異世界に召喚されました。
1――異世界に召喚されました。
どうやら俺は異世界に召喚されたらしい。
中世ヨーロッパのような街並み。気付けば多くの人が行き交い喧騒と熱気が渦巻く往来に俺はいた。
間違いなく異世界召喚だ。ラノベやネット小説は好きなので、よく知ってる。
これは間違いない。だってどう見てもここ地球じゃないもん。
根拠は二つ。
通行人の中に、獣耳っ子がいること。
そして、さっき上空を飛んで行った鳥がプテラノドン並みの巨体だったのにも関わらず、誰も気に留めていなかったこと。
他にも色々あるが、決め手となったのはそれだ。
「異世界に来ちまったか」
おかしい、俺はいたって平凡な高校生だった筈なのに。
苗字は鈴木だし、名前はユウだ。
多分探したら同姓同名なんてわんさかいる。
顔もスペックも客観的に見て平凡、友達はいなかった訳じゃないが、多くもなく、親友と呼べる奴はいなかった。
家庭も至って普通だったしな。
強いて平凡でない点をいうなら、適応力が高いという自負があるくらいか。
流石に異世界に来た瞬間はビビったが、今となっては落ち着いてしまっている。
まぁ、それならそれで何とかなるだろと思ってしまう。
家族や友達と離れたことも悲しいが、悲しんだところで今の段階ではどうしようもないしな。
よし、切り替えよう。
俺は大通りをフラフラと歩き始める。
俺の格好がおかしいのか、ジロジロと異質な目で見られる。
まぁ、俺だって日本の人混みの中に南米あたりの原住民族がいたらビビるからな。
例えるならそんな感じで俺は目立っていた。
しかし、いくらなんでも死ぬのはいやだ。
右も左も分からぬこの状況、なんとかしなくては。
幸いなことに言葉は通じるようだった。これが異世界召喚ご都合主義の力か。感心せざるを得ない。
とりあえず目標をハッキリさせよう。
第一に、最優先で生活基盤の安定化。
第二に、地球に帰る方法を見つけ出す。
以上だ。
異世界の生活を満喫したい節もあるが、帰宅手段を確保しておいて困ることはない。
ふむ、目的を決めるとやることがハッキリしてくるな。
俺は近くを通りかかった人の良さそうなお姉さん(巨乳)に話しかける。
「あの、すみません」
「あ、はい、何ですか?」
すんなりと立ち止まってくれた。親切そうな笑顔を浮かべている。
おぉ。異世界と言えども、人間の人情というものに変わりはないのだ。
感動。
俺は全身から哀愁を滲ませる。
「実は俺、記憶喪失なんです……、それで、お金もなくて、自分が誰かも分からなくて、帰る場所も頼れる人もないんです……」
「……えぇ……、そ、そうなんですか?」
あ、お姉さんの顔が「あ、ヤベェ面倒なことに巻き込まれた」と言いたげな露骨な嫌な顔に変わった。
まぁ、うん、あれだな。
俺だって、通りすがりの人にこんなこと言われたら同じ顔をする自信がある。
「病院まで、案内しましょうか……?」
「え、病院あるんですかっ?」
「えぇ、まぁ、ここは王都ですからね」
ほう、王都か。それでこんなに立派な街並みをしてるのかな。
てことは、ここは王国か。もしかしてあそこに見えるクソでかい建物って、城か?
「でも俺、お金ないんですけど」
「え、そ、それは……」
お姉さんの顔が、さらに面倒そうなものに変わった。
これ以上は申し訳ない。
「あ、やっぱりいいです。たった今急に記憶を取り戻しました」
「は?」
「それではこれで」
ぽかんとした顔のお姉さん。
俺は「そうか、俺は天に選ばれしイノセンスヒーロー七英傑の一人だったのか……、世界を救わねば」と、呟きながらその場を去った。
「さて、振り出しに戻った」
そこで俺は閃いた。
そうだ、冒険者ギルドだ。
こういう時、異世界に来た者は主人公たちはギルドに行って生活基盤を整えるのだ。
何故かって? 主人公は強いからだよ。
そう、いわゆるチート能力だ。
原因は不明だが、異世界に召喚された俺にもそのような力が備わっていると見て、まず間違いないだろう。
どんな能力が備わってるんだろうな……。
試しに、俺は全力の気合いを込めて、手の平を天に突き出した。
「ハイパービームっ!!」
瞬間、ドォゥウンッッ! という音と共に、とんでもない光量を放つ光線(ビーム)が螺旋を描きながら天に上っていった。
「おぅ……」
ザワッと人混みに衝撃が走って、皆が天を見上げ、指を指したりしていた。
いきなりやったことなので、誰も俺の仕業とは気付いていないし、思ってもいないだろう。
だが、俺がビームの真下にいたことは事実。
ザワザワと異様に騒つく人々を後にして、俺は早足でその場からスタコラと逃げ出した。
◯
冒険者ギルドを探す途中、気になる話を聞いた。
この王都には、女神様を奉る大神殿、なんかの宗教の総本山があるらしい。それで、その神殿にて、本日『勇者召喚』が行われたとのことだ。
すげぇ心当たりがある。
もしかしてそれ俺じゃね?
召喚される位置がずれちゃったんじゃね?
ていうか絶対そうだろ。
現在この世界は、魔王が復活し、人々が魔のモノたちに酷く苦しめられていて、それを救うために女神様のチカラを借りて、救世主――勇者を呼び出すという儀式が行われるという話らしい。
テンプレで安心した。とても分かりやすい。
俺はその神殿とやらに向かうことにした。
俺が勇者だと分かれば、きっと俺を養ってくれると考えたからだ。
身柄とかを拘束されるかも知らんが、とりあえず今は安心安全な生活の確保だ。
不都合があれば、その時考える。
人に聞きながら、ようやく神殿に辿り着いた頃には日が暮れていた。
結構な距離を歩いたが、全然疲れていない。この身体はかなり有能なようだ。
でも腹は減る。
俺は、荘厳な門の前で立ち尽くす。
さて、どうやって中に入ろう。
結局、ジャンプして中に侵入することにした。だって声出しても誰も来ないし。
俺は三メートルほどの高さを軽々と飛んで中に入る。俺すげぇ。
高層ビルを横倒しにしたような神殿。俺は適当な入り口から中に入る。
中は薄暗い。
「だれかいませんかーっ?」
反響する声。反応なし。
寂しい。
通路を一人で歩いていると、ガタっと物音が聞こえた。
振り返るととある部屋のドアが開いて、女の子がチラッと顔を覗かせていた。絹のようなブロンドの髪が揺れていた。歳は十歳くらいで可愛らしい子だ。
女の子はジィーっと俺を見つめていたが、俺に見られていることに気がつくと、ハッとして顔を引っ込める。
しばらく待っていると、女の子はまた顔を覗かせた。そして俺に気付き、また顔を引っ込める。
そんなことを何度か繰り返したあと、女の子の方から話しかけてくる気配はなかったので、俺から話しかけた。
「君、ここに住んでるの?」
「っ!」
びっくりしたようで、彼女は部屋の中に引っ込んでドアまで閉めてしまった。
「あ」
コンコンとノックする。
「おーい、俺が気になってたんじゃないの?」
「…………」
「ふむ……」
コンコンともう一度ノック。反応はなし。
これはどうしようもない。
鍵はかかってなさそうなので開けられるのは思うが、それはやめておこう。
「違う人探すか……」
俺はまた通路を歩き始める。
ガチャリ、と背後で音がした。
またあの女の子だ。
俺と目が合うと、彼女はまた部屋に引っ込んだ。
ふーむ。これはどうするか。
仕方ないので、俺はまたドアの前に移動して、コンコンとリズミカルにノック。
「俺は怖くないぞー、とっても優しい、小さい女の子に対しては世界一優しいお兄さんだからなっ」
……なんか危ない人に聞こえるな。おかしい。どうしてだろう。
「コーン、コンコンっ、コーン、コンコンっ」
コンコンとリズムに乗ってノックしてたら、テンション上がってきた。
「あなた……、何してるんですか」
「え?」
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