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外食業で異世界革命っ!

顔面ヒロシ

☆7 父親の帰還







 ルドルフ・モスキーク男爵とその息子のマケインが初めて顔を突き合わせることになったのは、その日の晩のことだった。
領内の視察として不在であったこの家の当主と対面するのは、それなりに緊張の瞬間であったのだが、意外にも不信がられることにはならないで済みそうだ。


「帰ったぞ! みんな!」
 そう言いながらドアが開け放たれた時、俺は最初、目の前の人物が己の父親だと気付かなかった。ぼさぼさに生えた髭、やたら大きな体格、ぎらりと輝く灰色の瞳はまるで野生の熊と対峙しているかのようだ。
世紀末覇者って単語が似合いそうなオッサンが、まさか女の子みたいな俺の親父だと気が付くのに数秒を要した。
 これがルリイとミリアの父親だって? まるで遺伝子が仕事してねえ!


 男爵の帰還に気が付いたエイリスが、スカートの裾をつまんでお辞儀をする。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ご苦労だな、エイリス」


 唸るような低い声の返答に、メイドは優しく微笑する。階段から急ぎ足で降りてきたのはルリイとミリアだ。


「おかえりなさい! お父さま!」
「おお、お前たち!」
 その髭もじゃの顔を嬉しそうに綻ばせ、背高な男爵は二人を抱きしめる。そして、マケインの方へと視線を送るとそのままニカッと笑顔になった。


「おや? お前はこっちに来なくてもいいのか? マケイン」
「いや……その……」
 いくら実の父といっても、俺にとっては馴染みの薄いただのオッサンだ。そもそも俺が前世で暮らしていた日本という国は他人とハグをする文化圏ではない。


「なるほど、照れているのだな! 恥ずかしがることはないぞ、愛しの息子よ!」
「う、うわーっ!」
 暑苦しい! 逃げる間もなくがばっと抱きしめられ、じょりじょりする髭を擦りつけられる。ルリイとミリアはきゃっきゃと笑ってそれを眺めていた。
なんだかこの人と接しているとこちらの生気が吸い取られるような気がするんだけど……。 暑苦しい抱擁にげんなりしていると、ようやく息子との触れ合いを堪能したモスキーク男爵が腕の力を緩めた。


「お前たち、留守番の間は変わったことはなかったか?」


「た、大したことなんてなかったわよ!」
「あのねー! 兄ちゃが美味しい『ラテ』って飲み物を作ってくれたのー」
 ミリアとルリイの言葉に、親父が首を捻る。


「らて? なんだそりゃ?」
 やっぱり知らないのか。……でも、名前が一緒じゃないだけで似たような飲み方があるかもしれないよな。


「えっと、カモミールのお茶に山羊の乳を入れたものなんだけど……」
「またけったいなものを考えたものだな、マケイン。そのようなもの、流行りにうるさい貴族の間でも聞いたことがないぞ」
 口ではそう言いながらも、親父の目がわくわくと踊っている。それに気が付いたマリラがため息をついた。


「……エイリス、お父様にも同じものを作って差し上げなさい。全く幾つになっても子どもみたいな人なんだから」
「は、はい!」
 慌ててエイリスが腕まくりをした。


「いやいや! エイリスに作れるの!?」
「お料理は本来私の役目にございますよ? 坊ちゃま」
 自信満々に彼女がそう言っているのを嫌な予感がして眺めていると、モスキーク男爵が抱えていた剣を置く。


「では、俺は水でも浴びてくるか」
「一緒に髭も落としてくださいませ、旦那様」


「確かにこのままでは山賊に間違われそうだな、わはは!」
 そう言って男爵がいなくなったところでようやくホッと息をつくと、それを見ていたルリイが不思議そうに言った。


「にいに、どうしてそんなにエイリスを不安そうに見てるの?」
「そんなことないよ」
「そういう目、してる」
 う、子どもの観察力は侮れないな。
誤魔化すような笑顔を浮かべると、近くにいたミリアが腰に手を当てて嫌そうな顔をする。


「なによ? その文句ありそーな顔! まるでワイバーンを目指す鶏を見るような目だわ!」
「……え、この世界ってワイバーンとかいるの?」
 怒るよりも先にその物騒な単語が耳についた。俺が若干引きながらそう返すと、ミリアは無知な兄に呆れた顔になる。


「いるに決まってるじゃない。魔物なんてこの世界に腐るほどいるわよ」
「うわあ~、そこは聞きたくなかった……っ」
 なるほど。武神の加護が貴族の男子に人気な理由はこれか。
誰だって自分の身は自分で守れるようになりたいもんな。この世界に魔物がいるってことは、武力と権力が密接に結びついている世界なのだろう。さもありなんだ。


そうなってくると、俺も物凄く切実に武神の加護が欲しい。生き物を殺すのは抵抗があるけど、魔物の腹の足しになるよりはよっぽどマシってやつだ。


「にいちゃん、そろそろ剣の稽古の準備しなくていいの?」
「えっ」
「いつもならお父様が帰ってきたら夕飯まで稽古をつけてもらってるのに、そんなに間抜けに立ってるなんておかしいわね」


 ルリイとミリアにそう指摘され、マケインは自分の顔が青ざめるのを感じた。
いつもと違う行動をして、このまま不審がられてはマズい!


「早く準備してきますっ」
「がんばってー」
 うっすらと残っている記憶を頼りに木剣を抱えて裏庭に出ると、父親がやって来るより先に素振りを始めた。
神様にも少しでも熱心に練習してると思われたいからな。


……果たして西洋の剣の振り方ってこれで良かったんだっけ。









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