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外食業で異世界革命っ!

顔面ヒロシ

☆10 ご加護と最悪の出会い







 ウィン・ロウの街の門番のところをくぐり抜け、馬を預けたルドルフとマケインは地方神殿の元へ向かった。
怪しげな商品を売る物売りに捕まりそうになったりしながらも、何事もなく進む。街並みはどちらかというと武骨な雰囲気だ。
文明レベルとしては中世よりも古代に近いのだろうか?
さして詳しいわけでもない前世の知識に照らし合わせながら、マケインはキョロキョロと辺りを眺めた。
やがて、少年はこの街の中でも特に立派な石造りの神殿へと連れていかれる。


「この子にご加護を賜りにきたのだが」
 そう言ったルドルフに、神殿の人間は表情を変えずに手を差し出す。父が少なくない貨幣を幾つかその手に握らせると、その男はすっと建物の中へ消えた。


「今のは……」
「神殿の下級神官だ。各街には神殿の人間が常駐しているのだが、この地域は今、食神殿が治めている」


「さっきのお金は幾らぐらい払ったの?」
「白銀貨二枚だな」


 そのまま、親父にこの世界の貨幣の説明を受ける。
何度か説明をして分かったのは、金貨一枚が日本円で十万円ほど。白銀貨一枚は一万円。銀貨一枚で千円。銅貨一枚で二百円。小銅貨一枚で百円くらいのレートだということだ。
白金貨ともなると一枚で百万円の価値を持つらしい。
となると、今のお布施の金額は二万円ぐらいを支払ったということか。
このお布施の金額も、偉い貴族はより多くを支払うのが慣例だったりするようだ。


 ひんやりした石造りの建物の中を案内されながら、緊張しつつ歩く。建物の中には高そうな調度品が飾ってあった。
そのまま室内の扉を開けようとしたところで、中から出てきた一人のお爺さんとばったり出くわす。


「おやおや、すまないの。ここの祭壇室を使うところかね?」
「ダムソン様」
 辺りにピリリとした空気が漂う。
その気配だけで、目の前の白鬚のお爺さんがこの神殿でかなりの地位を持つ人物だということが知れた。
慌ててマケインが頭を下げようとすると、祭壇室の方から甘ったるい女の人の話し声がする。
その鼻につくような笑い声にダムソンと呼ばれたお偉いさんは焦った表情になった。


「失礼を致しました、ダムソン様。これより、この子に加護を授けるところでして……」
「い、いやその……さっきまでとても大事な用事でこの室内を使っておったのじゃよ。すぐには片付かんのでな、別の部屋を使ってはくれんか」
 明らかに女の匂いをプンプンさせて言うセリフではない。
この部屋で何をしていたのか察しがつき、俺が思わずシラッとした眼差しになると、何かに気が付いた好色爺がずいっとこちらを眺めた。


「ふうむ……。君が新しく神々からのご加護を賜りにきた子どもかね?」
「え……」
「中々に聡そうな目をしておる。末は知神か、それとも魔神か……」
 キラキラした両目でそんなことを言われ、マケインはタジタジになった。面白そうに笑ったお爺さんは、目の前の少年の手を握って話した。


「儂の名はダムソン・ルクス。君の名はなんと云うのかね?」
「ま、マケイン・モスキーク……」
「なるほどモスキーク男爵家の息子か。気に入ったぞ、たまには地方神殿にも視察に来てみるものじゃな。君の儀式は儂が執り行って進ぜよう」


 微笑んだお爺さんに、下級神官と親父が驚きの目でこちらを見てくる。
どう返したらいいのか困っているこちらに、慌ててルドルフが地面に跪いた。息子の頭を押さえつけ、耳元に囁く。
「…………恐らく、この御仁は中央の偉い神官だ。ここで無礼があったら俺とお前の首くらい簡単に刎ねられるぞ……」
「げっ」


 流石にこの歳で死にたくはない。慌てて俺も地面に額を擦りつける。


「そのように畏まることはない。ここは無礼講でいってもらって構わぬよ」
「いえいえ、そのようなことは! この度は我が息子へのご厚情、真に感謝の極みでありますっ」
「さて、では部屋を変えようかの」
 ほっほっほと笑ったダムソンの主導で、別の部屋へ案内される。
奥まったところにあるその小部屋に頭を下げながら入ると、そこには小さな像と古ぼけた布の被された祭壇が飾られていた。


「ここはの、本来は神様に供物を捧げる為の部屋なのじゃ」


「供物を……」
「捧げものを気に入ると、神々がスキルを贈ることもあるという。特別に人間を寵愛することもあるというが……まあ、流石にそれは滅多にないがの」


 その時、下働きの神官が慎重に水晶玉と立派な背表紙の本を運んできた。その書物を手に取ったダムソン爺は、枯れ枝のような指でページをめくる。


「では、始めるかの。少年はそこに立って……そうそう」
 掠れた声で、ダムソンは祝詞を読み始める。


「春の芽吹きを司るは武と癒しと知識の神。夏の陽ざしを司るは、農と食の神。秋の木枯らしを司るは魔と呪いの神。冬の静けさを司るは錬と造と占術の神」
 促されてマケインは水晶玉に手を乗せる。
徐々に輝き始めたそれに意識が吸い寄せられる。辺りが光に包まれながら、長い祝詞がこう結ばれたのが聞こえた。
「満ちよ、素晴らしき恵みよ。大いなる水と地に縛られし呪縛の我らに幸いあれ――天つ十の神々よ、ここなる若き少年に加護を与えんことを」
 それが聞こえた時、マケインの精神はその部屋を離れた。








「……あれ?」
 気が付くと、俺がいたのは真っ白な空間だった。


「え? ……え?」
 自分の姿を見ようとしても、見ることができない。肉体から完全に魂が切り離されているようだった。
この謎空間でどうしたらいいのか……途方に暮れている細市の前に、突然一人の少女が現れた。


「ねえ、ここは一体……」
 声を掛けようとして、気が付く。
恐らく人ではない彼女に見惚れている自分に。
桜色の腰までのロングヘア。流れる純白のドレスから覗くのは透き通るような色白の肌。
小さな顔にすっとした鼻筋の通った、悪戯っぽい萌黄色の瞳の絶世の美少女がこちらへと振り返った。


「……あなた、加護を貰いに来た子ね?」
「ええ、まあ……はい」


「あたしの名前は、トレイズ。食神のトレイズ・フィンパッション」
 ああ、やっぱり俺は食神の加護なのか。という落胆の気持ちと、少しでもこの可憐な女神を眺めていたいという気持ちがあい混ざる。


「そんな顔をしないで。あたしだってね、そんな風にがっかりされたら困っちゃうわ。こちらだって、好きで残念なお告げをしたいわけじゃないのよ」
「今からでも変更はできないんですか」
「無理よ。それができたらあたしだって苦労しないもの。武神のところに送ってあげたいのは山々だけど、ここに来て神様に会えるのは一生に一度って決めてるの」


 可憐な顔をして、喋る内容は結構キツイ。
そうは云いながらも、彼女は申し訳なさそうに瞳を曇らせた。


「チートとかは……」
「チート?」
「異世界を生きやすくする無敵能力とかは……」
 予想はしていたものの、彼女はイヤそうな顔になる。


「スキルなら簡単にあげられないわ。少なくとも、あたしを唸らせるような料理が作れるようになってからにしてちょうだい」
「料理?」
「だってあたし、食神だもの。後はそうね、貴方の魂が成長しないと芽生えるのは難しいと思うわ」
 そうか。つまりは、この女神の好みに合うような料理を作れば、何かしらのスキルが芽生える可能性があるわけだ。


「スキルって、何がもらえるんですか」
「え? そんなの人によって様々よ。でも、食神の加護を貰っていればそうね、浄水とか食材の解毒とかお料理に役立つ技能かしら」


「うわ、使えねえ……」
 思わず本音が零れると、トレイズはあからさまにムッとした。
 腰に手を当てて俺の方に迫ってくる。


「な・に・か・文句でもあるの!?」
「だってこれじゃあ魔物に襲われた時とか生き残れないですよね?」


「何よ、だったら他の神々を料理で口説き落とすでもしたらいいんじゃない!」
「え? そんなことできるの?」


「そんなこと知らないわ! もうアンタなんか大っ嫌い!」
 なんて投げやりな神様だろう。細市の中でトレイズ・フィンパッションへの印象がすこぶる悪くなる。


「少しくらい優しくしてくれてもいいじゃないか!」
「知らない知らない知らない! 何よ、だからイヤなのよ! どいつもこいつも食神の加護って選ばれると嫌そうな顔してっ あたしだってやりきれないわ……」
 フン、とソッポを向いたトレイズに、細市は複雑な思いになる。
 どうやら互いに最悪の出会い方をしてしまったらしい。
ネット小説でよくあるように強請ればチートが貰えるというわけでもないようで、これでは自分が無理難題を要求して怒らせた形だ。


「その、悪かったよ……」
「アンタなんかもう二度と会いたくない! 美味しいものでも持ってこなかったら許さないんだから!」
 二度と会うも何も、人間がここに来れるのは一回限りと話していた癖に。
矛盾することを云っているトレイズだが、その怒っている姿もどこか可愛らしく見える。


「だから…………えてんの?……」
 だんだん意識が遠のいていく。女神の声が聞こえなくなる。


(もう二度と会いたくないのはこっちだよ)
 もっと何か云えれば良かったと思った頃には、遅かった。








「……はっ」
 気が付くと、マケインは部屋の床で倒れていた。寝ころんでいたところから起き上がると、ダムソンが質問をしてくる。


「少年、起きたか。誰にお会いできたかの?」
「トレイズ……トレイズ・フィンパッション……」
「なるほど、食神様か」
 それを聞いたルドルフは残念そうな顔になる。ダムソンは顎鬚を撫でながら唸った。


「面白い結果じゃのう、貴族には不向きなご加護ではあるが……色々役には立つものじゃよ。もしもこの先、何か縁があれば遠慮なく儂を頼ってくるがよい」
 帰り際にダムソンと握手をしながら、マケインは世界の終わりのような気分になっていた。







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