毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

5-6



「おい、起きろ! 起きろったら!」俺は彼女の体を揺する。


 しかし、どんなに言っても揺すっても起きない。
 かなり深い眠りのようだが……?


「コーキ君!」

 遠くのほうの地面から、懐かしい声がした。


 顔を上げると、アイザックさん達が中腹の平野に登ってきていた。


 アイザックさんの他にも久々のメンバー。カリン、カティアさん、ブラッドがそれぞれ小走りに駆けてきた。

 そして、レイラ。


「大丈夫だったかい!?」アイザックさんが俺の無事を確かめるように言う。


 皆が来てくれたことは、正直感激だった。


「助けに来てくれたんですね!」


「探すのにかなり骨が折れたけどね。

 そしてそこの彼女は――」アイザックさんはそこまで言ってレイラのほうを見やる。


「……ウタ――」倒れている彼女を一目見たレイラの口からか細い声が漏れ出た。


「まあ、来ないわけにもいかないだろうし、すんなり着いてきてくれたよ」


「そうなのか……

 それで、ここの彼女、急に眠りだしたんですけど、アイザックさん何か分かりますか!?」


 俺たちの元にやってきたアイザックさんが、倒れているウタを一目見て首を振る。


「――ダメだ、強大な術の影響で昏睡している。

 どう考えても、この山を囲っていたあの規格外の結界が原因だろう。

 あまりにも魔力を使いすぎたんだ。


 まずい、このままでは……」


「……え、そのうち目を覚ましますよね?」


 思わせ振りな口調に、俺が聞き返す。


 しかし、彼は再び首を振った。


「――このままでは、肉体と魂とのリンクが切れる」


「……それって……つまり」


「……」


「このままではこの小娘、じきに死ぬだろう」

 代わりに冷たく言い放ったのはブラッドだった。


「――そんな!」


 死ぬ。思ってもみなかったその単語に、俺はおののいた。


 と、光が遮られ、ウタの顔に影が差す。


「ウタ、どうしたというのだ……?」

 見上げると、俺とアイザックさんとの間に立って、眠る従者をぼんやりと見つめるレイラがいた。

 ウタの光を遮るレイラの姿が、不吉な暗示のように思えて、俺は彼女をにらみつけた。


 当の本人は、死の淵にある彼女を見つめて偉そうにしたまま呆けているだけ。


 そう思うと、にわかに怒りが湧いてきた。
 そして、心の中の知らない部分から大きなつむじ風が巻き起こるのを感じた。


「これはどういうことだ!」俺は茫然としているレイラに向かって言った。


「そんな、私は何も知らない――。ウタが、やったことだ……どうして、そんな…… これじゃあまるで、あの時の……」

 なんだか様子がおかしい気がしたが、関係ない。煮えきらない態度に、俺はさらに激昂した。


「主人なら従者のこと、わかってやるべきだろうがっ!」

 毒手を当てたという俺の過失による因縁はあれど、それとこれとは話が別。
 もう下手に出るつもりはない。


「――私に聞くな! お前こそウタに何をしたのだ! よもやお前が連れ去ったのではあるまいな 」

 我に返ったレイラが疑いの眼差しを向ける。


「なんだと……こっちは閉じ込められて大変だったんだぞ! 

 なんでも、彼女の“お願い”を叶えるためだとか……

 それにウタは、正式な従者は自分だけとか言っていた――だったらなおさらお前の監督責任だろ!」


「……お願い、だと?」レイラのこめかみが動いた。そんなことは知らなかった、とでも言いたげだ。


「ほら見ろ、やっぱり知らなかったんじゃないか!

 だいたいお前、カティアさんやウタが途中まで言ってた話を聞くに、十年前に何かあって、まだ決着をつけられてないみたいなようすじゃねーか!

 他人のこと攻撃するのは自分の問題解決してからにしやがれ、この――!」


 これ以上は単なる中傷だと気づき、ぐっと言葉を飲み込んだが、


「知ったような口を聞くな、自分のこと棚に上げて卑怯だぞ!」


 だがしかし、彼女がそんなことを口走ったので思いきって言い返す。


「間違いには俺だって相応の責任は取るし実際あれ以来冒険をほとんど止めたさ! 

 それで足りないなら従者になって雑用するなり技の練習台になるなりして下がったレベルや忘れたスキルの分まで埋め合わせてやる!

 けどあの時、『顔も見たくない。お前なんかどこかの山奥にでも引き込もってれば良い』って言って提案全部断ったくせに、今度はバッタリ出くわして、お前の気分次第でいきなり理不尽に命まで取られる筋合いは無いんだよ! 」


 彼女は一瞬俺の言葉にハッとしたようだった。

「くうっ……なんだなんだっ、ボスも一人で倒せぬ雑魚のくせに!」


「そんなん冒険者なら当たり前だっ! お前のワンマンプレイの常識がいつも通用すると思うなよ!」


「――こんな場所でケンカは止めんか! 師匠が今から説明してくれるのじゃ!」カリンが間に割って入った。


「コーキさん、落ち着いて!

  レイラも……ね? はい、深呼吸――」カティアさんが妹の背中をさすってなだめる。


 熱くなりすぎたか。
 それに、これ以上は一方的な逆切れになってしまう。

 俺は少し頭が冷えた。


 レイラが噛み付いてくるかと思って身構えたが、カティアさんにたしなめられ、思いの外しゅんとなっている。


 見た目はほとんど変わらないのに、その構図はやはり、歳の離れた姉妹。


“魂は”“十歳”の“神童と呼ばれた”レイラ。俺はウタが中途半端に言ったままの言葉を思い出した。


 つまり、十年前には七歳。その起算点で“事故”とやらが起こって、今は十歳?


 思い至る。すると俺は今、同い年の少女ではなく、十歳の女の子を相手にしていることになるのか?

 それも、すごく頭の良い、ものの考え方だけが幼い、十歳の女の子。


 もしかして……でも、だったらどういう事情でそうなるんだ?


「ほれ師匠、二人が落ち着いている間に早よう!」カリンが誘導する。

 説明をふられたアイザックさんは、


「コホン。」と一度咳払いをしてから言った。


「彼女を助ける方法は一つだけある」


「え、本当ですか!?」俺はレイラのことは一旦置いておいて、彼の言葉に耳を傾けた。


「じゃあそれを――、」俺は先をうながした。


「――“待て”」


「えっ?」


 誰のものか分からない低い声。それが彼の口から発せられたとはにわかには信じがたかった。


 ブラッドかと思ったが、違った。彼も腕を組んだまま、口をあんぐり開けて驚いている。


「だから、『待て』、と言ったんだ」


 せがむ俺をアイザックさんは制した。普段の彼にそぐわない口調。


「“俺”の話をちゃんと聞いてからでなければ、
 お前も死ぬことになるぞ――」


 山の空気がぞくりと冷えたように感じた。


「あ、アイザックさん?」俺は思わず後ずさった。

 眼鏡の上からはその正確な表情は伺えない。


 彼は口を開いた。


「危険な方法だ。そう、最悪全員死ぬかもしれないな。

 お前達に、その覚悟はあるか」


 押し殺したような低い声。いつものアイザックさんじゃない。


 ――黒い。直感的にそう感じた。





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