毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

第6章 独白と毒吐くでうまいこと言ったつもりですか 6-1

 王都ランプリット。その街に入ってすぐの場所には巨大な装置がある。旅人を一方通行で運ぶトランスポーテーションシステムは元々はサイバード・シティの提供した技術によってもたらされたものだ。

 古代の遺跡《ピラミッド》に似た円錐形。その頂点部に串に刺したように取り付けられた蒼色の魔導コアは、文字通り、装置の動力である魔力を増幅させる仕組みのパーツである。

 屋根つきの井戸のような形状の転送装置、その中央にあるのは水を汲む穴ではなく、五メートル四方の魔方陣だ。

 そんな転送装置の入口、今も冒険者達が各地に旅立つのを横目で見送りながら、俺たち七人は最後の決意を確かめるように、ゆっくりと魔方陣に一歩踏み出した。


 あの後、俺達は隠れ家で休息を取ってからここまで一気に跳んできた。というのも、

「エルはテレポートが使えるから、王都までなら戻ってこれるよ」
「じゃあ、遠慮なく戻らせていただこう」

 というやりとりで簡単に山から戻ることができたのである。大きな力を使い果たした直後だというのに、一日二日休んだだけでさりげなく長距離のテレポートを提案してみせるエルの胆力には舌を巻かれた。おまけに、状況を総合的に判断しつつあっさり承諾してみせるアイザックさんの超効率主義にも。


 王都に戻ってから各々がしたことは、アイテムの手配と装備の確認、加えてレイラとエルは冒険者学校への辞表を手紙で出した。


 俺は入念な準備を終えて回想する。


 毒の手をめぐる、ささやかな旅。
 それは思えば、能力を習得した二年前から既に始まっていたのかもしれない。
 サイバード・シティには全ての鍵が揃っている。今はもうそんな気しかしなかった。


「いくよ……」

 誰からともなくそう言って、俺たちは転送陣に載った。


 金属の床にカラリ、カラリとそれぞれの靴音が響き渡る。

 ――ゴクリ。
 そう誰かが生唾を飲む音がした。


 テレポートの時に幾度となく見た光と同じように、魔方陣が白く光を放って煌めく。その眩しさに、両の眼が自然と閉じた。


 ワンテンポ遅れて、増幅された魔法が共鳴する、鈴のような心地よい音が鳴る。


 *
 体に光が差すような浮遊感。もう一度響いた音色と共に、俺達は目を開けた。


「わぁ……」「凄い……」


 それぞれの混ざりあったどよめきと同時に目に飛び込んできたのは、幾多もの建造物。スタンドに立て掛けた試験管よりも密集したそいつを見て、俺の喉からは声にならない声が漏れた。


 煙突よりも高く、万年筆よりも鋭く、天に向かって垂直に貫き続ける超高層建物群《ビルディング》。


 神に手が届くことをも恐れぬその高さは、理論と実証に裏打ちされたサイバード・シティ式魔法科学をそのまま体現しているかのようだった。



 密集した高層ビルの足元にはほとんど光が届かないが、その代わりに人工の光源が眩しすぎるほどに灯っていた。

 ライトアップされた摩天楼の下、光輝くネオンサイン。


 どこかの娯楽施設から漏れ出る帯状の光。紫や水色、黄緑など、七色のそれは駆け巡るように周囲のビルディングを照らし出していた。


 サイバード・シティの入口、厳重なゲートの前で俺達はその光景に目を見張っていた。


 特に驚きが強かったのは、唯一初見であるカリンだった。彼女は固まったように目を見張っている。

 いや、何度来ようと、外部の冒険者はこの科学の街の近景にしばし見とれることだろう。唯一目を奪われないのは、おそらくここの住人のみ。


 形容するなら、別世界、そして新世界。
 サイバード・シティはまさに俺達が過ごす日常とはまるで別物の世界だった。


 いつまでもうろうろしているわけにもいかない。

 アイザックさんを先頭に、それぞれが守衛にパスを見せる。バイザー付きの見たこともないヘルメットを被っていた。


 守衛は手元の機械で入国許可証を照合。俺の番も無事に通過し、あとに続くエルとレイラもすんなり入ることができた。二人とも表情は硬かったが。


 行っては行っては現れ続ける様々な店に吸い寄せられないよう注意しながら、七名の群れで街を進む。

 歩を進める度に新たな発見があり、見飽きることは無さそうだ。


 やがて俺達の一行は、他国の者が住む居住区に突入する。


「映画は観なくても良いのじゃな?」途中でカリンが言った。


「なんで今それを言う」


「ここに来たら観てみたいと言っておったではないか」


「……全部終わったらな。あのパスの期限はあと一年もあるし、ゆっくり楽しんだって損はないだろう」


「わしは時代劇が良いのじゃ」おかっぱの横顔、その黒い髪がさらさらと艶やかに揺れる。


「独りで勝手に観てろぃ」


 時代劇、それからカンザクのような忍者職の者。

 露店の前では、天秤を持って笠を被った黒髪で異装の男が、白銀の鎧を着込んだ金髪の騎士となにやら談笑している。


 異国情緒溢れるそのストリートを抜けながら、俺は軽口をカリンと叩きあっていた。

 東国の血を引く黒髪のカリン。そんな彼女なりに感じる郷愁、心の奥底に本能的に眠る心象風景がこの一角にはあるのだろう。


 通りを抜けると、科学の街には似つかわしくない、白塗りで塗装した小さな教会が姿を現した。

 そのレンガ造りの、先ほどの東国ストリートとのアンバランスさは不思議と街の喧騒の中に溶け込んでいた。

 ランプリットの近隣の国も、それどころか大陸の海すら越えた東国の異文化も、サイバード・シティは満遍なく吸収していた。


 この街はいわば、世界中から研究者、技術者が招聘される場所。

 カジノにゲームセンター、映画館。
 歓楽街では客引きの若い女が胸元を強調したシャツにショートパンツという、冒険者の盗賊職のような露出の多い服装でダーツバーの宣伝をしていた。

 お堅そうな人間のみが集まろうと娯楽産業が栄え、冒険者向けの観光が出来るほどだという事実は、職や身分やは違えど人間の根底はさほど変わらないことを示しているかのようだった。


 そんな遊興と浪費がおいでおいでをする街の中を。
 俺達は寄り道もせずにまっすぐ突き進んでいた。



 そんな全てが真新しい街の中でも、ひときわ目を引く超高層建造物《ビルディング》があった。

「ビルの隙間からてっぺんだけ見えてはいたけど……すごい迫力だ」


「……首が痛くなりそうです」カティアさんが感嘆とも呆れともいえないため息を吐き出した。


 その目指す先にある道標にして目的地である、ワイン・タワーの全貌が、ここに来てようやく見えてきた。

 正式名称は、サイバード・シティ魔法科学統合センター。

 そんな捻りのない鉄塔の愛称は、街じゅうのライトアップによって集まる光がちょうど葡萄酒のような色になってこの建物を照らし出していることから付いた名前だ。


 入口に入った時点でおぼろげに見えてはいたが、実際に近づいてみると想像以上の迫力だった。
 空を突く針は、いつか天辺を超えて世界に巨大な旗でも立てようかと夢想するかのごとく、コンクリートの地面に深く根を下ろしていた。


「――この色鉛筆の中に、俺達を招致した博士とかいう奴がいるんだな」



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