令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

15.第一章 デジャンタン術式学院⑮


「さっきからなんの用なんだ!」
 ロギがもういいかげんにしろとばかりに声を張り上げた。途端に司書長から「そこ、静かにしなさい」と注意が飛ぶ。

「……なんで俺が注意されなきゃいけないんだ」
「声が大きいからでしょ」
「誰のせいだよ……。なんのうらみがあって君は俺にまとわりつくんだ?」
「うらみじゃなくて興味があるの。あなたはわたしに興味ない? わたし『呪術師』よ? レオニード先生がそうおっしゃったのよ?」
「貴族のお嬢さんに『無能』だとは言いづらいだろ。その代わりに『呪術師』と言ったんだ。術式の基礎がなくとも、生来の勘で術式っぽい能力を発動できる子供はよくいる」
「勘じゃないわ! ちゃんとマヨルに習ったもの」
「マヨルって?」
「友達よ。遠い異国から来た人」

「異国の術者か……」
 ロギの瞳が興味ありげに輝く。

 この人はめんどくさがりのようでいて、術式に関しては好奇心旺盛な人。メリチェルはそう判断した。人と話すのはおもしろい。ちょっとした会話の端々に出る興味の持ち方、感情の出し方で、相手がどんな人かわかってくるから。

「マヨルは今、この学院にいるの。白い制服の最上位クラスよ」
「――なにっ?」
 ロギの顔色が変わった。

「白い制服なの。マヨルのほかには見かけないわ」
「白い制服は王立術士団候補生の証だ。各地の術式学院に、毎年一人ずつ推薦枠がある」
「まあ! マヨルは王立術士団に推薦されるの?」
「推薦されたからってすんなり入れるわけじゃない。試験が少々有利になるだけだ。つまり、俺とマヨルとやらはライバルになる。異国の呪術が使える術者だと? どの程度のやつなんだ……」

「マヨルはあなたのライバルにはならないんじゃないかしら」
「なぜ? マヨルは王立術士団に入る気がないのか? 出世街道なのに」
「この国で出世する気はないんじゃないかしら」
「いつか故国に帰るってことか?」
「帰れるようになったら、帰るんじゃないかしら」
「帰れるようになったら?」

 メリチェルはにっこりほほえんで、答えは返さなかった。

「わたし、もう行くわ。そろそろ寄宿舎に行かないと」
「おい、ちょっと待て、マヨルの話を――」
「勉強の邪魔しちゃってごめんなさい。またね」
    メリチェルはひらひらとロギに手をふって、図書室の出口に向かった。

 扉の前でふりかえると、メリチェルに調子を狂わされたロギが、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

 ――なんだかかわいい。

(そっけない人かと思ったけれど、思ったより話してくれるし、がんばりやさんだわ。きっといい人ね)
 メリチェルは笑顔で彼にもう一度手をふって、扉を開けた。


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