!ちょっと向こうの様子見て来ます!」 
「ん?あぁ。気いつけろよ!」

ヤクザ達が見送る中春人は雄叫びのした方向に走っていった。















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