毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

5-5


 崖道は、歩く度にごつごつしたチョコレート色の岩場の感触が靴底を越えて足に伝わってきた。 


 そのくせ、岩の苔むした部分がつるつるしているため、足場が非常に悪い。


 本当にここを登っていくのだろうか。


「ウタの結界でなんとかならないのか?」もう足が痛くなってきている。


 しかし彼女は首を振って言った。
「あーごめん、テレポートはいろいろと制約があるから無理なんだ。魔物の気配が無い場所、とかね」


「ああ、なんか少しでも楽になることを期待した分余計に疲れたあああ……」


「冒険者あるあるだねえ」

 ウタは共感したのか頷くと、崖の上を指さして言った。

「でも、ここを登れば山の中腹、ワイバーンが飛んでるとこだからあと一息だよ!」


「おお、もうちょいじゃ……頑張るのじゃ、俺……」


 そして。


「つ、着いたぁ……」


 視界が開けて、青空を望めるだだっ広い場所に出た。目的地の中腹だ。


 木は一本も無く、草本類が生い茂っている。
 後ろを振り向くと、今まで歩いてきた道が見えた。
 緑の中に一つだけ、赤い人工物。隠れ家の屋根だ。直線距離で見ると、案外近くらしい。


 しかし、ワイバーンなんてどこにも居ないが。


 と。


「コーちゃん、上だよ!」


 ぶぉん、と何かを振り回すような音。

 続いて、揺れる草の葉。

 視界の端に捉えたそれは、大きな弧を描くと俺たちの前に降り立った。

 いかにも抵抗の少なさそうな流線系のフォルム。

 強靭(きょうじん)そうな赤い翼に比して、退化した脚は植物のツタのようにひょろ長い。


 こちらを見下ろす小型の翼竜。ワイバーンだ。


「来るよ!」


 ウタのいつになく真剣な声に、俺は体を引き締めた。


 グギャオォーー!


 戦闘開始の合図は、ワイバーンの叫び。

 続いての先制攻撃は、そいつが口から吐いた火の玉だった。

 熱気がぶわりと顔にかかり、目の前の草がじゅぅ、と熔ける。


 始動のタイミングを逃し、舌打ち。

 俺はポーションに手を掛けた。


「『ポーション投擲』!」



 風を切り、ランダムに選ばれた数本のポーションが宙を舞う。


 アシッドポーション。
 パラライポーション。
 ヒールポーション(小)。
 ロックポーション。


 回転しながら放たれたそれらはワイバーンに命中し、酸のダメージ、左の翼に麻痺、小回復、そして食い込んだ岩石によるダメージをそれぞれ与えた。


『ポーション投擲』のスキルは、予備動作を最小限に抑え、道具袋のポーションを三~六本、目にも止まらぬ速さでランダムに射出するものだ。


 ギャンブル性が強い技のため、戦闘の最初だけ使うのがもっとも堅実なやり方だ。


 最高最悪に運が悪ければ、回復薬が三本射出される。


 今回はヒールポーションが一本だけだったので、まあまあの戦果だ。


「こっちからもいくよ。 『ソニックタイム』!

 ――速くなぁれっ!」


 ウタがソニックタイムの魔法を唱えると、体が軽くなった。


「補助魔法サンキューっ」地面を蹴る。よし、このまま毒手で――、


「『ジャックナイフ・ジャック』!」

 俺がワイバーンとの距離をつめている間に、ウタがベルトに仕込んであった無数の投げナイフを一直線に放った。

 ナイフ群はワイバーンに当たってその身を突くと、数本が下に落ちた。


「あーもー、弾切れっ!」ウタはベルトのバックルをまさぐると、落ち着きなくワイバーンの方に駆け寄った。


 敵側の地面に落ちたナイフを拾いなおすウタに、ワイバーンの意識が集中している。

 今だ!

「毒の拳を食らえっ!」


 ブラッドに与えられた技。

『毒気槍』はうまくコントロールできなかった。

 しかし、『蝕狼撃』ならば――、いけるか?


 一応、ここに閉じ込められている間に何度も練習した。


 なるべくチカラを抑えるようにして、小型の狼をイメージする。


「『蝕狼撃』!」


 二匹の小さな獣を模した毒が放たれ、生き物のようにワイバーンに突進した。


 うまくいった!

 毒狼はワイバーンの翼に噛みつき、その羽ばたきを封じた。


 ウタがたたみかける。


「まだまだ! ガンガンいくよ! そしてとどめだよ! 必殺! 」


 ワイバーンの周りに現れたのは、四角くてピンクのバリアのような結晶体。

 結界だ。


 四つの結界は衛星のようにワイバーンの周囲の空間に張り付き、ゆっくりと回転する。


 ウタがパチン、と指を鳴らした。


「『リジェネレーション・オブ・サテライト』! 」


 結界から属性付きの魔法レーザーが放たれ、ワイバーンに炸裂する。


 やった!


 ワイバーンは散り散りになったいくつかの残骸――素材アイテムだ――を残すと、砂となって消滅した。


 ワイバーンの痕跡が残る地面。俺は目的の素材、『燃えている雫』とその他こまごました戦利品を採取する。


 戦闘は快勝だった。
 もっとも今回は、彼女の力によるところが大きかったが――、


「!?」


 ドサリ、と草に何かが落ちる音。


 後ろを振り向くと、ウタが倒れ込んでいた。


「! おい、大丈夫か!?」俺は駆け寄る。


「えへへ、限界……」


 ウタは息も絶え絶えに言った。

「……私が倒れたってことは、ついに結界を破って来たみたいだね。

 レイラ様、ううん、――三、四、五人。

 コーちゃんのお仲間も一緒ね」

 目を閉じて言う彼女。
 声がかすれていた。

 一気に生気が抜けたかのような、疲れきった雰囲気。
 いつもの冗談にはどうしても見えなかった。


「――引導は渡したよ、コーちゃん」


 彼女はそう言い残して、草の上にすやすやと眠った。





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