令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
16.第一章 デジャンタン術式学院⑯
日が落ちて夜の帳が下りてくる時間帯。天井の高い石造りの廊下に、メリチェルの足音がカツコツと響く。
マヨルの故国は、今はもうない。侵略に遭い、征服されてしまった。遠い遠い、海の向こうの話……。この国では、ごく一部の政治意識の高い人々しか話題にしない、別の大陸の侵略戦争。正確な情報も伝わってこない、はるかかなたの世界の話。
けれどマヨルは故国を忘れていない。父親とふたり、命からがら逃げ出してきた戦火を忘れていない。母と幼い弟を亡くした日を忘れていない。皆を死なせ、ばらばらにした侵略国ザティナに対するうらみを忘れていない。
この国の人々にとっては遠い他国の話でも、この国に逃げてきたマヨルにとっては、決して遠くならない話。
メリチェルはそっと目を伏せた。
思い出すのは、はじめてマヨルに話しかけた、幼い日のこと――。
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