ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~

上等兵

16話 「潜入準備」


 ――作戦指揮指揮所、外。

 そこで須賀、久我、アオコの三人は待機して話し合っていた。

 「なぁ須賀、これからどうするよ、なんか俺達あの耳の長い連中に協力する事になっちまったけど……」
 「凌駕、あんな連中ほっといてここから逃げよう!」
 「待て、ここから逃げるのは無理だ、それと俺達は脅されてる、逃げた瞬間殺されるのがオチだ、あとはこの化物だらけの世界を生き抜くだけの物がねぇ」

 須賀はそう言って持っていた64式小銃の空弾倉を二人に見せた。続いて小銃のスライドを引き、中にも弾薬がない事を見せつける。

 ――チッ、不味いな、これじゃあこの化物だらけの場所で生きてくのは無理だ、ここは何とか奴らに協力して恩を売るか、そうして武器弾薬を貰えるように交渉するしかねえ。

 須賀は思った事を二人に説明した。

 「そりゃいくら何でも無理だろ、お前以外、俺達二人は丸腰だぜ? 何もできねぇよ、そもそも奴らは俺達に何を協力させたいんだ?」
 「ふん、協力だと? なんだか気に食わないな」
 「何だアオコ、てめぇ何か不機嫌じゃねえか?」

 理論的に反論する久我に対し、どうもアオコの反論は感情的であると須賀は感じた。

 「ふん、私は協力したくない、なんせあの雌はフェロモンを撒き散らしている、正直吐き気がするから気に食わない!」
 「あの雌? ……あぁ、あの娘ね、そういやあの娘の名前を知らないな……須賀、知ってるか?」
 「確かイーヴァとか言ってた」
 「へぇ、イーヴァちゃんか、結構美人で綺麗だったよねぇ、俺達が後ろから彼女についていってる時に、あの娘から戦場に似つかない甘い良い匂いがしたよね……はぁ」

 久我がだらけた顔をしながらイーヴァについて語るとアオコは益々不機嫌になった。

 「ふん、これだから雄は……」

 アオコが悪態を着くと同時に作戦指揮所からイーヴァとロー大尉が出てきて須賀達の元へとやって来た。

 「――あなた達に任務を与えるわ! 武器庫に潜入して支援火器の入手、及びアスラの掃討を命じるわ!」

 来て早々、イーヴァは腰に手を当て須賀達に命令を下した。しかし須賀達は状況が理解できずに呆けた。

 「ちょっと何よ貴方達、何か反応してよ」
 「……いや、協力しろって言っても俺達はあんたの部下じねぇから言う事は聞けねぇな」
 「えっ、どういう事?」
 「つまりは俺達は……」
 
 須賀は大きく息を吸い込む。そして口を開けて大声でイーヴァに宣言した。

 『俺達は日本国陸上自衛隊の隊員で尽くすべき相手は日本国民だ! なのに何でオメェらの命令をタダで聞かなきゃなれねぇんだ!?』

 イーヴァは須賀の気迫に圧倒されて思わず地面に尻もちを着いた。そこへすかさずロー大尉がイーヴァを守るようにの前に出て拳銃を須賀へ向けた。

 「貴様、捕虜の分際で歯向かう気か!?」
 「おいおい落ち着いてくれよ大尉さんよぉ先ずは交渉しようや……」
 「交渉だと? 貴様らと交渉する事は無い、今から撃ち殺してやる」
 「俺達が死んだらまずい事になるぞ!」

 ロー大尉は須賀の言葉を聞いて一瞬躊躇した。そこを須賀は見逃さす、自身の意見をロー大尉にぶつけた。

 「――何度も言うようだが俺達は日本という国の兵士だ、そんな俺達を殺せば外交問題になるぞ?」
 「おい貴様、バカにするんじゃない、そんな国この世界のどこにも無い、もっとマシな嘘をつくんだな」
 「はぁ!? お前らが知らない訳ねぇだろ! さっきから使っているお前らの武器や資材は米国製だろ! その米国の同盟国だぞ日本は!」
 「――!?」

 須賀はここへ来る時に見た。ここにいる兵士達が使っている武器が米国のM1ガーランド、そして化物の襲撃であちこちに散らばっている資材の箱に『USA』と焼き印がしてあることに。

 「あー確かによく見るとその拳銃、米国のコルト・ガバメントじゃん」

 久我が後から須賀にロー大尉の拳銃の種類を教えた。

 「お、お前達カタラ人が何故その事を知っている?」
 「はぁ? 何だよそのカタラ人って、俺達は日本人だ」

 あからさまにロー大尉が動揺し始めた。そこへイーヴァが起き上がり、突然交渉に応じると言い始めた。

 「――いいでしょう、貴方達の要求は何?」
 「俺達が国へ帰るのに必要な支援をくれ」
 「その為に貴方達がやってくれる事は?」
 「支援をくれる限りあんたらの化物退治に協力してやる、見ての通り俺達は結構な実力があるぜ?」

 須賀は最後のダメ押しでいかに自分達が有能であるか説いた。

 「――良いでしょう、交渉を成立するわ」

 須賀とイーヴァは握手をして交渉が成立した証とした。

 「じゃあ、早速だがコマンダー・イーヴァ――」
 「――イーヴァと呼び捨てでいいわ、貴方は私の部下じゃないからね」
 「お、そうか……ならイーヴァ、俺達は何をすれば良い?」
 「――それについては俺から説明しよう、わざわざコマンダーの口から説明させる訳には行かない」

 ロー大尉が会話を遮るように入った。どうやら少し不機嫌なようだ。その事に対し須賀は苦笑いをした。

 「貴様らこの地図を見ろ、そしてよく俺の話を聞け」

 ロー大尉は適当にそこにあった四角いの木箱の上にこの駐屯地の地図を広げた。

 「最初にコマンダーが言ったが貴様らの任務はこの位置にある武器庫に行ってアスラにバレないように潜入しろ、そこで支援火器を入手して武器庫を占拠しているアスラを掃討をしろ、以上が任務の概要だ」
 「分かった、ところでそのアスラとやらの規模と目的は何だ?」
 「アスラの規模は一匹、しかし油断するな、どうやら非常に強力な奴で部隊を丸まる殲滅して武器庫を占拠した、そして目的は武器庫を占拠する事によって我々が反撃できないようにさせることだ、今回の奴は非常に頭が良い」
 「……なるほど、要するに俺達がその敵を排除しねえとあんたらは反撃の為の武器を手に入れる事ができないって訳だな、よし分かった、さっさとやってくる」
 「おい貴様、本当に分かってるのか? 何度も言うようだが相手は強力な奴だぞ!? なのに何故貴様はそんなにあっさりしているんだ? 死ぬかもしれんのだぞ、怖くないのか?」
 「怖えに決まってんだろ? けどな、死ぬ時はあっさり死ぬ! だからどうせ死ぬならうやる事をさっさとやって抗って俺は死にてぇんだ!」

 須賀はそう言ってロー大尉に痰呵を切った。

 ――何だこいつは? 俺が今まで会った兵士とは何かが違う。

 ロー大尉は今までの須賀の行動を思い出した。

 危険なアスラ森林から怪我する事なく仲間を二人引き連れて来る指揮能力。そして捕虜尋問所でアスラ達に襲われた際に見せた卓越した戦闘力。

 ――もしかしたらこの男はこの危険な任務を達成することができるかもしれない。

 ロー大尉はそう思うと同時に、この三人に協力を要請したイーヴァは人の能力をきちんと判断して分析できる司令官である事を知り、より一層イーヴァに対する忠誠心を上げた――。

 「ロー大尉、弾薬を持って来ました!」

 暫くするとメッセ二等兵がベルトリンクの弾を大量に肩に担いでやって来た。

 「メッセ二等兵、それらの弾をこの三人に配ってくれ」

 メッセ二等兵が持って来た弾は7.62mmの弾だ。これで須賀は64式小銃の弾倉に弾を補充した。

 「あのーすみません、俺とアオコちゃんは武器が無いんですけど……」

 久我が申し訳なさそうに言う。久我はここへ来る前に崖から落ちて自分の小銃を壊してしまっている。

 「うむ、そうかなら仕方ない、俺の拳銃をやろう」

 そう言うと、ロー大尉は久我に自分のコルト・ガバメントを渡した。

 「すまない、君に与えるべき武器が無いんだ、なんせ武器庫が占拠されてしまっているから人員に武器が行き渡って無いんだ」
 「……私は人間の武器は要らない、特にその火が出る武器は嫌いだ」

 アオコは人間の武器、特に銃が嫌いだ。何故ならそれによって散々ひどい目に有っているからだ。

 「えーと、ちょっと良いですか……あなた方のお名前と階級は?」

 メッセ二等兵が須賀に話しかけた。
 
 「えっ、あぁ俺は須賀凌駕三等陸曹であっちが久我三等陸曹だ……アオコは階級がねぇから呼び捨てで良い」
 「えーと、三等陸曹とは一体?」
 「所謂下士官って奴だ、呼び方は須賀三曹と呼んでくれ」
 「はっ、分かりました須賀三曹、早速ですがこれもお渡しします!」

 メッセは須賀に敬礼すると受話器の形をした小型無線機を渡した。須賀がこの無線機について説明を求めるとメッセ二等兵の代わりにイーヴァが説明をした。

 「――それは携帯型精神無線機よ、あの尋問所にある精神無線機を中継しているからそれで離れていても私達の言葉がわかるし連絡も取れるわ」
 「なるほど、便利なもんがあるんだな、こいつで潜入中に連絡を取り合うんだな?」
 「そういう事……後はこれ」
 「――ん、写真か?」

 須賀はイーヴァからごく普通のこれといって特徴の無い男が写った白黒写真を手渡された。

 「――この写真の兵士を現地で探して……もしかしたら向こうで戦死しているかもしれないけど、死体でもいいから見つけて」
 「そうなのか……何で戦死してるかもしれないのにそいつを探さなくちゃいけないんだ?」
 
 『それは彼が武器庫の管理を担当する兵士だからよ』

 須賀はイーヴァの答えを聞いて瞬時に理解した。

 「――なるほど、そいつが武器庫の鍵を持ってるって訳か、けれど、どうやって死体を見分ければ良い?」
 「……彼はいつも鍵を無くさないように首にぶら下げていたらしいわ、だから直ぐに分かると想う……彼が無事だと良いのだけれど」
 
 イーヴァはそう言うと、片手で自分の片方の耳をつまみながら黙祷した。この一連の動作はイーヴァ達エルフの祈りの動作である。

 ――何やってんだこいつ? まぁ良い、早く出発するか。

 須賀は動作を不思議に思ったが何も言わずに小銃に弾込め、携帯型精神無線機を体に取り付けるとイーヴァに敬礼して移動し始めた。

 「準備良しだ……早速敵をぶっ殺すぞ、行くぞ久我、アオコ!」
 「ああっ、いっちょやりますか!」
 「……ふんっ」

 久我はロー大尉から拳銃を貰ったので上機嫌だったがアオコはまだ不機嫌そうだった。そこで須賀はアオコに近づいて頭に手を置くとアオコに呟いた。

 「――安心しろアオコ、決してお前らを殺させやしねぇ」
 「――ッ!? な、何だよ凌駕、急に私にそんな優しい言葉を言って」
 「はっ? てっきりお前はビビって不安だから不機嫌になってるのかと思ったが違うのか?」
 「ち、違う! 私はお前がずっとあの雌と話をしているからっ――何でも無い! さっさと行くぞ凌駕!」
 「……変な奴」

 ――その後、三人はアオコの敵を察知する能力を使って、駐屯地に蔓延る大蛙達に見つからいよう前進し、大蛙達のボスであるグァアバが占拠する武器庫へと向かった。
 

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