毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

6-3


 青白い照明の部屋の中には長机が並んでいて何人か座っていた。

 右横にはなにやら器具が見える。何人かの研究員が金属管を通したものものしい装置に向かっていた。

 機械の上部からはラッパ型の管を通して水蒸気がもうもうと出ている。なんの実験だろう。


「このドアの奥に、ずっと進んでいって下さい」


 研究員はそう言うと、自分の仕事に戻った。


「コーキ君」


「あ、ああ、なんです?」

 思わず生返事をする。

 タイミングを見計らってブラッドに問い詰めようとしたが、その前にアイザックさんに話しかけられた。


 彼はためらうように扉にかけた手を止めてから、思いきった様子でたずねてきた。


「君と初めて会ったとき、ダルトラ神殿の話をしたよね」


 彼の手がかけられ、金属の分厚いドアが開く。

 重い扉を潜ると、一直線のコンクリートの廊下が現れた。


 思い出す。何ヵ月か前の、助手としての確認の面接のとき。


 俺がアイザックさんに話したダルトラ神殿は、神様が冒険者に神託としてスキルを授けてくれると言われている場所。もっとも、神に会った人なんていないから、スキルの習得はその場所が持つ未解明の不思議なチカラ、で片付けられることも多くなってきたのだけど。

 魔法の仕組みが解明されて魔法科学として体系化されたり、古来から伝わる秘薬、回復薬の製法がポーション、ひいては調合学という箱の中に押し込められたり。

 どうやら科学の発展は、神話と理との共存から、見えるものだけを見る方向へと向かっているようだ。

 各国が王令による規制やサイバード・シティのような自治権を与えて閉じ込める政策で抑え込んではいるけれど、いずれ科学は宗教に基盤を置く統治構造に風穴をあけるかもしれない。


 とにかく。


「俺が神様に願って毒手を習得した場所ですね。それがどうかしました?」


 神殿で俺は、謎の声を聞くとともに左腕がうずいて、念願の毒手を手にしてしまった。半ば、ギャグのように。


「……まさか、あんなふざけたことが、クロック博士の言う毒手の秘密と深く繋がっていたなんてね」


「へっ?」


 全員が入ると、後ろでバタン、と扉が自然に閉まる。


「何か、関係あるんですか?」


「――大いに関係ある。博士が全て話してくれるさ」


 アイザックさんは思わせ振りに言った。


「どういうことじゃ? 師匠――」


「ええっ、アイっちゃん何言ってるのかな? 

 その言い方じゃあまるで、アイっちゃんがあの詐欺師の仲間だって言ってるようなもんじゃん――」エルが詐欺師という語に力を込めて言った。


「……」


 アイザックさんは答えない。その表情に浮かぶのは――正確にはわからない……後悔だろうか?

 その様子に、先日のことを思い出す。サイバード・シティに来たことがあるのかという質問に、「学生時代に見学で」と返したときのこと。今の彼の雰囲気は、その時のものと似ていた。


 ――まさか。俺の中で、嫌な疑念が頭をよぎった。


 もう、鉄の扉は既に重い音を立てて閉まった。後ろを振り返って扉を見る。


 ――密室。


 扉には、取っ手が無かった。


 代わりに、右側にあるコントロールパネルに赤く『LOCKED』の文字が点灯している。


「アイザックさん、これは何の冗談なのでしょう――」カティアさんが愕然として目の前に立つ研究者を見た。


「お前っ、これはどういうことだ!」レイラが開かない扉を指差して叫ぶ。
「アイザックっ! お前、まさか――!?」彼女の声はそこで続きをためらうように止まった。


 後悔と諦めを顔ににじませて俺達の前に立つアイザックさん。


 俺は嫌な鼓動を刻み始めた心臓の音を聞きながら、絶対に言いたくなかった言葉を声に出す。


「……俺達を、だましていたんですか」


「……すまない」


 その聞こえた解答に、自分の顔から血の気が引き、面前がクラクラするのを感じた。


 と、


「よ・う・こ・そ」


 知らない声が、部屋の奥から聞こえてきた。


 奥の方は三段の段差を挟んで歌劇のステージのように高くなっていて、その上に何があるのかは遠目からは見えなかった。


 その段差からだ。白衣に身を包んだ四十代くらいの男がパチパチと手を叩きながら降りてきたのは。


「フフフ、このタワーは気に入ってくれたかな?」


 白髪の混じる頭で答えた彼。

 拍手する右腕は肉ではなくて機械。俺は驚く。


 よく見ると、左目は義眼だった。


「お前が、クロック博士か――!」


 半身機械の体をした男はこちらに歩いてくると答えた。


「そう構えるな。ここまで来てくれた君達のために歓迎会、ひいては最後の晩餐会を開こうじゃないか。これは人類にとって、非常に喜ばしいことだ。

 健康なラボノエシスの献体を一人、ノコノコ差し出しに来てくれたのだからな――、

 のう、アイザック? 仲間が生け贄にされる気分はどうだね?」


「! 博士、何を仰るのです!?」


「――献体?」俺は呟く。


 どういうことだ? それに、献体が生け贄がって、エルのラボノエシスとやらは爆発事故で失われたんじゃないのか? それに彼女はもう別の体だし――。


「博士、話が違います。

 僕はあくまでも、自分の身柄と引き換えにラボノエシスを安全に摘出させるために、彼女を連れてきたのです。


 裏切り者になることを覚悟してまで、ここにいる皆に黙って。


 けれども、僕じゃなくて仲間が生け贄だなんて――。


 ……カリンには危害を加えない、と約束したではありませんか」


 カリン?


「わしが――、どうか? いったい、何の話をしとるのじゃ――?」


 困惑するカリンをよそに、アイザックさんは毅然として博士に言う。


「あ~、そう言うことか!」エルがポンと手を叩いた。


「エルにはもうラボノエシスの結晶は無い――だからその一人ってのは私じゃなくてカリンちゃんのことかぁ。

 つまり、実はカリンちゃんはラボノエシスの所有者だったってことだね!」


「――エルだと? 」博士が継ぎ目のある眉間を寄せた。


「久しぶりだね、悪人顔のおじさんっ」


「その口調……もしやあの時の……ククッ、どうやったのかは知らないが姿を変えて生きていたのか…………ククク、芋づる式とはこのようなことを言うのだな」


 クロック博士は愉快そうに笑った。


「まさか三人も釣れるとはね。いや、アイザックの身柄を拘束すれば四人か。

 アイザック、ラボノエシスを持つカリン、それから今は体ごと結晶を失いもぬけの殻になったエル――」


 そこまで言うと、クロック博士はその人物の方に向き直る。


「そして……我が愛弟子よ」


 博士がそう呟いて視線を交わした人物。


 彼は一歩歩み寄って指揮者のように礼をすると、いつもの口調で言った。


「……久しぶりだな、博士。

 ――いいや、“元”師匠……」


「ブラッド――?」



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