令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
5.第一章 デジャンタン術式学院⑤
メリチェルは手を伸ばしてマヨルの手を取った。
「マヨル! 三ヶ月ぶりだわ。元気だった?」
「ご到着を今か今かと待ちわびておりましたよ」
マヨルは切れあがった一重の目を細め、やわらかくほほえんだ。メリチェルより三つ年上のこの娘はめずらしい異国の顔立ちで、ふだんは表情がきつい。マヨルと顔見知りらしい門番は、彼女の笑顔におどろいたようだった。
「君、そんなふうに笑うんだな。このお嬢ちゃんは君の友達かい?」
「友達だなんて畏れ多い。この方はソルテヴィル領ソシュレスタ伯ご長女の……」
「メリチェル・ヴェンヌ・ソシュレスタですわ。マヨルとは屋敷では主従の間柄でしたけど、ここでは学友として過ごすつもりです」
メリチェルはマヨルの二の腕をそっとつかんだ。自分の身分は伯爵令嬢で、マヨルは父娘で屋敷に仕える召使いだった。でも、実力主義のこの学院内で、身分は関係ないときいた。それを思い出してもらうため、つかむ手に少し力を入れる。
「ここでは友達よね?」
メリチェルの言葉に、マヨルはしぶしぶといった様子でうなずいた。
「マヨルは遠い異国の生まれだけれど、ソルテヴィルに来たときにはもう素晴らしい術使いだったのよ。わたし、マヨルに術式を教わったの、門番さん」
「マヨルは入学三ヶ月で、学院生で一番の実力者と認められたんだそうですね。その愛弟子とあっちゃ、あなた様もきっとこの学院で名を馳せる生徒におなりでしょう」
「そうなれるようにがんばるわ、門番さん。――門番さんじゃ、何人もいるでしょうからわからなくなっちゃうわね。お名前を教えてくださいな」
「変わったご令嬢ですなあ。門番に名前をきく生徒なんて、ほかにいませんでしたよ。私はセロロスと申します」
「セロロスさん」
メリチェルは新しく出会った人の名前をきいたときいつもするように、明るい水色の瞳を大きく見開いて、じっとセロロスを見つめた。髭のあるおだやかな初老の顔を、深く心に刻みつけるように。
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