異世界に召喚されました。

ノベルバユーザー232937

5




 この世界は、魔軍と聖神教で争っている。
 魔軍のトップが魔王で、聖神教のトップは女神(ということになっている)。

 それで、女神は魔軍に対抗するために、六人の使徒を選んだ。

 その内の一人が俺――勇者で、残りの五人は五天人と呼ばれていて、その中の一人がエルノだ。

 あの悪魔が言っていた四帝魔っていうのは、魔王の側近で、四人しかいないけどめっちゃ強いらしい。

 ――以上!!


 ◯


 怪我もほとんどなく、気を失ってただけの爺さんとメイド二人はすぐに復活して、俺に色々説明してくれた。

「なるほど、何ともテンプレ設定ですな」

「何を言っているのですかあなたは……」

 現在俺は至る所が破壊された神聖巨大広間にて、神聖爺さんと向かい合っていた。
 俺の後ろにはアリアがいて、俺はあぐらをかいて座ってる訳だけど、何故かそこにすっぽりとエルノが収まっていた。
 もう一人のメイドさんはどこかに行った。

 エルノのサラッサラのブロンドの髪が目の前にあった。あ、つむじ発見。

「理解していただけたかの、勇者殿」

「あぁはい、よくある設定なんで」

「設定……?」

 悪魔を追っ払ったことと、聖剣を持ってたことで、俺は勇者として認められた。
 
 でもあの悪魔を呼び寄せたのは俺のビームが原因っぽいので、何だかなぁっと思う。こういうのをマッチポンプって言うのかな。

「そこで勇者殿に改めてお願いしたいのじゃ。魔軍と戦うために、チカラを貸してくれんかの」

「ええ、いいっすよ」

 二つ返事で答えると、神聖爺さんは目を丸くした。

「よいのか?」

「だってここで断ってもどうせ巻き込まれることになるし」

「……よ、よく分からんが、承諾してくれるなら何よりじゃ。
 そこで勇者殿に話したいのが、五天人のことでの」

「エルノがそうなんですよね」

「そうじゃ」

 皆の視線が、俺の股に収まっているエルノに集中した。
 エルノは、輪ゴム遊びに夢中になっている。

「……?」

 エルノはその視線に気付くと、不思議そうに首を捻った。

「あの、すみませんセイール様。一つ口を挟んでよろしいですか?」

 ピッとアリアが手を挙げる。

「申してみよ」

「私は、この男が勇者というのがどうにも納得できません」

「何故じゃ?」

「だって、こんな男なんですよっ?」

 どういう意味だそれは。

「エルノ様に密着されて、デレデレと鼻の下を伸ばしている顔なんてもうっ、気持ち悪くて犯罪の臭いしかしませんっ!」

「ち、違うわ! ばっかお前これはだな、あれだよ、娘を見守る父親の気持ちだよ。父性ってやつだよ!」

「エルノ、スズキ好きだよ」

「あぁもうっ、エルノたんは可愛いなぁっ」

 思わずエルノをギュッと抱きしめかけたが、殺気を放つアリアの視線に負けて腕を引く。

「……エルノ様、このような男に、その、き、き、キスをしたというのは、本当なのですか?」

 エルノは不思議そうに首を捻って、またさっきみたいに俺の頰に唇を当てた。

「いゃぁぁぁあああっ!」

 何だその悲鳴は。
 断末魔かよ。

「え、エルノ様、今すぐその男から離れてください!」

「やだ」

「エルノさまぁ……っ! あぁ、あんなに可愛いエルノ様がぁ……っ、」
 
「ふむ……」

 神聖爺さんが考え込むように顎に手を当てていた。

「エルノ様、先程も勇者殿にそのようになされたので?」

「……? うん、そう」

「なるほど……」

「あのー、ずっと気になってんですけど。エルノ……五天人と俺、勇者のことについてもっと詳しく教えてくれません?」

「おお、そうじゃったな。
 女神様の使徒、一人の勇者と五人の天人は、合わせて六光と呼ばれており、五天人の中心に勇者を位置づけるのじゃ」

「ほうほう」

 そして魔王を倒すには、この六人を揃える必要があるらしい。
 六人が揃った時、勇者の元には“真”の聖剣が現れて、大いなる力となる。

 でも、ただ揃えるだけじゃいけない。

 勇者と五天人の間には、神情(かんじょう)と呼ばれる強い感情の結び付きが必要となる。

「神情(かんじょう)に属される人々の想いは、主に六つじゃ。
 喜(よろこび)、勇(いさみ)、誠(まこと)、慕(したい)、愉(たのしみ)。そしてそれらの主となる愛(いとしみ)じゃ」

「つまりエルノが俺にちゅーしたのは?」

「愛の象徴じゃからじゃな」

 それはそれは、なんともまぁ。

「異界から呼び寄せられる勇者とは違い。天人はこの世界のどこかに必ず五人いる。
 “護” “戦” “癒” “助” “信” の五天。
 現在見つかっておるのは、“護”、“癒”、“戦”の三人じゃ」

 確かエルノは“護”って言ってたよな。

「あと二人探さんとダメなのか。見分け方ってのは何なんすか?」

「気持ちが高ぶった時、体のどこかに神聖なる六芒星が現れるのじゃ。エルノ様、お願いできますかの」

「……わかった」

 すると、ピカッとエルノから光が漏れた。
 エルノ顔を覗き込むと、その額に、小さな光の六芒星が刻まれていた。

「おぉ……っ」

 それカッコいいぞ。

 スッと六芒星は、消えて無くなった。

「これが天人の証拠となる。
 そこでいきなりなのじゃが、勇者――ユウ殿には、旅に出てもらいたい」

「展開早いっすね」

「魔軍に勇者の存在が持ち帰られたとなると、もう悠長にはしていられん」

「ごめんなさい」

「仕方ない。どの道勇者の存在を隠し切ることは不可能に近かったからの。
 勇者殿には、天人とあい成す神情を強めてもらわねばならぬ。同時に、まだ見つかっていない二人の天人も探してもらいたい」

「あ、分かった! 今から俺はエルノと一緒に仲良くなりながら旅をして、他の天人に会いに行くってことっすね!」

「そ、その通りじゃ、よく分かったの……」

 察しがいいとはよく言われます。空気読めないともかなり言われるけど。

「エルノ様、ようやくこの時が来ました。勇者殿と共に、魔王を倒すために、天人たちを集わせねばなりません」

 エルノはまた輪ゴムに夢中になりながら、話半分にふんふんと頷いていた。
 爺さんはそれを見て、苦笑いしている。

「でも、エルノ。外が怖いとか言ってたよな、本当に大丈夫なのか?」

 エルノのつむじに向かって言うと、彼女はくるっと振り返って俺を見た。

「スズキと一緒なら大丈夫」

「よしじゃあ行こう。今すぐ行こう二人きりで」

「ふむ、問題ないようじゃの。では、今から旅の用意と、他二人の天人が住む位置を記した地図を」
 
「ちょっと待ってください!」

 ズイとアリアが割り込んで来た。

「いけませんセイール様! 問題がないはずありません。
 こんな変態男とエルノ様を二人で旅に出すなんて……っ」

「ちょっと待って、変態と言われるようなことした覚えないんだけど」

「あなたは黙っていてください!」

「……なぁエルノ、あのお姉ちゃん怖くね?」

「でもエルノ、アリアも好きだよ」

「エルノ様っ!」

 感動で泣きそうな表情になるアリア。そんなに嬉しかったのか。

「俺もアリアのこと嫌いじゃないぜ!」

「次同じこと言ったら殴りますよ」

 なんでこいつ俺にそんな当たりキツイの?

「そうじゃのー」

 難しいものを考えるような顔で、神聖爺さんはずっと唸っていたが、ついに結論を出したらしい。

「ならば、アリアも勇者殿とエルノ様に着いて行ってくれぬか。よくよく思えば、身の回りの世話を出来る者がおった方がよかろう。アリアであれば、自衛も護衛も可能じゃ」
 
「え、この男と日を共にしろと言うことですか?」

「なにも無理にとは言わぬが……」

 アリアが俺を見て嫌そうな顔になる。
 
「一体どうしたいんだよお前は。別にいいよ、俺はエルノたんと二人で行くから」

「そんな羨ましいことっ、」

「羨ましい?」

「――そんな危ない状況見過ごせません、私も行きます!」

「お前も人のこと言えないよな」



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