令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

76.第四章 愛しさと、ぬくもりと⑬

(ロギ!?)

 見上げるメリチェルの目に、水龍の背に乗る人物が見える。

 ふたりいる。

 龍の首にしがみついているロギ。それともうひとり、舞台衣装風の派手な装いの、現実感のない長い髪の人物。

 長い髪の人物は、重力など存在しないかのように、下降する龍に悠々と立って乗っている。その余裕の姿勢には、たしかに見覚えがある。

「え? え? カロア様?」

 しかし服がちがう。以前見た、優雅な古代衣裳ではなくて、それはまるで――。

「え? なにあの人。舞台俳優?」
「きゃああああ! かっこいい!」
「かっこいい?」
「顔はかっこいい。服は……場違い?」
「カロア川の精霊? あれがカロア様なの? すすす素敵……!」
「あの悪趣味を素敵というか……」
「ちょっといろいろどうなの……」
「カロア様――っ☆」

 熱狂的な反応と微妙な反応が入り混じる。

 それもそのはず。カロア川の精霊とおぼしき人物は、金モールと刺繍で縁どられた純白の長上着を着ていて……それはいいとしても、上着の下は素肌で、はだけた胸元をかくすのはふわふわの羽毛でできたストール、しかしそのストールは長い銀髪とともに風にあおられ後方へ流れ、今にも上半身を衆目の元にさらしそうな際どさだった。

(ちょちょちょちょ、どうしちゃったのカロア様!)

 メリチェルは目がちかちかしてきた。
 田舎の領地で、品行方正に育てられてきた伯爵令嬢には、素肌に長上着は刺激が強すぎた。羽毛のストールには金粉でも仕込んであるのか、いやにキラキラしている。
 それにも増してくらくらするのは、カロア様の目元口元の色っぽさである。
 おそらく、化粧している――。

「なんですか、あれは」
 マヨルが冷え切った声で言った。
「ロギと……カロア様、かしら?」

「あれが精霊ですか――――っ!」

 マヨルが龍に乗る麗人をおもいっきり指差す。それと同時に、高度を下げた水龍が頭上で停止した。
 

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