令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
6.第一章 デジャンタン術式学院⑥
門の外で名残り惜しげに手をふるばあやと御者に何度も手をふり返し、メリチェルはマヨルとともに学院の敷地内へ歩を進めた。
歩道も壁もどこもかしこも石で覆われた、歴史的価値のある大建築である。田舎育ちのメリチェルは重々しい構内の様子がめずらしく、ついきょろきょろしてしまう。
ときおり、茶色や深緑の制服を着た生徒とすれちがう。そのたびにメリチェルは笑顔で会釈した。
笑顔を返してくれる生徒はいなかった。みな冷ややかな視線をメリチェルに向ける。
そして通り過ぎたあとメリチェルとマヨルをふりかえり、不思議そうに見たり、連れとひそひそささやき合ったりする。
それでもめげずにメリチェルは、誰か通るたびに笑顔で会釈した。
人づきあいの基本は、まずあいさつから。
両親にそう叩きこまれてきたからである。
「ねえマヨル。茶色と緑と紺色の制服の人は通りかかるけど、マヨルみたいな白い制服の人はほかに見ないわ。制服の色って、どんな意味があるの?」
「この学院は能力別編成なのです。制服の色は級をあらわします」
「なるほど! マヨルは入学三ヶ月にして最上位生なのよね?」
「学院生二百人程度の中でのことですよ」
「それでもすごいわ! わたし鼻が高いわ。そんな人に学院を案内してもらえるなんて」
「……そのことなのですがお嬢様。私とはふだん行動を別にしたほうがいいと思うのです」
「えっ……?」
「寄宿舎の部屋はとなりですし、いつでもなんでもご相談に乗ります。勉強のお手伝いもよろこんでします。でも……人前ではなるべく別々に」
「いやよ。どうして?」
マヨルが理由を口にしようとしたとき「メリチェル・ヴェンヌ・ソシュレスタ君」と呼び止める声がした。
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