悪役令嬢のままでいなさい!

顔面ヒロシ

☆107 記念撮影と恋愛相談







 表情に出さずに考え込んでいると、白波さんがはしゃぎながら駆け寄ってきた。


「月之宮さん、あっちにプリクラがあるの! 良かったら一緒に撮りましょう!」
ぎゅっと腕に抱き付かれて、意表を突かれる。
「え、プリクラ?」
「友達なのに一度も撮ったことないでしょ? 女子高校生ってこういうのをコレクションしたりするって聞いたことあります!」


 あ、やったことがあるわけじゃないんだ。
プリクラね……。そーいえば、私もこういうことは疎いかもしれない。


 希未がにっと笑顔になった。
「八重、折角あるんだからやってみなよ。私も記念に1枚欲しいしさ!」
「そうねえ……。これってどうやって使うの?」


「簡単だよ。中に入れば自動でナビゲートしてくれるもんだって」
 ふーん。楽しそうね。
 少し沈んでいた気持ちが浮上する。


 普通の規格より大きめの機械を観察していた鳥羽が、安堵したように喋った。
「よし、値段も一回200円なら普通のプリクラだな……。新手の詐欺みたいにぼったくられるんじゃないかと思ったけど、別に変な仕掛けもないみたいだし」
「ぼったくりって……警戒しすぎよ」


 思わず呆れて呟くと、鳥羽は首を振った。
「大体こういうところの記念写真ってのは、そーいうためにあるようなものだろ」
「そうかしら?」
「そうだって。……で、お前はこのプリクラで白波と写真を撮るのか?」


 私に対する白波さんの抱擁がきつくなる。甘い香りを感じながらも、私は作り笑いで頷いた。それを見た希未が何故か私の反対側の腕に手を絡めてきた。


「じゃ、私たち3人の仲良しショットだね! 遠野ちゃんや蛍御前は参加する?」


「それはいいのう。妾もできたら記念写真には参加したいの」
「……私、も月之宮さんとなら一緒に映りたい。……その後、できたら、柳原先生とも撮ってみたい」
 蛍御前はにこやかに小首を傾げ、遠野さんはボソボソ喋りながら顔を赤らめた。その言葉を聞いた柳原先生が驚愕する。


「いやいや、生徒とデートした証拠写真なんかオレ残せないって! 出回ったら停職になっちまうもん!」
「……大丈夫、変装したままでもいい」


「この髪の色でばれちまうって! 白髪でもない限りこんな色の髪をした若い男なんて滅多にいないから!」
 柳原先生の必死の抵抗に、遠野さんがしょんぼりした。まあ、ここは常識的に考えて我慢してもらうしかない。いくら写真が欲しくても雪男の教員生命がかかってるのだ。


「そそそ、そんなに落ち込まんでくれよ遠野……」
「……先生は、悪く、ないです」
 遠野さんの顔色が悪くなったことに、柳原先生が動転している。……ここまで取り乱すこともないと思うのだけど。


「まあ、僕は見られて困る人間もいませんから……」
 東雲先輩がチラリと私の方を見た。その言葉を聞いた松葉が積極的にアピールをしてくる。


「こんな奴と撮影するより、ボクと撮りましょうよ! ほら、主従プリクラ!」
 カワウソは乳白色の髪を跳ねさせて、アーモンド型の目で訴えかけてくる。


「……これと撮るぐらいなら僕の方がマシですよね?」
「お前はすっこんでろよ!」
 妖狐の本音に、カワウソがキレる。
 どうしていいのか分からなくなった私が困っていると、白波さんが2人に威嚇した。


「まず月之宮さんと撮るのは私です! ようやくお友達ができたって家族に自慢するんだから!」
 まさか彼女がこんなことを叫ぶとは思わなかった。
意外さに固まった私をよそに、ふん、と白波さんが口を尖らせる。それを見た鳥羽が生温かい眼差しを向けてきた。


 ちょっと、何よその目! 確かに私と白波さんの友情はどんどん深まっているような気はするけど、そんなに微笑ましそうに見なくてもいいじゃない!


 ずるずるプリクラの中に白波さんによって連れ込まれた私は、鳥羽を睨み付ける暇はなかった。遠野さんも顔を出し、飛び込んで来た希未が元気よく言った。


「さあ、1枚目いってみよー!」


 希未が機械を操作すると、ぎこちなく口角を上げた私に向かって、フラッシュが何度も点滅した。白波さんと密着した体勢で何枚もとらされたけれど、なんだか照れくさい思いになる。


「『友情は永遠不滅!』……っと」
 そのまま調子に乗った希未が出来あがった写真に液晶から書き込んだ。


「すごい、栗村さんってこんなに難しい漢字を書けるんだ」
 今の光景を見た白波さんの感動の声に、
「不滅の『滅』をうちの高校で書けねーのはお前だけだっつーの」
 学年主席の鳥羽が白い目で白波さんにデコピンをした。


「はうっ」
「お前も少しは努力しろよ」
「努力ならいっぱいしたけど、わ、私は努力したって覚えられないもん……」
 鳥羽の厳しい言葉に、白波さんの元気がなくなる。
 彼女の悲しそうな笑顔に、私はどこか引っかかるものを感じたけれど、それを追求することはなかった。
――言い訳にしては、切実な悩みに聞こえたような?


「……さて、今度は僕と撮りましょうか」
「違う! 次はボクと撮るんだよ!」
 この後、強引な東雲先輩と松葉のプリクラもなし崩しに撮ることになった私は、その違和感のことをすっかり忘れてしまったのだった。






 一泊する予定のリゾートホテルのスイートルームを見た蛍御前の反応はこうだった。


「ほお、なかなかいい部屋じゃの!」
 複数の部屋に予約を入れたけれど、今夜私と相部屋になるのは蛍御前だ。この神龍が暴れまわることはもうないだろうけれど、一応陰陽師の私が一緒になった方がいいだろうと思ったのだ。
 浮き立つ心が隠せない蛍御前は、重厚なカーテンを開ける。すると、そのガラスの向こうには圧倒的な夜景が遠望に広がった。


「……綺麗」
 夕食後の私は、思わず呟いた。


「そうじゃのう、人間どもの作った光にしてはほんに綺麗じゃ」
 蛍御前もうっとりと呟く。そのまま見惚れている彼女に、ベッドに腰かけた私は問いかけた。


「……蛍御前。今日の遊園地、楽しかったですか?」
「そうさのう。人間の子どもとは随分贅沢な身分じゃと呆れはしたがの。妾はこの程度で満足はせぬぞ。まだまだ夏は長い。八重たちともっともっと遊ぶのじゃ!」


 なんて強欲な神龍……っ
想定外の言葉を受けてがっくりうな垂れた私に、蛍御前はケラケラ笑い声を上げた。


「八重たちの学び舎も長期休みなのじゃろう? そうさな、あと1回くらいはこうして旅行に出かけたいの!」
「大人しく満足してください!」
 まさか秋になっても我が家に居座っているつもりじゃないでしょうね。無邪気な幼子のように満面の笑顔を向けてきた神龍には悪意はない。
ただ、またもう一度旅行のプランニングからやり直しなのかと思った私が疲労感に包まれただけの話だ。


「い・や・じゃ!」
 笑顔で蛍御前は私の訴えを跳ねのける。そのまま、彼女は手のひらに小さな水球を出して遊び始めた。紙風船のようにフワフワ漂わせて楽しんでいる。


「のう。八重。やはり人は、積み上げたものは壊したくなる衝動に襲われるものなのかの?
こんなに美しい夜景の楽しめる街並みを怪獣が破壊する映画を何作もヒットさせるということは、誰しもそういった感情を持っているものなのじゃろうか」
「……さあ?」
 意識したことはなかった。


「破壊と再生は表裏一体じゃが、創造の為の破壊衝動は推奨されるべきものなのかのう……」
「……あの、蛍御前は街を壊したいと思ったことがあるんですか?」
「そりゃあ、幼き頃はの」
 シャレにならないことをサラッと喋った蛍御前に、私は閉口した。生まれながらの神様がこうして大人しくしていることはやはり当たり前ではないのだ。今でも彼女は10歳ぐらいの歳に見えるけれど、それでも幼少期とやらはあったらしい。


「その昔は妾の母御も健在じゃったからの。戯れで村を壊そうとしたときには、こっぴどく叱られたわ。今となってはそれもいい思い出じゃのう……」
 蛍御前は懐かしそうに語った。
 彼女の発言に冷や冷やしている私は、適当な相槌を打つ。


「八重。誤解するでないぞ。
流石の妾もこの豪華な遊園地を破壊しようとは思っておらん。ただ言いたいのは、そなたの交友関係もいつかそういう時が来るのではないかと思って……いや、案じておるのじゃ」
「私の……?」
 蛍御前は、意味深な笑みを浮かべて窓辺から振り返った。その水色の髪は舞い上がり、金色の瞳は私を捉える。
 彼女の表情が読めなくて、私は少し心がかき乱された。


「八重。もしも人間にそういった衝動がそなわっているとするならば、いつか今の心地よい関係が壊れる日も来るやもしれぬ。
新しい何かが欲しくて旧来の対人関係を捨てたいと思う……その最たるものが恋じゃ」
 蛍御前の先読みしたような言葉の意味はいまいちよく分からなかった。


「破壊衝動に限って言うのなら、アヤカシの方がそういった感情は強いんじゃないんですか?」
「意外と彼奴らは臆病なものじゃよ。じゃが、そなたの言葉にも一理あるの」
 悪夢に出てきた東雲先輩の冷酷さや、鳥羽の慟哭を思い出して喋ると、蛍御前はため息をついた。


「こういった話に、アヤカシだの神だのと持ち出しても案外何も変わらない気はするがの。現にそなたは、彼奴等をすでに一個人として扱っておるように思えたぞ」


 蛍御前の率直な感想に、私の心臓がきゅっと竦んだ。それに気付かなかったふりをしようとして、それでいいのかと理性が叫ぶ。
よくない……、それが分かっていても、今の私は引き返せないほどにアヤカシたちと親しくなっている。
 渡ろうとしている一線の岸辺はもうとっくに見えなくなっていて、かといって進行方向に何があるのか知っているわけではない。
そのことに対して自嘲気味に笑うと、蛍御前が何かを口にしようとした。


「じゃからの、つまり――――」
 彼女がどんなアドバイスをくれようとしていたのかは分からなかった。何故なら、この部屋に突然のノックが鳴り響いたからだ。
 ――コンコン、コンコン。
 私は、急いで出入り口の方に向かう。蛍御前は拗ねた顔つきになったが、それは些細なことだ。


「……はあい?」
 チェーンロックを外して重いドアを開けると、そこには縮こまった白波さんが立っていた。






「……月之宮さん、ごめんなさい。こんな時間に……」
 ごめんなさいもなにも、こんなに泣きそうな顔をしている白波さんの目の前でドアを再び閉じることなんかできない。私に頭を下げた白波さんは、すすめられるがままにベッドの上で座り込んだ。


「まあ、別にいいわよ。寝るまでに時間もあったことだし」
 まだ時刻は9時前だ。おしゃべりをする余裕は充分にある。
 心配そうな目線を白波さんに送ると、相手は蒸気が出そうなほどに真っ赤な顔をしていた。


「ごめん、ごめんなさい! 他に相談できそうな人もいなくて……、栗村さんに話したら大変なことになりそうだなって」
「……希未に話したらマズいことなの?」
 あれ、何だか雲行きが早速怪しくなってきた。お調子者の友人のことを思い浮かべて、どうして白波さんが私のところにやって来たのか納得できそうになる。


「だったら、蛍御前もいない方がいい?」
「えっと……」
 私が気をきかせると、白波さんは躊躇いながらも頷いた。……ということだから、神龍には出て行ってもらいましょうか。
 私のもの言いたげな視線を受けて、蛍御前がたじろいだ。


「なんじゃ! 何なのじゃ、ここは妾の寝る部屋ぞ!」
「大事な話があるそうなので、蛍御前は出て行ってくれませんか?」


「嫌じゃ! 高貴な妾がなぜその娘に遠慮しなければならんのじゃ!」
 抵抗している蛍御前に、私はやれやれとため息をつく。


「……そうしてくれれば、あと1回くらいなら旅行も企画してあげますから」
 断腸の思いで交換条件を提示すると、蛍御前は目を光らせる。


「……まったく、しょうがないのう。そこまで言われたらのう、高貴で思いやりのあってプリチーな妾としてはここから出て行かざるを得ないの……」
 どこの誰が思いやりがあってプリチーですって?
 些か同意しかねる言葉を吐いた神龍は、ご機嫌でスリッパをつっかけて部屋から居なくなった。ひらひら手を振った彼女の姿が消えると、白波さんがぐすんと鼻をすすった。


「……次の旅行って何のことですか……」
「そのことは追って連絡するわ」
 あはは、冷や汗しか出ないわね。
 膝こぞうに手を乗せた白波さんは、私に向かってこう言った。


「……あの、今日の終わりに二人一組で観覧車に乗ったでしょう?」
 そうですね。確か記憶では乗った覚えがあります。私は蛍御前と一緒に地上を眺めました。


「その時に、あの、鳥羽君が……」
「鳥羽がどうかしたの?」
 何か暴言でも吐かれたのかしら。私が首を傾げると、白波さんは息を吸いこんで決死の思いで話した。


「鳥羽君、その時に私にいきなりキス、したの……」
「え!?」
 キ……キキキ、キス!? いつ!?どこで!? 観覧車の中で!?
私は茫然自失になりそうになったけれど、ハッと我に返った。


「白波さんファーストキス奪われちゃったの!?」
 ショックを受けた私が口の前に手を当てると、白波さんはもう真っ赤になって頷いた。


「あの……ほっぺだけど……」
 良かった、口じゃなかった。
 私が憎からず思っていた鳥羽が白波さんにキスをしたというのはやはり衝撃だ。嫉妬の念も感じなくもないけれど、それを彼女にぶつけるのは間違っているだろう。


「そんなことがあったの……」
「鳥羽君は『意味ぐらい自分で考えろ』って云ってたけど、私、なんでキスされたのか分からないよ……」
 え、本当に分からないの?
しょげた白波さんの言葉に、私は驚いた。


「それは、鳥羽が白波さんのことを好きだからに決まってるじゃない」
 自分で口に出しておきながら、心臓を切り付けられたような心境に陥った。トゲだらけの茨道に飛び込んでしまったような気さえする。


「え?」
 白波さんがポカンと口を開けた。


「だって、そんな……え? あれ、その……それはないと思うよ……?」
 この期に及んでまだ否定する白波さんに呆れてしまう。


「ほ、ほら! 鳥羽君のことだから私に嫌がらせのつもりとか……」
「バカね、嫌がらせでそんなことするわけないでしょう」
 まあ、あまりにも白波さんが意識していないものだからそうするしかなかったのかもしれないけれど。そこまで考えたところで、東雲先輩と自分の関係にブーメランしてきたことに気付いてドキッとした。


「あの、月之宮さんって私の友達なんですよね……?」
「そうね。それでいいんじゃない?」


「だったら、その、鳥羽君と私が付き合うことに陰陽師として反対したりしないんですか……?」
 白波さんの言葉に、私はゆっくり息を吐いた。
 いつか鳥羽に対するこの気持ちを諦めなくてはいけないと分かっていた。今すぐにとは言えないけれど、涙も出てこない気持ちの名前は何だったのだろう。
私が泣けないということはその程度のことだったのだろうか。それぐらいの軽い感情に振り回されていたのだろうか。


「……自分の気持ちだって分からないのに、鳥羽に諦めろだなんて云えるわけないわ」
 あの悪夢を見てさえもまだ、信じてみたいと思う。
 ゲームのストーリーから脱線した今ならば、新しい幸せが創れるかもしれないと願っているから。大事なものを失わずに、誰かを好きだと誇らしくなれる未来に辿りつけたらいいと思う。


「自分の気持ちって……あ、東雲先輩のことですか?」
 明るくなった白波さんの悪気のないセリフに、私は噴きだしそうになった。すんでのところで我慢できたけれど……、


「なんでそこで東雲先輩の名前が出てくるのよ!」
「……え、だってお似合いだと思うよ?」
 私が頬を紅潮させると、白波さんは不思議そうにしていた。


「一般人の白波さんがアヤカシと付き合うならまだしも、私は陰陽師でしょ!」
「……うーん」
 白波さんが困ったように笑う。


「……何を笑ってるのよ」
「だって、あんなに2人とも相性ピッタリに見えるのに」
 私が胡乱気な目を向けながら口を開く。


「それ、白波さんの方が当てはまってない?
いいじゃない、鳥羽にしとけば。いきなり結婚ってわけでもないんだから。
ほら、頭もいいし、そこそこお金持ちだし、ちょっと背は低いけど見た目だって悪くないし、それに……」


 鳥羽の焦げ茶の眼差しを思い出して、私は胸が締め付けられた。どうしてだろう、こんなに苦しいのに、白波さんを憎む気になれないのだ。
もうとっくに彼女と私は友達になっているのに、白波さんのものである鳥羽に少なからず想いを向ける私の方が悪い。


「……月之宮さんって、恋愛したことがあるの?」
「え?」
「だって、すごく切ない顔をしてる」
 ドクン、ドクン……。
心臓の音が響いて、私は泣きだしそうになってしまった。


「……ねえ、白波さん」
「なあに?」
「もしかしたら私は、人間よりアヤカシの方が好きなのかもしれないわ」
 それは私の月之宮家を敵に回す告白だった。思わず口をついて出た言葉に、私はそのことによって自分の本心に気が付いた。
 そうか、こんなにも私はアヤカシに惹かれているんだ。
 実体を持った幽霊のことを哀しくて愛おしいと思っている。


「月之宮さんは、遠野さんや栗村さんのことが嫌い?」
「……好きよ」


「だったら、大丈夫だと思いますよ。月之宮さんは、きっと人間のことだっていつかは好きになれます。だから……、私のこともどうか好きになって下さい。
私は月之宮さんのことが大好きです」
 そう言って、白波さんは微笑んだ。私はぎこちなくも、その優しさに触れて悲しく笑った。






 夜は明けて、ホテルの朝食のシーンで白波さんと鳥羽は対面した。
「……鳥羽君、私は謝って欲しいです!」
「何をだよ?」
 き、キスのこと。と、白波さんの口が無音で動く。


「白波。俺はお前に謝るようなことをしたとは思ってないから」
「で、でも!」
「少しは意識しろっつてんだよ。ここで謝って無かったことになる方がずっと嫌だね」
 そう言い捨てた鳥羽に、同行していた希未がショックを受けた顔になった。


「まさか、鳥羽……アンタ白波ちゃんに謝らなくちゃいけないことをしたの!? いつ!? 私たちの知らない間にいつ欲望に負けて押し倒しちゃったの!?」
「んなことしてねえわ!!」
「私の中の白波ちゃんが汚された……」
 涙を拭う素振りをした希未が鳥羽に蹴られる。近くにいた柳原先生が困り顔になり、遠野さんは聞こえなかったことにした。


「これ松葉。今度はあの丸パンをとってまいれ」
「だから、自分でとってこいって云ってるだろ!」
 松葉を手足に使っている蛍御前は、文句を言われてもにっこり笑う。私の近くにいた東雲先輩が、耳元で囁いてきた。


「八重。この旅行は楽しかったですか?」
「……はい」
「それは良かった」
 東雲先輩は薄く微笑する。


「帰ってからも何か困ったことができたら、必ず僕のところに連絡を入れて下さいね」
 青い瞳をした彼の言葉に、私は迷いながらも笑顔を返した。







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