ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~
19話 「自由の国の火器」
――ラフ・アスラ島(※フロンティア島の先住民側呼称)の民は、この島に生息する生物の事を『アスラ』と呼び、一定の距離を保ちながら生活していた。しかし彼ら先住民族の生活地域に侵入し、災いをもたらす生物を『ラフ・アスラ』と呼び、畏れ敬っていた。
――フロンティア島先住民族の歴史より。
――特定危険指定害獣(――以下、特害獣)とはフロンティア島に古来より生息する大型の生物。人に危害を与え』、尚かつ、『軍事力』でしか対処できない生物の事をいう。
――特害獣の特徴。
一、特害獣には、『上位個体』と『下位個体』の二つ種類がある。
(A) 上位個体とは、進化の欠片、(――別紙記載)により身体の構造を進化させた個体のこと。強力な肉体と人並みの知能を有する。対処するには小隊、若しく中隊規模の戦力が必要。しかし、個体によっては大隊規模の戦力が必要な場合がある。
(B) 下位個体とは、主に上位個体に付き従う生物の事。こちらはごく普通の大型生物ではあるが、対処するには、組、もしくは分隊規模の戦力が望ましい。
――フロンティア陸軍、『特定危険指定害獣教範』より。
――ティタノボア駐屯地、作戦指揮所。
武器庫に向かわせた、須賀から無線で敵の報告を聞いたイーヴァは顔を曇らせて思考を巡らせた。そして過去に読んだ資料や教範にヒントがないか思い出したが、とても敵に対する良い案が見つからない。
そこで、士官学校同期で何かと頼りになるロー大尉に相談することにした。
「――ロー大尉、武器庫に向かわせた彼らからの無線でラフ・アスラが武器庫を占領していることが分かったわ」
「ラフ・アスラ? ということは特危害獣上位個体ですね!? だとしたらまずい、対処する為の戦力が足りない!」
「ええっ、そうなの、そこで何かいい案は無い?」
「そうですね、現在の状況で取り得る作戦はアスラ森林にいる一中隊を呼び寄せるしかないでしょう、そして中隊が来るまでの間、なんとか持久戦をするという作戦しか無いです」
「それまで現存の戦力で耐えれそう?」
「なんとか耐えれがますが、五分五分能力状況です、何かの拍子に戦況が変わるかもしれません」
「……現状は運任せって事ね、だけど、須賀三曹が任務を成功させたら――」
「――その時は、我々が戦況を有利に進める事ができます、現在奴らはどのような状況で?」
「実は、さっき無線で連絡を取って見たんだけど、慌てているようで、それ以来、一切連絡が取れないの……」
ロー大尉はイーヴァの言葉を聞いて顔を青くさせた。
――えっ、確か奴らは敵に見つからないように潜入している最中だったよな? だとしたら、もし無線機の音がならないようにするのを忘れていたとしたら……。
ロー大尉は仮に自分が敵陣に潜入している時に、敵人員の近くで無線機から呼び出し音が流れた時の状況を想像した。そうなれば間違いなく敵に音で存在がバレる。
「お嬢、奴らは作戦に失敗した可能性がある、ここは森の警戒任務に当たって居る一中隊を戻して戦力を補充させよう」
ロー大尉が進言すると、イーヴァはショックを受けた顔をした。それに構わず、ロー大尉は進言を続ける。
「森に居る警戒部隊を戻すと、その先にいる他のアスラ達や、カタラ人の国境への侵入を招く恐れもあるがここは仕方ない、決断を――」
イーヴァは指揮官として、二つの作戦の決断を迫られた。
一つは、自分が作戦を立案した『少数での武器庫への潜入、及びその周辺のアスラの掃討』。要するに須賀達が武器庫へと無事に潜入することができたならば、そこにある強力な武器でアスラ達を掃討して行き、その勢いに乗って形勢を逆転させるという作戦。
もう一つが、ロー大尉が進言した。『アスラ森林の部隊を下げて、戦力を補充した後、攻撃へと転じる』。要するに持久戦をしつつ、警戒へ向かった部隊が帰って来るのを待ち、戦力が増えたと同時に攻撃へと転じる作戦だ。
イーヴァの作戦より、ロー大尉の作戦の方が現実的に見えるが、リスクとして、下手をすれば新たな敵を招き入れる事態になる。その可能性があるのでイーヴァは悩んだ。
「お嬢、早く決断を!」
時間が経つに連れて、徐々に自分の駐屯地が崩壊へと向かって行く。
「ロー大尉、私は――」
イーヴァは決断をした。
――武器庫、及び施設内。
「――うおっ!? 何だこれは……酷え有様だ」
施設の中は割れた窓ガラスに散らばった机や椅子等が障害となって行く手を塞いでいた。そして更に最悪な事に壁一面に付着した血痕と、へばりついた肉片があり目をそむけたくなる光景が広がっていた。
危うく無線機の音で敵に存在がバレて、俺もこんな風になる所だった。久我、アオコ、どうか無事でいてくれ、すぐに化物を倒せる武器を取って来てやる。
須賀は障害は覚悟を決めて障害をかき分けて奥へ進んだ。その際手袋越しに水気を含んだ柔らか物を掴んだ。あえてソレが何か見ない様にした。
「畜生、あの蛙野郎、めちゃくちゃしやがる……畜生」
須賀は悪態をつきながら奥へと進んだ。すると前の方で何かが動いた。須賀は近づいてそれを確認した。すると、それは若い兵士だった。
兵士は怪我をしていたが意識はあり、須賀の呼びかけに反応した。
「おい、お前大丈夫か!?」
「う、ああっ……」
「もう大丈夫だ、助けてやるからしっかりしろ!」
「ううっ、そいつはありがたいが無理だ、なんせ俺はこの有様だ」
須賀は兵士の体を見た。
――両手、両膝と足がグチャグチャに破壊されていた。
これはもう助からない。見れば、怪我をした兵士は悔しそうに涙を流し、痛みを耐えていた。
「ううっ、畜生、あの化物、面白がって俺の手足を蹴って破壊しやがった……」
「分かった、もういい喋るな、俺がお前の仇を取ってやるから、武器庫の場所を教えてくれ」
「あぁ、教えてやるよ、だけどその前に俺の腰にある拳銃を取ってくれ」
須賀は兵士の言った通りにした。すると、そこには回転式拳銃があった。須賀が手に取って眺めると兵士は強がって言った。
「へへっ、良いだろ? 実はその拳銃、こことは違う世界の拳銃なんだぜ?」
「違う世界? どこの事だ?」
「詳しくはわからないが、自由の国とかいうらしい、そこで作られたとよ」
自由の国……やはりあの国の事か?
「……因みにな、そいつは俺のじゃねえんだ、俺の兄貴が祖父から譲り受けたんだ、そいつを兄貴から整備してくれって頼まれて俺が持ってたんだ」
「分かった、それでこいつをどうすればいいんだ?」
「――そいつで俺を殺してくれ」
須賀は兵士の言葉に息を飲んだ。
「――安心しろ、武器庫は直ぐそこだ、だから、そこへ行く前に俺を殺してくれ……もう、この苦しみに耐えきれねぇんだ、頼む、この通り自分じゃできねぇんだよ」
確かに、この兵士は手足を壊されて、かなりの痛みを感じて苦しんでいるだろう。それに、助かったとしてもこの先生きて行くのは困難だろう。だったら――。
須賀は兵士の頭に銃口を向けた。兵士は涙を流し、覚悟を決めた表情をする。
「……最後に言い残す事はあるか?」
「へへっ、俺を撃ったあとは、そいつを使ってあの化物に弾をお見舞いしてくれ」
兵士の最期の願いを聞き入れて引き金にかける指に力を込めた――。
「――おい、どうした? 怖気づいちまったのか?」
須賀は引き金に力を込めたが、引く事はできなかった。
いくら相手が苦しんでいるとはいえ、楽にする事は、一線を超える行いだと感じた。
そんな須賀に対し、兵士は苦しみを訴える。
「なぁ、頼む……俺を楽にしてくれ、痛みに耐えきれねぇんだ、それにこのまま生きても、まともに暮らせねぇよ、だから頼む」
「大丈夫だ、俺の仲間にすごい治療をしてくれる奴がいるんだ、きっとそいつならお前の怪我も治してくれる筈だ、だからもう少しだけ頑張ってくれ」
須賀はそう言って、腰につけている救急品から包帯等をとりだし、兵士の怪我を処置し始めた。
その際、兵士は処置される事を拒んで暴れたが、やがて、処置する際の痛みに耐えきれず、失神してしまい大人しくなった。
「――これでよし、あとはこいつの生命力次第だな」
須賀は兵士の元を去る際に思った――。
――今回は回復役のゼリーが居たからこいつを生かすが、もし居なかったら……俺は、どうしようも無いくらいに怪我をして苦しむ仲間を見て、どうするんだ?
近い将来、久我かアオコのどちらかが、今と同じ状況になった事を想像すると恐怖した。
「――絶対、あいつらをそんな目に合わせねぇ、その為にも、あの蛙野郎をぶっ殺す!」
直ぐに武器庫を見つけて扉のカギを開ける。すると中には機関銃、対戦車火器、小銃等、様々な武器が整頓されて並べられている。
そして、これらの武器を観察して見ると、どれもある共通点があった。
機関銃――M60機関銃 。
対戦火器―― M20A1スーパー・バズーカ。
小銃――M1ガーランド。
――これらはすべて米国で作られた銃であった。
須賀は何故この世界に米国銃があるのか不思議に思ったが、そのことについて考えるのは後にすることにした。そして、中からM60機関銃を取り出した。
「こいつがイーヴァの言ってた奴だな、こいつは米国製だから自衛隊の機関銃よりは信頼できるな」
――須賀のいる自衛隊には62式機関銃という武器があったが、あまり評価は良くなかった――。
須賀は持って来た弾を機関銃に装填した。この時、外から咆哮が聴こえた――。
『――グァアアア!』
外にいるグァアバは咆哮した。その咆哮には怒りや憎しみの感情が混じり、聴く者を怯えさせた。
やはり、人間共は危険だ、全力で潰さねば。
グァアバは銃で撃たれた出来た傷口を手で抑えて、そう考えた。
自分がどんなに強くても、人間共の使う銃には敵わない。その事を理解した。
全ての発端は、アスラ森林の王、『大蛇ティタノボア』が人間に倒されたからだ。
森中にその噂が広まり、グァアバの耳にもそれが届いた。
直ぐに、グァアバはティタノボアの住処へと向かい確認した所、ティタノボアは無残な姿で死んでいた為、噂が本当であること確認した。
グァアバの種族は今まで、ティタノボアの言いなりになっていた。しかし、ティタノボアが死んだ事で自分達は解放される。その為、グァアバの種族はとても喜んだ。
もちろん、グァアバ自身も喜んだが、同時に危機感を抱いた。
――アスラ森林の王を倒す程、人間は強い。もしかしたら自分達は人間に退治されるのではないか?
そう考えたグァアバは早速、種族をまとめて群れを作った。全ては自分達を守る為――。
今回のグァアバの起こした襲撃の目的は人間達の住処にいる者が少なくなった所を襲撃して、この辺り一帯に住む人間の数を減らす事だ。
そうすればこの地を安全に自分達の住処にできる。グァアバはそう考えた。
前々からアスラ森林に侵入する人間をよく観察して、人間は銃がなければ弱いと学んだ。その為、まず始めに武器庫を襲撃した。
実際、その考えは正しく。現在。イーヴァ率いるフロンティア軍をグァアバ達は追い詰めている。
あと少しでグァアバの目的は達成される……されるのだが、それを邪魔する奴等がいる。
「うっ、ううっ……やめろ、凌駕を襲うな」
グァアバの足にアオコがしがみつく。それをグァアバは苛ついた様子で蹴飛ばした。
『お前、何故人間の味方をする? 奴らは俺達を倒そうとするぞ』
「――っ、何故人間が私達を?」
アオコの質問にグァアバは昔を懐かしむ様にして答えた。
『昔は良かった、かつてこの島は俺達が主役だった、そして人間共は俺達をラフ・アスラと呼び、畏れ敬った、そうして俺達は人間を服従させてこの島で好き勝手に生きていた……だが今はどうだ? 今は奴らは俺達に牙を剥く』
グァアバは身振りを加えながら蹴飛ばされて地面にぐったりするアオコに語る。
『この島では強い生物が弱い生物を従える、それが伝統だ、そして人間は弱い! だから従えるべきだ、なのにここ最近の人間どもときたら妙な道具を使って戦う!』
グァアバはそう言うと傷口に指にをツッコみ、身体の中に入った銃弾を取り出した。そしてその弾を忌々しそうに地面へと叩きつけた。
『俺はこの地を占領したあと、再び島の主役を俺達にする為に人間を襲う、だから邪魔するならお前を潰す!』
グァアバは、語り終えるとアオコの頭を掴んで持ち上げた。
「ぐあああ! 頭が、割れるぅ!」
『ククク、痛いか? やめて欲しければ俺に従え、同じラフ・アスラと呼ばれる者同士だ、従うと誓えば潰さずに置いてやる』
アオコはじたばたと暴れるが余計に頭を痛ませるだけだった。
『さぁ、俺に従うと誓え』
「……嫌だ」
『何だと? もう一度聞く、俺に従え』
「何度だって言う……嫌だ!」
『そうか、バカな奴め、お望み通りお前を潰す』
「ぐあああ! 助けて、凌駕ぁ!」
アオコが須賀に助けを求めた瞬間、突然連続した発砲音が響いた。その後、発砲音と共にまるで蛇がうねる形の様に地面が弾けていき、やがてグァアバの身体に到達して今度はグァアバの身体の一部を弾けさせた。
グァアバは堪らず、アオコを手放して倒れた――。
「――やったか!?」
須賀は施設の二階の窓から機関銃でグァアバに向かって機関銃を構えた。そして射撃した際に、機関銃の反動で銃身がぶれて近くにいるアオコ巻き込んでしまう恐れがあった為に、わざと手前の地面を撃って土煙を発生させ、それを目印に弾道を確認しながら弾道を確実にグァアバに合わせる方法を取った。
須賀はグァアバが倒れて動かない事を二階の窓から確認すると、機関銃を構えるのをやめて、アオコの元へと向かった――。
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