勇者は鉄の剣しか使っていませんでした
☆6
私は誤解していたのですが、手の甲に痣のある勇者は世界に一人だけではありませんでした。ごく稀にではありますが、種族を問わずに『選ばれし者』は定期的に出現するのです。人間の国、エリュンダルクでも、当時貴族から何人か勇者は輩出されていて、エルフの村で育ったケントリッドは彼らから目の敵にされました。
当然国にあった聖剣も彼らのものです。ケントリッドは王都の武器屋で剣を買うように命じられました。
「ひどい、こんな値段じゃ鉄の剣しか買えないじゃない! ミスリルを買えるくらいのお金ぐらい支給しなさいよ!」
私の憤りに、ケントリッドは苦笑しました。
「いいの? 教会の巫女が俺なんかの為に怒っても」
「ふん、教会なんて! 私は結界術を買われてあそこにいるだけの他種族よ! 魂までも売り渡したつもりはないわ!」
私はケントリッドの立場が良くなって欲しいから教会に入っただけなのです。決して人間種に従属したわけではありません。
この頃になると、ケントリッドは私よりも身長が高くなりました。そのことに焦りを感じますが、かといってどうしようもありません。
「ありがとう、フランカ」
ケントリッドからの率直な言葉に私は頬を赤くしました。
「まあ、しょうがないよ。俺は異種族寄りの考えだって有名だし、教会が欲しがってる結界術師のフランカとこうやって仲良くしてるんだ。今の王都の結界はフランカも担当してるんだろ? 嫌がらせされてもしょうがないね」
「どういった風の吹き回し? 私のことをそんなに褒めるなんて、訓練でもしすぎたの?」
私が訝しく思うと、手のひらに包帯を巻いたケントリッドは笑いました。
「いいや。別に。結局、俺はフランカを守れて、魔族に復讐ができればそれでいいってこと。……あ、そうだ。剣の名前は『フラン』にしてもいい?」
まあ、嫌だとも言えません。
私が渋々頷くと、ケントリッドは嬉しそうな顔をしました。
そのまま出かけようとした彼を、私は呼び止めます。今日はこれを渡そうと思って待ち合わせしたのです。
「ケントリッド、しゃがんで」
「なに――、」
しゃがみこんだケントリッドの首に、手作りのお守りをかけてあげました。村や街の結界石にするには小さすぎるクリスタルを、ペンダントに加工して編み上げた結界を封じたものです。彼は目を丸くしていましたが、喜びを頬に浮かべました。
「これって、俺の為にフランカが作ってくれたの!?」
「なるべく貴族には見られないようにして。結界の機能を維持するのに疲れるし、これ以上ケントリッド以外の為に作るつもりはないから」
私が恥ずかしさにそっぽを向くと、ケントリッドが感動して抱き付いてきます。まだ少年の域を出ない彼の抱擁に羞恥を感じましたが、こう囁かれて思わず突き飛ばしてしまいました。
「好きだよ、フランカ」
「……うるさい!」
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