ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~
18話 「全滅の危機」
『グァア? グァアア(なんだ? 今何かが動いた)』
グァアバは建物から戻る時に前方の方で何かが動いたのを見た。
『グァアア……(まだ生きてる奴がいる……)』
グァアバは見せしめの為に作った山積みの兵士達の死体の中に生き残りがいるの感じた。そしてニヤリと不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと近づいた。
――おいおいおいおい!? やべぇっ、見つかる。
須賀は遺体の中に混じり、体をうつ伏せにして静かに息を潜めていた。
すぐ近くでは、グァアバが遺体を漁っている。それを感じた須賀は、いつ殺させてもおかしくない状況に陥った事を理解した。
――畜生! 武器庫の鍵を探すどころじゃねぇ、どうすればいいんだ……。
現在、須賀は丸腰だ。グァアバに抵抗する術なく殺されてしまう。今は唯じっとしてやり過ごすしかない。しかしそれも時間の問題だ。
「……ぷるぷる」
――っ!? お前何でここにいるんだ!?
背中に何か物体がいる事を感じた。その物体は背中をよじ登り須賀の頭の上に乗る。
ひんやりとしたプルプルの感触――久我のペットであるゼリーちゃんだ。どうやら飛び出す時にいつの間にか背中に張り付いて来ていたようだ。
「ぷるぷるっ!」
ゼリーは丸い身体から触手を伸ばし、あとは任せろと行った感じで須賀の頬を撫でて合図をした。そうして横にいるグァアバの前に飛び出して行った。
『グァッ!? グァアアア!』
グァアバはゼリーに気づくと、それを追いかけ始めた。そしてゼリーを蹴り飛ばそうとするがゼリーはそれを軽々と躱しながらグァアバを須賀から遠ざけるように誘導した。
須賀はゼリーが鍵を探す機会を作ってくれた事に感謝すると、グァアバの様子を確認しながら武器庫の鍵を探した。すると、意外な事に鍵は直ぐに見つける事ができた。
グァアバが遺体を漁った際に遺体の山が崩れて、運良くガキを首からぶら下げた兵士の遺体が出てきたのだ。
――あった、こいつだ! うっ、酷い有様だな、どうか安らかに眠ってくれよ……。
須賀が見つけた鍵を持った兵士の遺体はグァアバに頭部を砕かれて中身がぶち撒けられていた。須賀はそれに目をそむけつつ遺体の首にかかっている紐付きの鍵を奪った。
「――はぁ、これでよし、あとは匍匐前進で気づかれないように移動するだけだな……」
須賀は鍵を胸ポケットにしまうとうつ伏せになり、身体全体を地面にひこずりながらゆっくりと動く。
『――現在の状況はどう? 応答して』
「おい、マジか!? なんでこのタイミングで!?」
須賀の腰につけていたトランシーバー形の小型無線機から突如イーヴァの声が漏れた。
向こう側に無事についたならばこれで久我と連絡を取り合う為に持っていたのだが、うっかり電源を切っておくのを忘れた。慌てて電源を切るがもう遅い。
『――グァ!? グァアアアアッ!』
「見つかった! く、来るんじゃねぇ!」
無線機の声に気づいたグァアバは振り返り須賀の姿を確認すると、ゼリーを無視して、体の方向を反転させて一気に須賀に向かって掛けだした。
グァアバは獲物を見つけて、嬉しそうに笑いながら近づく。須賀はその光景に恐怖して足が動かなかった。
――タン、タァン!
もうだめだと思った瞬間、乾いた銃声がり響き、ガァアバは須賀の目の前に転けた。
「須賀、走れ! 早く武器庫へ向かえ!」
後方で待機していた久我が建物から飛び出し、間一髪の所で六四式小銃で射撃をしてグァアバの背中に弾を二発命中させた。
その後、グァアバは背中から血を流しながらゆっくりと顔を上げると、怒りに満ち溢れた表情で咆哮を上げて再び須賀に襲い掛かろうとした。
その時、久我と一緒に飛び出したアオコがグァアバに追いついて体に巻き付き着いて拘束し、動きを封じた。
「――させるかっ! この化物蛙! ……凌駕、ここは私がこいつに巻き付いて動きを封じるから早く行け!」
「アオコ、お前大丈夫なのか!? そいつはお前が勝てるか分からない相手なんだろ?」
「ははっ、私を心配してくれてるんだな、けど大丈夫だ……昔から蛙は蛇に食べられるだろ?」
「……アオコ、すまねぇ、そいつは任せたぞ、直ぐにそいつをぶっ殺せる武器を取ってくる」
須賀はアオコ達を後にして建物の中へと向かった――。
『おい雌蛇! 今すぐに俺の身体を解け、あの人間を始末する』
「くっ……それはできない、お前に凌駕を殺させるか、この化物め!」
『俺が化物だと? グァハハハッお前も俺と同じ化物じゃないか、グァハハハッ!』
同じ『進化の欠片』を使って進化したもの同士で波長が合う為、アオコとグァアバは会話をする事ができた。そうしてお互い化物と言い合ってもつれ合った。
『おい雌蛇、ちゃんと受け身を取っとけよ……グァハハハッ』
「えっ、お前一体何を――」
グァアバはアオコを背中に巻き付かせたまま四つん這いになると、脚に力を入れた。そうすると脚から太い血管が次々と浮き出る。
『ちゃんと俺の背中を守ってくれよ? グァハハハ!』
グァアバはそう言うと真上に向けて高く飛び上がり、そして背中を地面に向けた状態で落下した。
要するに、グァアバは自分から高く飛び上がって落下する時に、背中に巻き付いているアオコをクッション代わりにすることによって地面に落下した衝撃をアオコに全て押し付けて、自分は無傷でやり過ごしたのだ。
「――がっ!? はっ、あっ……痛い」
まずいと思ったアオコは空中でグァアバの拘束を解いたが間に合わなかった。何とか頭部だけは守ったが、背中と衝撃が加わって肺の中の空気を無理やり押し出された。
――何だ……これ、背中が痛い、苦しい、息が……できない、助けて。
アオコは生まれて初めて、このような痛みと苦しみを味わった。そのショックから暫く地面に仰向けになったまま動けずに倒れた。そして、その様子をグァアバは満足そうに眺めた。
「お前、女の子になんて事を……許さねぇ!」
『グァアアアアアッ!?』
久我はグァアバに向けて小銃を連射にして射撃した。そしてグァアバに弾を何発も命中させたがグァアバは倒れなかった。
久我はそれでも諦めずに連射をしたが、途中で弾が切れてしまい、仕留め切る事ができなかった。
久我は急いで弾倉交換をした。しかしグァアバはその行動を見逃さず、攻撃の機会と見て、遠くから伸びる前回し蹴りを繰り出した。
久我は弾倉交換を中止して咄嗟に小銃でガードした。
――蹴られた程度では小銃は壊れない。しかし何度も繰り出される蹴りをガードしていくうちに銃よりも先に久我の腕に限界が来てしまった。
「――しまった、銃が手から――うっ!?」
久我はグァアバに腹を蹴られて吹っ飛び、壁に激突してそのまま失神した――。
――グァアバは失神した久我と自身が負った怪我の具合を見た。
どうやら自分は脇腹と背中に無数の穴が空いて、そこから血が流れている事がわかった。
――ちっ、この俺がたかが一人の人間にこのざまか……くそっ、人間を舐めすぎた……そういえば一人建物の中に逃げ込んだ奴がいるな」
グァアバは須賀が居たことを思い度した。
――もし、このまま奴を追いかけたとすれば、おそらく奴も強力な武器を持って俺に攻撃してくるかもしれない、だとすればこれ以上の深手を負うことは不味い……悔しいがここは俺だけでは手に余る、手下共を呼ぼう。
そう思ったグァアバはさっそく仲間を呼ぶための鳴き声を上げた。それはグァアバに取っては屈辱であり、自身にそのような行為を取らせる須賀に恨みを抱いた。
そうした思いを乗せた鳴き声は、駐屯地全体に響き渡り、現在、他所で戦っているフロンティア軍の兵士達に恐怖を与えて、士気を下げた。
そして一部のグァアバの手下達は、今行われている戦闘を一時中断してグァアバの元へ移動し始めた。
「……グァアアア(覚悟しろ人間、お前を手下共と一緒に八つ裂きにしてやる)」
グァアバは建物にいる須賀に向かって咆哮を上げた。
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