ラフ・アスラ島戦記 ~自衛官は異世界で蛇と共に~

上等兵

11話 「拷問?」

 ――捕虜尋問所。

 ここは薄暗い部屋に椅子と机とだけがある場所だ。そして現在この部屋にはロー大尉とこのティタノボア駐屯地の司令官であるイーヴァ、そして捕虜の須賀、この三人がいる。因みに、この部屋は防音設備になっており、外にいる兵士達にはこの部屋の会話は聞こえないようになって居る。

 須賀は椅子に座らせれて、目の前に同じくロー大尉が机を間にして座った。そしてその後ろでは冷たい目をした司令官のイーヴァが腕を組んで立って須賀をじっと見続けていた。
 
 「――Begin interrogation」

 「……あ? なんだって? アイドントスピークイングリッシュ」

 ロー大尉は英語で須賀に話しかけた。しかし須賀は英語がほとんど分からないので中学生の時に習った簡単な英単語と酷い発音で英語が話せない事を伝えた。

 「―――っ」

 「――OK」

 須賀が英語を話せない為、意思疎通が出来ないと判断したロー大尉はイーヴァに何かの許可を求めた。するとイーヴァは許可を出した。

 ――ロー大尉はその後、部屋の隅に置いてある緑の布で隠してあった大きな四角い機械を出した。

 「……おい、何だよそれ!?」

 須賀は驚きの声を上げながら機械を観察した。

 ――機械はランプが着いた四角い台の上に青い透明な液体で満たされた水槽が乗っている。そして液体の中には小さな配線が何本も繋がれた脳が漂っている――。

 ロー大尉がその機械のスイッチを入れると、台に着いているランプが赤から緑に点滅し、続いて脳が入っている水槽が青白く光りだし、水槽の下からエアーが吹き出し、液体の中を小さな泡で満たし始めた。

 『――これで意思疎通ができる……さてと、早速尋問を始めようか、お前はどこから来たんだ?』

 「――なっ!?」

 須賀は不思議な体験をした。どう不思議かというと、先程までロー大尉は英語で話をしていた。そして現在も英語で話している。しかし、ロー大尉が話す英語が須賀の耳に入って来ると、それが勝手に頭の中で翻訳されて内容が理解できるのだ。

 「……どうしたカタラ人、そんな間抜けな顔をして」

 ロー大尉は相手を少し馬鹿にするような声で言った。

 「いや……だってさっきまであんた等が何を喋っているか理解でになかったのに、今は何故か理解できるんだ、どうなってんだ?」

 「――それについてはあの機械のお陰だ」

 ロー大尉は須賀の質問に対し、先程の脳が入った機器に対って目配せをして答えた。

 「――これは『精神無線』だ、これを使えば言語の違い等関係なく相手と意思疎通する事ができる」

 「……すげぇな、どういう仕組みなんだ?」

 突然の須賀の質問にロー大尉は困った。

 ――参ったな、俺は今回この機械を初めて使うから仕組みなんて知らないんだよな。

 ロー大尉はちらりとイーヴァを盗み見た。相変わらずイーヴァは無表情な顔をしている。しかし急に笑顔になって須賀に話しかけた。

 「――あら、あなたこの機械に興味があるのね、良いわ説明してあげる、この機械は精神無線といってある生物の出す脳波を利用しているの」

 「……脳波? 何だそれ?」

 「うーん、なんて言うのかな、テレパシーってわかる? 言葉を話さなくても頭や心で相手の事を理解できるやつ」

 「……あぁ、あれか」

 須賀は洞窟で巨大な蛇とテレパシーで会話した事を思い出した。

 「――経験があるみたいね……それで、この島にはテレパシーを使う事ができる特殊な生物が稀にいるの、調べた所、その生物はどうやら脳から応じる電気活動――所謂、脳波を使っている事がわかったの!」

 イーヴァはとても嬉しそうに話しだした。

 「――それに気がついた我が国の科学者達は思考錯誤を重ねて遂にこの装着、『精神無線』を完成させたわ! これで知能がある生物ならどんなのでも会話できるわ! いやぁ、装備実験という名目で中央から無理矢理ガラクタを持たされたと思ったけど役に立つもので良かったわ――」

 「――あの、コマンダー、少し落ち着いていただけますか?」

 ロー大尉がイーヴァを嗜めた。するとイーヴァはハッとしてあたふたした態度をとった。しかし急に動きを止めると冷たい表情になり須賀に顔を近づけて呟いた。

 「――君の私達に対する質問はこれで終わりよ、次は私達の質問に答えて貰うわ」

 須賀はイーヴァのした行動を受けて焦った、何故ならイーヴァは須賀の目を見て話す。日本人である須賀はこうして話す事に慣れていない。そしてイーヴァの薄い緑の瞳。今の冷たい表情と相まってその緑の瞳が須賀に深淵の森へと誘うかのような印象を与えた。

 「わ、わかった……全て話す」

 須賀は気負いした。そして自分より年下であろう女性の言いなりになってしまう自分を恥じた。

 「……ロー大尉、邪魔をしてすまなかったわね、後を頼むわ(どう、私の演技は? 上手くいったんじゃない!?)」
 
 「わかりました、コマンダー(さすがですお嬢、正直自分もビビリました)」

 二人はすれ違いざまに目で会話をした。

 「それでは尋問を始める……まずは君の素性を我々に教えろ」

 ロー大尉はできるだけ須賀を睨みつけ、口調は静かだが、まるで脅すような感じを出した。

 「え、えーと……名前は須賀凌駕、階級は三曹……それと認識番号は――、1964年生まれだ」

 「……どこの所属だ?」

 「――っ、それは……」

 捕虜は氏名、階級、認識番号、生年月日だけ答えればそれ以外は別に答えなくても良い、それを知っていた須賀は自分の所属を答える事に躊躇した。

 「……っ」

 「ん? どうしたんだ? 簡単な質問なのに何故黙るんだ? もしかして後ろめたい事でもあるのか?」

 「……」
 
 ――やばい、どうしたらいいんだ、質問の内容自体答えるのは簡単だ……たが、ここで正直に答えると不味い気がする。

 須賀には或る考えがあった。それは、ここでバカ正直に質問に答えていくといづれ全ての質問に答えて行かなくてはなら無い雰囲気になり、相手に重要な情報を漏らしてしまう恐れがある。

 ――こいつはアンケートと称して無理矢理商品を買わせる悪徳業者と同じ手法だ!

 須賀は黙り込む事を決めた。すると、須賀の目の前にいるロー大尉、そしてイーヴァの顔がみるみるうちに不機嫌なものへと変わって行った。

 ――ふん、そんな顔をして俺を脅そうとしても無駄だぜ……俺は例えどんな事をされても絶対に情報は吐かねぇ!

 須賀は決意に満ち溢れた表情をした。

 そうした状況を察してロー大尉は困り果てた。そしてイーヴァを見たが、イーヴァは目でロー大尉に尋問を続けるように促した。

 ――全く、どうやって尋問しろって言うんだ、まぁとりあえず適当に話題を振って話しかけ続けるか。

 ロー大尉はここで部下が回収した須賀の六四式小銃を取り出し、手に持って話しかけた

 「……どうやら答える気はないようだが、尋問は続ける……君達の持ち物の中にこのような物があったが、何処で手に入れた?」

 「……っ!」

 須賀は一瞬、驚いた表情をしたが、またすぐに顔を無表情にして黙り込んだ。

 「……ここに来る前にこの小銃を射撃場で試させてもらったよ、中身は空砲だった、よくそれで君達はあの危険なジャングルを生き残れたな」

 「……そりゃどうも」

 ――おっ、捕虜が話に食いついた、この調子で会話の中に質問を混ぜながら情報を聞き出そう。

 続いてロー大尉は空砲が入った六四式小銃の弾倉を取り出して質問した。

 「――いやいや、本当に君達はすごいよ、あのジャングルは化物みたいな生物だらけだ、それなのに銃に実弾ではなく空砲を込めて行くなんて意味が分からないクレイジーだ、もし仮に実際にこれに実弾を込めたらどれくらいの化物なら倒せそうだ?」

 「――お、おうそうだな……実弾だったら多分、数十メートルくらいある蛇くらいまでなら殺せるかもしれねぇ」

 「……なに?」

 ――数十メートルの蛇とは、やけ具体的だな、しかもそんな蛇なんて、あいつしかいないぞ?

 「――ほ、ほぉ、そうか……実際にそんな化物みたいな蛇にあったことでもあるのか?」

 「――あぁ、あるぞ」

 「……」

 須賀が即答するのでロー大尉は呆気に取られた。

 「ねぇねぇ! 要するにこの銃はそれぐらいの化物を相手にできるだけの威力があるってことでしょ? もっとその話を聞かせて!」

 「――なっ!? お嬢!」

 イーヴァがロー大尉の後ろから身を乗り出し会話に混じった。その瞬間、ロー大尉は頭を抱えた。何故ならイーヴァの発言により、須賀は自分が何気ない会話から情報を漏らしてしまっている事に気がついて再び口を閉ざしてしまったからだ。

 ――お嬢、なんてことを……せっかく捕虜から情報を聞き出せる所だったのに。

 ロー大尉は失望してため息を着いた。そしてその後ろでは状況を理解していないイーヴァはあたふたした。

 「ちょっ、ちょっと何よ! 急に二人共黙り込んで……」

 「……」

 「……はぁ」

 「何よロー、ため息なんて着いて、私をバカにしてるの? それとあなたもさっきまでローと会話してたのになんで私の時には黙るのよ!」

 「……」

 須賀はイーヴァの指摘を無視して黙り続けた。

 「――ッ、いいわ、あなたがそのつもりならどんな手を使っても貴方の口を割らせるわ」

 「コマンダー! いったい何を――!」

 イーヴァは須賀の後ろにいくと須賀の脇の下に手を当ててくすぐり始めた。

 「なっ!? あはははっ! 辞めろ、くすぐったい! あはははっ!」

 須賀はイーヴァのくすぐりに耐えきれず笑いだした。

 「ふふっ、どう? これで私と話す気になった?」

 「あはははっ!」

 「コマンダー、いけません、これは捕虜に対する拷問です」

 「何言ってるの? これはただのくすぐりで拷問じゃ無いわ」

 「――コマンダー!」

 ロー大尉はイーヴァの行動を止めようとしたが無駄だった――。

 「………くっ、中々強情ね」

 「――はぁはぁ、絶対に……俺は何も話さねぇぞ」

 須賀はイーヴァのくすぐりに絶えて、一切の情報を吐かなかった。

 「……そう、ならこれは……どう?」

 イーヴァはおもむろに上着を脱ぎ始めた。そしてオリーブドラブ色のシャツ一枚だけになった。

 「ど、どうよ……私と話してくれたら、い、色々とサービスして上げるかも……」

 そう言ってイーヴァは両腕を組んで胸を強調させた。そして顔を真っ赤にさせた。どうやらかなり無理をしているようだ。

 ――ああっ! 私ったら勢いに任せてなんて破廉恥な事を……けどこの男共が悪いんだから! 私を無視するなんて、私はこの駐屯地で一番偉いのよ!? けど、よく考えたらちょっとやりすぎたかも……。

 イーヴァはやって直ぐに後悔した。

 『――い、色仕掛けだと!?』

 須賀とロー大尉――男二人は衝撃を受けてイーヴァの胸に釘告げになった。

 ――こ、この女、何を考えてやがるんだ! サービスっていったい何なんだ!? 落ち着け! 俺は自衛官なんだ、こ、こんなビッチに惑わされるな。

 ――コマンダー! いや、お嬢っ! なんて事を! このままではコマンダーとしての品位が……ってか、なんてNICE BODYなんだ、最初から品位も何もあったもんじゃ無い!

 ――二人はそれぞれ感想を抱きながら集中して胸を観察した。

 ――なっ!? 捕虜だけじゃなくロー、貴方まで私をそんな獣のような目で見るの!? 恥ずかしい! ……でも何これ、二人とも今までにないくらい私を見てる、何だか存在をも認められてる気がして嬉しいわ……もうちょっとサービスしようかしら……。

 「ふふふっ、そろそろ私に色々と教えてくれる気にならない? うっふん……ちゅっ」

 イーヴァは自分で色っぽいと思う動作、もとい、傍から見たらぎごちなく不自然な動作をしながら須賀に迫った。しかし須賀は何とか自身の欲望に打ち勝ちイーヴァに向かってとんでもない事を叫んだ――。

 「――近づくんじゃねえよ! このブスっ! クソビッチ!」

 この瞬間、辺りが静寂した。

 「……わ、私がブス? クソビッチ?」

 「ああそうだ! 全然色気がねぇんだよ、そんなんじゃ俺は情報を喋らねぇよ、残念だったなバーカ!」

 須賀は童貞だった為に本当は、イーヴァの色仕掛けに惑わされた。なのでその事が悔しくて強がりを言った。

 「……そう、私はブスで色気がないクソビッチなのね」

 「お、お嬢、気を確かに――」

 俯くイーヴァを慰める為にロー大尉はイーヴァの肩に手を当て慰めようとするが振り払われた。そしてイーヴァはおもむろに須賀の六四式小銃を手にとって弾倉を装填し始めた。

 「……何がブスで色気がないクソビッチよ!? あんた達私の胸を獣みたいな目で見てたじゃ無い! ふざけんじゃないわよ!」

 「うわあああっ! お嬢ー! やめるんだ!」

 イーヴァは天井に向かって六四式小銃の空砲を撃ちまくった。それを慌ててロー大尉は止めようしたが、イーヴァの勢いは収まらない。

 「だいだいあんた絶対チェリーボーイでしょ!? 強がってんじゃ無いわよ!」

 「な、ななっ!? ど、童貞ちゃうわ! そういうあんたはどうなんだ!?」

 「私はバージンよ、この変態! なんて事聞くのよ、もう許さないわ!」

 「――ひぃっ!?」

 イーヴァは須賀に突進して須賀を押し倒すと直ぐに須賀の腹の上にまたがって小銃を須賀の顎に押し当てて質問した。

 「――あんたは何処の誰なのチェリーボーイ? 何の目的で私達の領土に侵入したの?」

 ――この時の、須賀を見下ろすイーヴァの目はとても冷酷ではあるが、瞳の奥に誰にも折ることができない意志が宿っている事を須賀は感じとった。そしてチラリとイーヴァの手を見ると、小銃の引き金にちゃんと指がかかっており、しかも一切の震えもないことから本気で自分を撃って来ることを確信した。

 「――お、俺は日本国、陸上自衛隊に所属する人間だ……そしてあんたらの領土にわざと侵入したわけじゃねぇ、迷い込んだ――」

 「――日本国……陸上自衛隊? 迷い込んだ? 嘘ね、そんなの聞いた覚えが――」

 「――嘘じゃねぇ!」

 ――この時、イーヴァも自分を下から見上げる須賀の目を見て感じ取るものがあった。それはこの危機的状況に置いて臆する事なく面と向かって自分に物を言う須賀の勇気と、生きようとする意志がはっきりと現れた須賀の瞳にイーヴァは須賀が嘘をついておらず本気で言っている事を感じた。

 「――た、大変です! 敵襲です!」

 二人が見つめ合っている最中、一人の兵士が尋問所の部屋に入って来て叫んだ。その後、周囲から射撃音が聞こえ始めた。

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