令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
9.第一章 デジャンタン術式学院⑨
「君がさっきこの水槽の水に向かってとなえた『呪文』はね、日常語に翻訳すれば、『チョルチョル川とカロア川の親戚の水よ、メリチェルのために動いてください』と頼み込んだような内容だったよ。仮にこの水に人格のようなものがあるとしたら、『チョルチョル川って誰? 私はカロア川の親戚じゃないけど?』って思うだろう。地下水だからね」
「あ、地下水だったんですか……。てっきりすぐそこのカロア川から引いた水かと」
「推薦者の資料によると、君は故郷の川を操ることができるんだね。川全体を操れるなんてすごいことだけれど、どこでも川つながりで水をとらえようとするのはよくない。その方法では、おなじカロア水系の水しか操れないだろう。古代だったら、人は生まれた土地を遠く離れることは少なかったからそれでよかったかもしれない。しかし今の時代の人間は旅をする。多くの土地を知る。水は川でつながっていない……。固有名を用いる古代の呪術は、知り合いの知り合いは知り合いというような、狭い世界でしか通用しない」
「……狭い世界」
「君の『呪文』はソルテヴィルの地でしか通用しないんじゃないかな?」
「……マヨルにもそう言われました。わたしの術は、例えて言うなら、赤の他人に自分の知り合いの話ばかりして退屈させるようなものだそうです」
「いい例えかもしれないね。知り合いの川の話をして水の気を引こうとしないで、水全体がわかる文言を学びたまえ。君の最初の課題は『水』と会話することだ。『チョルチョル川』でも『カロア川』でもない、世界の『水』を操る術式を学びたまえ」
「世界の水ですかぁ……」
「術式に固有名を入れ込むことを禁止する。さて、君の級だが」
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