令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
1.第一章 デジャンタン術式学院①
車輪の音も軽やかに、箱馬車が丘の上を走り抜ける。
    十四歳のメリチェルは午後の光に目を細め、馬車の窓から外を見ていた。木々のむこうに街並みが見えてくる。
目的地の街、デジャンタンだ。
生まれてからずっと領地を出たことのなかった田舎貴族の自分が、デジャンタンのような大きな街でやっていけるかしら。
あんな都会に、なかよくできる精霊はいるかしら。
(あ……川が見える)
川にかかる石橋を渡る。窓の外では幅のある川が、日差しにきらきら輝いている。
大きな川。デジャンタンを流れる川。屋敷の裏を流れるチョルチョル川も、末はこの大河に流れ込んでいる。そう思えば、見知らぬ街も故郷の村の親戚のように思えて、心細さはやわらいでいく。
(川は好きよ。つながっているから)
「よろしくね、カロア川」
    橋を渡り終えるところで、メリチェルはそう声に出してつぶやいた。メリチェルの声に応えるように、川面に魚が一匹とびはねる。
「あら。うふふ」
「楽しそうですね、お嬢様」
    となりに座るばあやのエナは、のんきなお嬢様とちがい、そわそわとおちつかない様子だ。さっきから手の中のハンカチーフを揉んだり広げたりしている。
「そうね、楽しみでもあるし緊張も……きゃっ!」
突然、馬車がガタン!と大きく揺れ、止まった。
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