令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

20.第一章 デジャンタン術式学院⑳


     *****

 その後六年の年月を重ねて、メリチェルにとってのマヨルは、とても一言では言い表せない大切な存在になっている。

 マヨルの過去も未来の夢も、メリチェルは知っている。
 マヨルは学院で術者として実力をつけて、散り散りになった国の人を集め、いつか故国を取り返す志を持っている。メリチェルの父ソシュレスタ伯は、そんなマヨルを支援している。だからマヨルが学院に通う費用を受け持ったのだ。父は学費の返済は受け取らない気でいるが、マヨルは返すつもりでいる。

(故郷がなくなるって……家族や親しい人を戦争で亡くすって……どんなことかしら)
 豊かな国の恵まれた地位に生まれたメリチェルには、想像がつかない。想像はつかないけれど、名前を教えてもらおうとマヨルを探したあの幼い日、屋敷の裏手でひとり静かに泣くマヨルを見つけてしまってからずっと――遠い目をして涙を流すマヨルの穴の空いたような表情を見てしまってからずっと――伝わってきた悲しみは、メリチェルの胸のうちで生きている。

(我が国エランダスは平和なのだわ)
 王立術士団は敵国と戦う組織ではなく、術者の出世の象徴なのだから。
 もしも――もしも大きな災難が、この国に降りかかってきたら……。

 メリチェルはぶるっと身震いしたものの、すぐにきりりと顔をあげた。
(ソルテヴィルの地はわたしが守るの)
 そのために学院へ来たのだ。そのための力を得るために。



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