令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
33.第二章 カロア川の精霊⑪
下宿の居間である。
メリチェルがベルタに誘われてお茶をいただいていると、ロギが帰ってきた。きょうも図書室から借りた本をどっさり抱えている。
「ロギ、あんたもお茶にするかい? メリチェルちゃんが焼き菓子を買ってきてくれたんだよ」
「ん。ああ」
荒っぽそうな見てくれに似合わず、ロギは甘いものが好きなようだ。
この間、飴の袋をのぞきこんでいる姿を見た。なくなってしまったようだから、屋敷から送ってもらってあげてもいいかなとメリチェルは考えている。
ロギはメリチェルの向かいの席に、どかっと腰を下ろした。
「んあー……」
ロギはなにか考え込んでいる様子だった。
「なにかあったの?」
「あの、くやしいきいきいきい!の女……」
「アンゼラのこと?」
「そんな名前だったか。女王様みたいな女とそのとりまきに、目の仇にされてるな。マヨルともども。女のトップ争いこええ……」
「女王様? ミラかしら」
「顔立ちが派手で気の強そうな。舌なめずりが似合いそうな」
「すごい言いようね。きっとミラだわ」
「術式学院を出るのが術者のエリートコースだけどよ、学校の中で競争するのはごめんだと思ったな。嫉妬がこええ」
「出る杭になって打たれたくないのなら、どこにも出ていかなければいいのよ」
メリチェルはそう言い放つと、クリームを添えた焼き菓子をあむんと口に入れた。
「おいし〜い」
「お茶のおかわりいるかい? メリチェルちゃん」
「ありがとう、ベルタさん」
ロギがあっけにとられているのが、メリチェルにはわかった。
男性の多くは、自分のことを砂糖菓子かなにかだと思うようだ。それはそれで構わないのだが、いつも砂糖菓子でいるわけにはいかないので、たまにはびっくりしてもらうことにしている。
「なあに、ロギ? わたしの顔になにかついてる?」
「い、いや……」
ロギはあわてたように、焼き菓子を口に入れた。
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