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外食業で異世界革命っ!

顔面ヒロシ

☆5 カモミールとクラム山羊







 裁縫の得意なエイリスに他家からのお下がりで手に入れた儀式用の一張羅の裾を詰めてもらっていると、外から誰かが喧嘩している声が聞こえてきた。


「……どれだけ騒いでもダメなものはダメです!」
「なんであたしが付いていっちゃいけないの! お母さま!」
 きいきいわめいているのは、ミリア。それを困ったようにルリイが見ている。


「うちに余裕がないことは知っているでしょう! 聞き分けのないことを言うものではありません!」
 そう厳しく叱責したマリラは、深々とため息をつく。ぷくっと頬を膨らませたミリアが眉間にシワを寄せた。


「だってあたしだって一緒に行きたい! あんなダメ兄貴、あたしがいてあげなくちゃ何の加護を貰うか分からないじゃないっ」
「ミリアが一緒に来ると、あれが欲しいこれが欲しいと騒ぎになるでしょう! 大人しいルリイならともかく、我がままな子は連れていきません」


 どうやら、市街地に出かける俺に便乗して一緒に遊びに連れて行ってもらいたいらしい。日本ではゲーム機でも与えておけば子どもは大人しくなるが、娯楽の少ないこの世界において、こういったイベントは貴重なのだろう。
義母が困らされているのを見て、俺はそそくさと自分の気配を薄くしようとした。ミリアに掴まったら面倒なことになりそうである。


 アイツにとって妾の子どものヒエラルキーはそこまで高くなさそうだしな。
欠伸をかみ殺しながら動こうとしていると、俺の服の裾を掴んでくる存在があった。


「……お兄ちゃん」
「ルリイ?」
 土埃を頬につけた腹違いの我が妹が、物静かな目でこちらを見上げていた。手に持っている葉っぱを手渡してくる。


「庭からとってきた。この草は、お茶になるの」
 ハーブ的なものか?
よくよく見てみると、どこかで見たような白い花のついた野菊っぽい植物だ。


「これって、もしかしてカモミールか?」
「これを飲むと、イライラしている人間が大人しくなるんだよ」


 確か、カモミールって沈静作用があるもんな。
こくりと頷いたルリイの言葉に、ミリアがキッとこちらを睨んできた。


「……何よ、あたしがそんなにうるさいって言うの!?」
「うるさいよ」
 さらりと毒を吐いたルリイに、俺は空笑いを浮かべる。そういえば、前世に喫茶店でカモミールラテを飲んだことがあったっけな。


「……ねえ、エイリス。この家に牛乳ってあったっけ?」
「牛のものではありませんが、乳ならございますよ」


「だったら、このカモミールを使ってラテを作ってみようよ。きっと美味しいと思うから」
 ファストフードというよりは、ラテって〇タバの飲み物だけどな。


「ら……らて? でございますか?」
 初耳の人間の反応だ。
目を丸くしたエイリスの作った食事の味を思い出し、俺はぎくりとした。このまま頼んだら、想像した通りのものは出てこない気がする。
ダメだ、そんなことになったらせっかくのミルクが勿体なさすぎる! この家はそんなに豊かではないんだぞ!


「……どのようなものでございますか?」
「いや、いいよ。エイリスはそこに座ってて」
 針と糸を持っているエイリスは不思議そうな顔をしてこっちを見る。俺が台所の方に向かっていくと、みんなは驚きの目になった。
火の残っている竈に水を入れたヤカンをかけ、小鍋を探し出したマケインを見て、エイリスは訝しそうな目になった。


「それぐらいでありましたら、私が淹れて差し上げますのに……」
「ここからが肝心なんだ。ミルクを温めたいんだけど、どこにあるの?」
 マケインが訊ねると、エイリスは慌てて瓶に入ったミルクを台所から取り出してくる。


「今朝搾りたての我が家で飼っているクラム山羊のミルクでございます!」
「や、山羊?」
 気のせいか、日本人には馴染みの薄い単語が出てきたぞ。
口端を引き攣らせた俺が引きそうになっていると、エイリスがおっとりと笑う。


「クラム種は山羊の中でもひと際臭気が薄い家畜なんですよ。牧場でもない限り、牛さんなんて世話できませんからね!」
「そ、そういうものなんだ……。味見をしてみてもいい?」
「いいですよー」


 ドギマギしながらも俺は、小さなスプーンに差し出された山羊の乳をすくって口の中に入れる。濃厚なミルクの個性の強い味がしたものの、料理に使えない程というわけではなさそうだ。慣れれば問題ない範疇だろう。
どうやら、この世界の食材の味に難があるというよりは、調理の文化が日本よりも遅れているんだな。


「これならラテも作れるか……」
「らて? 何をぶつぶつ呟いているのよ」
 眉間にシワを寄せたミリアが不機嫌そうにこちらを睨んでくる。それに愛想笑いを返した俺は、試しにこんなことを聞いてみた。


「地球って星のヨーロッパにあるイタリアって国の飲み物なんだけど、知らないか?」
「は? いたりあ?」
 虚を突かれた格好になったミリアは、


「アンタ頭でもおかしくなったんじゃないの? この世界の名前はアムズ・テル。この国の名はアストラ王国。イタリアなんて国は聞いたこともないわ!」とフン、と馬鹿にしたように鼻で笑いながらそんなことを言う。
 その態度に俺は確信を強めた。この地域はどうやら日本でもヨーロッパの一国でもないようだ。







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