毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

5-2

「……構わない、聞かせてくれ」


「おっけ、後悔は無しだよ」

 そう言うと、語り始めた。


「むかーしむかし、といっても十年前のできごと。当時、レイラ様は七歳でした。


 幼い頃から冒険者としての才能を既に表し始め、その年齢でエーテル・エペの冒険者学校に入学。

 神童としてもてはやされました。


 それからもう一人、彼女にはエルという友達がいました。冒険者学校で知り合った、歳上のね」


「エル……さっきもカティアさんが言ってたのを聞いたけど、たしか、あのお墓の……」


「二人はとっても仲良しでした」


 そこまで言うと、聞いてくる。

「サイバード・シティは知ってるよね?」

「ああ、もちろん。何か関係が?」


 サイバード・シティは、ここランプリット王国にある科学の発達した都市で、特別に自治権限が与えられている唯一の場所だ。

 魔方陣を機械で増幅させるしくみの王都の転送装置のような、魔法と科学を組み合わせた技術がこの街の中枢を担(にな)っている。

 これは前アイザックさんが話してくれたことで、詳しいことは不明だが、なんでもある一人の博士がこの都市の発展に深く係わっているらしい。

 非常に閉鎖的な場所で、住民や政府関係者でない者がここに入るには特別なパスが要る。

 一応政策として冒険者向けに観光を行っているが、それすら限定的なもので、ギルド基準でのレベル140が必要だ。


 そこが、どうしたって?


「冒険者学校の授業の一貫で――調合科だったからね、特別にサイバード・シティで施設を見学しました」


 俺も調合科だったので、卒業の年に見学に行った。
 同じ星の同じ国に、こんな世界があるのかと心底驚いた。
 いつになるかは分からないが、今度は強くなって観光したいと心から思っている。


「自由に施設を見て回れる時間があって、途中、エルは博士か誰か、いかにも偉そうな人にこっそり呼び出されました」


「博士?」


「うん。おおかた、調合の研究者だろうね。

 その様子を見ていたレイラ様は、後についていきました」


「そこでは実験が行われていて、装置に繋がれたエルが。

 なんと、どういうわけか被験者はレイラ様の親友だったのです。

 レイラ様が室内に踏み入ろうとしたとき……」


 ウタはそこで両手をぶわりと広げた。


「どっかーん! 爆発事故」


「な……

 爆発事故!?

 それで、そのエルという友達は無事だったのか?」


「――今、ウタが話せるのはこれくらい」


 言って、彼女は中途半端に話を止めた。


「なんだよ…… 結局、レイラが今のレイラになった――とでも言えばいいのか? その理由まで繋がらないじゃないか。

 事故に遭ったのは彼女じゃなくて、友達のエルの方だし」


「話の続きはもっと時間が経ったらね。どのみち、ここには長くいることになるんだし」


「?」


「そういうことだから、どうかお願い!」


「いやいやいや」

 俺は手で空を切って制止する。

「お願いを聞くも何も、そもそも俺はウタと初対面だし」


「初対面でも、君がどんな人かは知ってるつもりだよ? ウタはレイラ様の役に経ちたくて一年間コーちゃんのこと調べてきたからね」


「えええ」

 どこまで調べるかにもよるけど、それヤバくね? ウタって、なんというか、純粋だけどネジが外れたまま変な方向にぶっとんでいる。


「でも調べるうちに、コーちゃんがレイラ様が言うような人じゃ無いことがわかってきてさ。

 それでさっき、危うく真っ二つにされそうになってたところを助けたってわけ。それも、ウタ自身のお願いを持ちかけるかたちで」


「……」


 今までレイラが家を訪ねてくるようなことが無かったということは、ウタは調べても現在の俺の居場所まではつかめなかった、もしくは知っていても報告しなかったという二つの可能性が考えられる。

 前者なら俺の過去、後者なら加えて一年間の行動まで把握しているだろう。

 どちらにせよ、俺をよく知っているということが、ウタにとって自分の『お願い』を聞いてもらえる確率を上げるカードになるのは間違いない。


「レイラって…… さっき、教官て言ってたよな。

 じゃあウタは生徒なのか?」


 とりあえず、話を反らす。

 彼女は首を横に振った。


「正確にはウタはもう卒業していて補助。冒険者学校のOB扱いだけど、人並みに冒険者もやってるよ」


「ああ、卒業生なのか」

 てっきりウタは現役の生徒なのだとばかり思っていた。


「コーちゃん、一年前レイラ様と冒険した時、ウタと会わなかったこと不思議に思ってるでしょ?

 カンザク達――あいつらは、レイラ様ファンの冒険者なんだけどね――は自分達のことを親衛隊って言うけど、本当の側近はウタなんだ。

 他にもパーティーを組むときの取り巻きはいるけど、正式な主人と従者の関係にあるのはウタだけ」


「従者、ねぇ」


「で、あの時ウタはちょうど体調を崩しちゃってて。

 たいしたこと無かったから、従者として頑(かたく)なに同行しようとしたけど、レイラ様が『君にもしものことがあれば私は……』って泣きつくものだから仕方なくお休み。

 それくらいレイラ様、ウタのこと大切にしてくれるんだよ」


「なるほど」

 ウタがレイラのなんなのか知りたくて質問したのだが、そういえば一年前にパーティーを組んだとき、俺は彼女と会わなかった。


 それにしても、あのレイラが……

 意外な情報だ。


「……協力、してみてもいいかもしれん」

 俺は言った。一応、助けてもらった義理はあるし。それに、このまま拒んでいても事態は好転しないだろうから。


「うっひょー、ありがとう」ウタは手を叩いた。


「協力するとして、俺はどうすれば?」


「うーん、ここで待ってれば良いんじゃない?」


「え、それだけ」


「うん。ウタのお願いは、レイラ様がここに来てくれさえすればその時点で、半分叶うから」


「ここに来させるって、何をするつもりだ」


「あ、別にコーちゃんに危害を加えるわけじゃないよ」


「なら、俺は何をすればいいんだ」


「うーん、どうせその時になれば分かるんだから、コーちゃんはそれまで、ここで待ってれば良いんじゃない?」


「おいおい」


「レイラ様もコーちゃんのお仲間も、じきにウタ達のことを探しに来るでしょうからな~」


「え、じゃあ……」


「しばらくはこのあたりで身を隠してたほうがいいと思うよ。

 まあ、そんなことしなくても勝手に結界を破って逃げ出すことは出来ないんだけどね」


「はっ?」


 今、なんて。


「言い忘れてたっけ?

 結界は古代文字でパスワード……まあ自由なかたちに作れる鍵みたいなもんだね、を設定できるんだけど、

 その解除条件を『外側の人間がここを見つける』にしておいたから、コーちゃんはしばらくここから出られないね、ハハハ」


 ……は? 出られない?助けが来るまで? 

 頭の中で彼女の言葉を繰り返す。嫌な汗が背中をつたった。


「あ、ウタは術者だから自由に出入り出来るし、ここの麓にある村で生活品とか買い物する。

 コーちゃんはしばらく、この山の結界の範囲内で狩りに行ったり、ポーションでも作ったりして生活の足しにしてね」


 俺が何か言葉を返そうとあわてふためく間に、ウタは「行ってきま~す」と言って出ていった。

 そういうことを言われると、まるで俺が彼女と同居してるみたいだ。


 …………。


 いや、これってむしろ……。


 同居という名の、監禁?









「毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く