令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

65.第四章 愛しさと、ぬくもりと②

 レオニードはにっこり笑って、扉から出るメリチェルを見送った。

 同類の笑顔だわとメリチェルは思った。レオニードの笑顔は貴族の笑顔だ。

 十四歳のメリチェルは王族主催の正式な舞踏会にはまだ出たことがないが、十六歳になって王都の舞踏会に呼ばれる日が来たら、会場にレオニードがいるかもしれない。

 自分はいつか、自分と同類の笑顔を浮かべる男性と結婚することになる――。
 貴族に生まれたからには、それが運命だとわかっている。

 わかっているけれど……。

 メリチェルはそっと目を伏せた。
 ――ロギは今、どこにいるんだろう。

(ロギにあいたい……)

 決して自分と同類の笑顔を浮かべない、ロギにあいたい。

(ロギ、わたし、術式で水を動かせるようになったわ)
 そう言ったら、ほめてくれるだろうか。あの大きくて暖かい手を頭にのせて、分厚い手のひらで不器用になででくれるだろうか。

 彼の手のひらの感触を思い出したら、メリチェルの胸がきゅんとうずいた。

 ロギとはいつまで一緒にいられるのだろう。
 編入試験に合格すれば、メリチェルはあと数年、デジャンタン術式学院で過ごすことになる。けれどロギは、学べることを学んだら去ってしまうのだろう。

 ロギが去っていくときには、たくさんたくさん蜂蜜の飴を贈ろう。
 なるべく長い間、自分のことを思い出してもらえるように。
 蜂蜜色の髪をした令嬢に手を焼いたことを、忘れないでいてもらえるように。

(ロギ、大好き……)

 これが恋というものなのか、それとも兄のように慕っているだけなのか、自分でもよくわからない。

 ただはっきりわかるのは、ロギとさよならしたくないということだけ。
 はなればなれになっても、どこかでつながっていたいということだけ。


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