令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
45.第三章 くじらちゃんを探せ③
学院長室の扉を開けると、学院長が立ち上がって出迎えてくれた。
この学院を訪れた初日、施設の利用許可をもらいに来たときは、椅子に座って書類を見ながらだった。だいぶ待遇が変わったと言える。
「おお、ロギ君。契約書類は見てくれたかね?」
「はあ」
「組合の人間に君を紹介されたときは驚いたよ。これもなにかの縁だ。ぜひとも契約を」
「はあ、そのつもりで来ました」
ロギが学院長室を訪れたのは、仕事の依頼があったからである。仕事の依頼は、デジャンタンの術者組合を通して来た。
顔見知りの組合事務員が「術式学院から建物復旧と結界解除の依頼が来てるけど、あなた通ってるんだし、ちょうどよくない?」と仕事を持ってきたのだ。
ちょうどいいもなにも、復旧の手伝いくらいはさせられるだろうと覚悟していたので、賃金が出るならそれに越したことはない。
さらさらと書類にサインをし、契約成立となったところで、学院長が言った。
「カロア川の精霊を誰が呼んだか、組合でも見解は出ていないかね」
「いませんね。組合でも謎です」
ロギは淀みなく答えた。
嘘はついていない。組合では謎だ。
しかし、ロギの中では謎ではない。精霊を呼んだ当人の口からきいたことだし。
現在監禁処分になっているアンゼラの話題がさほど大きくなっていないのは、カロア川の精霊が出たという、もっと大きな話題に飲み込まれてしまったからである。
ほんとうにカロア川の精霊なのか?
そうだとしたら誰が呼んだのか?
文献にあるのと姿がちがうのはなぜか?
などなどなど。学院内のみならず、デジャンタンの街中がこの話題で持ちきりなのだ。
(ったく、どうするつもりだ。あの令嬢は!)
ロギはため息をついた。
同時に、学院長もため息をついた。
「どうしました、学院長?」
「実は、生徒たちからこんな嘆願書がたくさん出ていて……」
学院長は机の上の紙の束をロギにわたした。
一番上の紙には「呪術の授業を設けてください」と書いてある。めくって二番目を見ると「これからの時代、精霊の研究も必要だと思われます」とある。
「……相当刺激的な光景だったんですね」
「精霊など、前時代的な」
学院長はもう一度ため息をついた。
この学院を訪れた初日、施設の利用許可をもらいに来たときは、椅子に座って書類を見ながらだった。だいぶ待遇が変わったと言える。
「おお、ロギ君。契約書類は見てくれたかね?」
「はあ」
「組合の人間に君を紹介されたときは驚いたよ。これもなにかの縁だ。ぜひとも契約を」
「はあ、そのつもりで来ました」
ロギが学院長室を訪れたのは、仕事の依頼があったからである。仕事の依頼は、デジャンタンの術者組合を通して来た。
顔見知りの組合事務員が「術式学院から建物復旧と結界解除の依頼が来てるけど、あなた通ってるんだし、ちょうどよくない?」と仕事を持ってきたのだ。
ちょうどいいもなにも、復旧の手伝いくらいはさせられるだろうと覚悟していたので、賃金が出るならそれに越したことはない。
さらさらと書類にサインをし、契約成立となったところで、学院長が言った。
「カロア川の精霊を誰が呼んだか、組合でも見解は出ていないかね」
「いませんね。組合でも謎です」
ロギは淀みなく答えた。
嘘はついていない。組合では謎だ。
しかし、ロギの中では謎ではない。精霊を呼んだ当人の口からきいたことだし。
現在監禁処分になっているアンゼラの話題がさほど大きくなっていないのは、カロア川の精霊が出たという、もっと大きな話題に飲み込まれてしまったからである。
ほんとうにカロア川の精霊なのか?
そうだとしたら誰が呼んだのか?
文献にあるのと姿がちがうのはなぜか?
などなどなど。学院内のみならず、デジャンタンの街中がこの話題で持ちきりなのだ。
(ったく、どうするつもりだ。あの令嬢は!)
ロギはため息をついた。
同時に、学院長もため息をついた。
「どうしました、学院長?」
「実は、生徒たちからこんな嘆願書がたくさん出ていて……」
学院長は机の上の紙の束をロギにわたした。
一番上の紙には「呪術の授業を設けてください」と書いてある。めくって二番目を見ると「これからの時代、精霊の研究も必要だと思われます」とある。
「……相当刺激的な光景だったんですね」
「精霊など、前時代的な」
学院長はもう一度ため息をついた。
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