令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

78.第四章 愛しさと、ぬくもりと⑮

「うっるせええええええ!」

 大声が轟いた。
 ロギだった。

「なんでこんな大人数が集まってんだよ? 授業中だろ? そもそもなんでおめーは、学院の中庭なんかに降りるんだよ? おめーの目立ちたがりに俺はもう付き合えねえよ!」
「デジャンタン術式学院の皆の者、私こそがカロア水系の主精――」
「黙れ!」
 そしてロギはあろうことか、精霊のうしろ頭をすぱーんとひっぱたいた。

「痛」
「痛くねえ! 精霊なんだから気のせいだ!」
「私の見せ場なのだから、そなたこそ黙れ」
「見せ場なんかいらん! なんでそっと事を運べないんだ!?」
「この姿のせいだろうと思う。注目されると、快・感。――痛」
 ロギがもう一回、精霊の頭をひっぱたく。
「おまえもう一回、メリチェルに造形し直してもらえ。その顔が悪い。その顔が」
「ことわる。私はこの顔が非常に気に入っている」
「メリチェル! こいついったん廃棄! 作り直せ!」
「駄目だメリチェル。私はこの顔が好きなのだ。そなたが死ぬまでこの顔とともに麗しく艶やかに生きる。それが、運・命。」
「くっそううう。こっ恥ずかしい人格を……!」

 さっきまでの気負いはどこへやら、メリチェルはぽかーんとするしかなかった。
 マヨル、レオニードも、見物の生徒たちも、全員が龍の上の掛け合いをぽかーんとした顔で眺めていた。

一体なんなのだ、この漫才は……。

「俺は下りる……もう下りる……。見せ場でもなんでも、勝手にやってろ」
 ロギは水龍からすべり下りた。そして呆然としているメリチェルにつかつかと歩み寄ると、その手をつかんで走り出した。

「えっ、ちょっとロギ……」
 ロギとメリチェルに注目しているのはごく一部で、生徒や先生の大部分は、水龍の上で語る精霊を見ていた。

「皆の者、私こそがカロア川の精霊。支流傍流を従える大カロア水系の主たる精である。こうして人前に姿を現すのは、王都包囲戦の傷も冷めやらぬドクロワ王の御代から数え、まさに二百五十五年ぶり――」
 いやに慣れたかんじの口上が聞こえる。
 演説とでも言いたくなる、朗々たる精霊の語りである。

 精霊が何を話すのかメリチェルも気になったが、ロギが手を強くつかんではなしてくれなかった。


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