令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

56.第三章 くじらちゃんを探せ⑭

 ふっと、レオニードの目元がやさしくなった。
「……一般的にはぬいぐるみと呼ばれるものだね?」
「そう、一般的には」
「メリチェルが大事な友達をなくしてしまったから、君が探してやると。そういうことだね?」
「念を押すみたいに言わなくていい」
 ロギは頬を赤らめて、ぷいっと横を向いた。

「協力しよう。痛々しいほどにがんばっている、メリチェルのために」
「……あいつ、そんなにがんばってるのか?」
「術式に関しては、僕は関わってないからわからない。でも、彼女のがんばりはわかる。暗い顔ができないんだよね、貴族の子はさ。無理にでも明るくふるまう癖がついてる」
「暗い顔ができない? どういうことだ?」
「メリチェルは領主の娘だろう? 家には大勢の召使いがいて、来客もしょっちゅうだ。家にいても、そこはくつろぎの場じゃない。大勢の目にさらされている。さらには社交界という戦場がある。ちょっとしたうわさが家の評判を上げたり下げたりする。社交界で感情をあらわにすることは許されない」
「……」
「貴族の子は、いつも笑っていなさいと言われて育つ。怒ったらいけない。泣いたらいけない。堂々とした態度で、おだやかな微笑を張り付けていなさいと。子供には、凄まじい重圧だよ」

「あんたも貴族か?」
 ロギの疑問に、レオニードは肯定の微笑で答えた。

「――僕は術式の研究に逃げ場を見つけた。メリチェルはなんだろう……。くじらちゃんかな? だったら見つけてあげたいね……。赤マントのメリチェルは、学院で誰にも相手にされていないから。さみしさに耐えてると思うんだ」
「マヨルは……?」
「白制服はほとんど自由時間がないんだ」
「……あいつ、なんでそんな思いまでして学院に通ってるんだ? 術式なんかで身を立てなくとも、悠々暮らしていけるじゃないか」

「国を殺した王様の話を知ってるかい?」

「は?」
 いきなりの話題転換に、ロギはついていけなくて眉間を寄せた。

「古い童話だよ。川の精霊と友達になった王様の話。王様は精霊に頼んで、川の流路を変えてもらった。自国の畑をうるおすために、川の精霊に自分の国を通ってくれるよう頼んだんだ。そして王様の国は豊かになった。けれど、もともと川が流れていた隣の国は、畑が干上がって貧しくなった。隣の国の王様は、王様の国に攻め入って滅ぼしてしまった……って話」

「ああ。知ってる。それがなんだ?」
「あの童話は半分実話だよ」
「え……」


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